日本大百科全書(ニッポニカ) 「スキー競技」の意味・わかりやすい解説
スキー競技
すきーきょうぎ
スキー競技は、北ヨーロッパで発達したノルディック競技と、中部ヨーロッパ・アルプスでイギリス人によりつくりだされたアルペン競技に大別される。
[福岡孝純]
ノルディック競技nordic skiing (events)
ノルディック(北方の意)の名が示すように、もともと北ヨーロッパ、スカンジナビアで発達した競技で、丘陵の多い土地柄を反映して、その競技のおもなものには、スキーをはいたクロスカントリー競技(距離競技)とジャンプ競技とがある。
[福岡孝純]
クロスカントリー競技cross country ski racing (events)
クロスカントリー競技には、ディスタンスとよばれる長距離と耐久、およびリレー等がある。
クロスカントリースキーには、技術的に次の2種類がある。
(1)クラシカルテクニック 基本的にスキーを前後に動かす動作しか認められていない。このテクニックには、ダイアゴナル(交互滑走)、ダブルポーリング(推進滑走)、滑走を伴わない開脚登行、滑降、ステップとストックプッシュで構成されるターン等の技術である。ターン技術はコース内に平行に引かれたトラック(深さ2~5センチメートル、左右の中心から中心までの間隔が17~30センチメートルの溝)がセットされている箇所では認められない。
(2)フリーテクニック クラシカルテクニックに加えてスケーティングテクニック等、スキーテクニックを自在に駆使できる競技である。実際は、スケーティングが主でフリーテクニックといえばスケーティングと考えてよい。通常下り以外の箇所では、トラックは設定しない。
今日国際的に標準となっているのは、長距離は男子が10~15キロメートル(以下キロと略記)、女子は5~10キロ、耐久は男子が30~50キロ、女子は15~30キロ、リレーは男子が30~50キロを4人で走るが、40キロ(10キロ×4人)がもっとも多く、オリンピックや全日本選手権など公式競技はこれで行われる。女子は20キロを5キロずつ4人で走る場合が多い。長距離や耐久ではスキー操作、耐久力がテストされるが、長距離はスピード化する傾向が強い。コースは原則として登り、平地、下りの部分の合計が3分の1ずつになるようにつくられるが、国際競技では登り下りの変化が激しくなりつつあるのが最近の傾向である。
FIS(国際スキー連盟)の規定では、男子種目は10キロ、15キロ、30キロ、50キロおよびリレー(10キロ×4人)、女子種目は5キロ、10キロ、15キロ、30キロおよびリレー(5キロ×4人)となっている。30キロ以上は耐久競技ともいう。男子の出場年齢は満20歳以上で、50キロに出る選手は医師の診断を受けねばならない。コースの標高差は30キロまでが275メートル、30キロ以上は350メートルと定められ、30キロ以上では途中少なくとも3か所(15キロ以下は1か所)に公式休息場を設け、スポーツドリンク、温かいミルクなどを与える。抽選で出発順位を決め、30秒あるいは1分(耐久は1分)間隔でスタートし、ゴールインまでの経過時間で勝敗を決める。スタートはインターバルスタートのほかにマススタートもある。これは、全選手一斉に矢じり型にセットされたスタートラインから出るが、強い選手が一番前に出るハンディキャップスタートである。前の走者に追い付いたときは「バーンフライ」の声をかけ、走路をあけさせる。3回声をかけても応じない場合、前走者は失格となる。スキーを折ったり締め具を壊した場合、片方だけなら取り替えることができる。
[福岡孝純]
スプリント競技sprint
コースの長さは400メートルから1800メートル。予選を通過した選手が1組4~6人に分かれて上位2人が勝ちあがっていき、トーナメント方式で競われる。
[福岡孝純]
パシュート競技pursuit
前半をクラシカルテクニック、後半をフリーテクニックで走る競技で、前半と後半の間に1時間半以上休憩を設ける。また、休憩なしで続けて行うものがスキーアスロンskiathlonという名称で2011年より行われている。
[福岡孝純]
ジャンプ競技ski jumping
大きな滑り台のような助走路を時速100キロ内外のスピードで滑り、踏切りから空中に飛び出し、飛行曲線に沿った着陸斜面に着地する豪快な競技で、飛距離と空中姿勢の安定性・優美さなどを競う。採点は、飛型については(1)助走の安定、(2)踏切りの強弱およびタイミングの良否、(3)空中姿勢の優美と安定、姿勢(スキー)の乱れの直し方、(4)着陸の円滑、安定などについて、5人のジャッジが20点満点で採点し、最高と最低を除いて中間の三者の合計点を出し、飛距離については、各ジャンプ台ごとに定められたK点(建築基準点)に着地した場合を60点とし、K点を基準として1メートル単位で得点を加減、その合計点で順位が決められる。通常は2回の試技によりその合計点で決定される。世界選手権、オリンピックなどの公式競技では、ヒルサイズ(テイクオフの先端から着地区域の終点までの測定距離)が110メートル以上のラージヒル、ノーマルヒル(ヒルサイズ85~109メートル)の二本立てで行われる。複合競技に対して純ジャンプ(競技)ともいう。
このほか巨大なジャンプ台を用いたフライングヒル(ヒルサイズ185メートル以上)が行われている。
[福岡孝純]
複合競技nordic combined
ノルディック・コンビネーション、コンバインドともいい、距離(10キロ)とジャンプの総合成績で争われる。採点は、距離については優秀3選手の平均タイム(240点)を基準として、それよりよい場合には加点、悪い場合には減点し、ジャンプについては3回行い、そのうちのよいもの2回を得点の対象として行われていたが、現在はジャンプ競技の得点を時間差に換算して距離競技のスタート順を決めるグンダーセン方式が採用されている。
[福岡孝純]
アルペン競技alpine skiing
その名で示すようにヨーロッパのアルプス地方で発達し、その後世界に広がった。アルペン競技が最初に世界に紹介されたのは、イギリスのアーノルド・ランArnold Lunn(1888―1974)がハンネス・シュナイダーHannes Schneider(1890―1955)とともにオーストリアのザンクト・アントンで1928年に始めたアールベルク・カンダハー・レースである。初めての国際競技はFISによってスイスのミュレンで1931年に行われた。1936年ドイツのガルミッシュ・パルテンキルヘンの第4回冬季オリンピック大会から正式種目に採用された。当初は回転(スラローム)と滑降の複合競技であった。日本では1937年(昭和12)に新しい複合競技(スラロームと滑降の成績の合計)として採用された。第5回大会(1948・サン・モリッツ)に回転と滑降が独自の種目として採用され、第6回大会(1952・オスロ)から大回転(ジャイアントスラローム)が加えられた。今日ではさらに、スーパー大回転も行われるようになった。
[福岡孝純]
滑降競技down hill
高速における技術、勇気、持久力などをテストする競技で、ヘルメットの着用と通常2日間の公式練習が義務づけられている。オリンピック、世界選手権、全日本スキー選手権等の公式競技は所定の公認コースで行われる。コースは、オリンピック、世界選手権の場合(以下同)、標高差男子800メートル以上1100メートル以下、女子500メートル以上800メートル以下で、コースの幅は30メートル以上(地形を利用したコース設定)、平均斜度は15度前後であるが、ストックを使うことなく全コースを滑ることができ、急峻(きゅうしゅん)で困難な箇所を含み、スピードの出るようなコース設定になっている。最近のレースは平均時速100キロ、瞬間では140キロを超えるスピードで争われる。
[福岡孝純]
回転slalom
スラロームともよばれる。旗門によって定められたコースを高速度のターンを連続させて、できるだけ短時間で滑る競技で、高度の技術が要求される。レースは2回滑った、その合計タイムで争われる。2回目は1回目の旗門セットとまったく異なったセットをたてる。コースは、標高差男子180~220メートル、女子140~220メートルとし、少なくともコースの4分の1は30度以上の斜面を使用しなければならない。またコースの試走は許されない。コースは種々のターンを安全かつ迅速に行えるようにセットされるべきで、曲芸的なものを含んではならない。旗門数はスタートとゴールを入れて、男子は55~75双、女子は45~60双、旗門の幅は4メートル以上6メートル以下、旗門と次の旗門の間隔は75センチメートル(以下センチと略記)以上とする。滑降中に旗を倒しても旗が立っている地点を通過していればよく、旗門を結ぶ線上およびゴール線上は両足で通過しなければならない。旗門に使用するポールの色は、赤・青で、雪上高さ1.8メートルにセットされる。ポールはフレキシブルで、倒しても元に戻る(可倒式)。スラロームの平均時速は国際級の選手で25~30キロといわれている。
[福岡孝純]
大回転giant slalom
ジャイアント・スラローム、リーゼンスラロームRiesenslalom(ドイツ語)ともよばれる。滑降と回転の中間的な性格をもち、滑降がますますスピード化して危険度を加え、スラロームがますます技巧化し曲芸化してゆく傾向をみて、ギュンター・ランゲス博士が考案したもの。
コースは、標高差男子300~450メートル、女子300~400メートルで、幅4~8メートルの旗門(関門)を30双以上、関門と次の関門の間は10メートル以上とする。斜度は大部分が25度から30度で、コースの幅は40メートル以上が国際的な標準コースである。スラロームの倍以上のスピードが出るので、旗の大きさは75センチ×50センチ、旗の下端を雪上から約1メートル以上離して見やすくする。平均時速は45~50キロ、最大時速は男子で65キロ(女子は45キロ)以内を目標とする。このようにルールは滑降に近く、コースは滑降に準じて用意される。レース前日に練習することが許され、滑降と同じくヘルメット着用が義務づけられている(着用しないと失格)。
大回転は、滑降と回転の両方の技術が必要とされるから、アルペン3種目中1種目しかできない場合には、大回転を行うのが普通である。
[福岡孝純]
スーパー大回転super giant slalom
スーパーGとも略称される。滑降、回転、大回転がそれぞれ専門化されすぎ、興味が偏るようになったため開発された。大回転と滑降の中間をねらったスピーディーなレース。旗門は男子35双、女子は30双。標高差は男子400~650メートル、女子400~600メートルで、男女ともに途中に地形が許せば、ジャンプ台を(1)方向をかえるもの、(2)方向をかえないもの、について設置する。それにより、スピードにスリルが加わった。
このほかに、アルペン複合競技があり、スピード系と技術系種目の合計タイムを競うスーパーコンバインドsuper combinedが現在は主流である。
[福岡孝純]
フリースタイルスキーfree style skiing
アメリカやカナダから始まった、見て楽しむショー的な要素の多いスキー競技。すべて男女共通の施設を利用する。
[福岡孝純]
モーグルmoguls
こぶ斜面での正確でスピードに乗った滑りに、コース上2か所に設置されたジャンプ台から跳んでトリック(エア)を行うなど、高度な空中感覚が求められる種目。ジャッジはターンの質、スピード、エアの完成度を見る。コースは全長200~270メートルで、傾斜は平均24~32度の斜面である。
2人同時に斜面を滑るデュアルモーグルは予選をシングルで行い、決勝は上位男子16人、女子8人がデュアル形式で行う。スタミナも要求される。コースは原則的にシングルと同じである。
[福岡孝純]
エアリアルaerials
特別な助走路つきのキッカーとよばれるジャンプ台を跳び出し、空中の演技から着地までを採点する。ジャンプは3回転までとし、ジャンプとひねりの回数を難度点に含め得点化、現在の最高は5回ひねりである。
ジャンプ台は高さや跳び出し角度の違うものが設置され、難度を上げたい場合は高さが4メートル、跳び出し角度は70度のキッカーを使う。競技は予選を1回行い、上位10~12人が決勝へ進出。決勝は1回、予選との合計点で争われる。予選と決勝では異なるジャンプを行う必要がある。上位目標は男子では3回転、3回以上のひねりが目安。
7人の審判がおり、うち5人がジャンプや空中ひねり、2人が着地審判とし、双方の得点の合計に難度点を掛け算したものが総合得点となる。
[福岡孝純]
スキークロスski cross
フリースタイル競技で唯一ジャッジでなくスピードで競う。全長1キロメートル、約60秒未満でゴールするコースを、4~6人が同時にスタートし、バンクやウェーブ、ジャンプ等の障害物をクリアしながらトーナメント方式で着順を競う。
競技方法は、2着までの選手が勝ちあがり、次ラウンドへ進み、最終的に決勝で先着した者が優勝である。予選はスキークロスコースを1人ずつ滑り、タイム順に男子32人、女子16人が決勝へ進む。駆け引きも含む多面的な能力が必要とされる。
[福岡孝純]
ハーフパイプhalfpipe
スノーボード種目のハーフパイプと同様、半円筒状のコースを左右に4~6回のヒットといわれる空中トリックを行う。
競技方法は、予選で2回滑り、よい方のスコアを採用する。上位8位または12位(競技会ごとに任意)が決勝に進む。決勝でも2回滑り、よいスコアが最終成績となる。トリックは踏切、着地、回転の難度により判断。またトリックの高度があるほど高得点、また動作のスムーズさも重要である。コースは長さ120メートル幅15メートル。パイプの深さは5.2メートルのFIS規定にあわせてつくられる。
ジャッジは5人の審判(審判1はジャンプの質、審判2はジャンプの難易度、審判3はジャンプの高さ、審判4、5は総合的にジャッジするオーバーオール)により採点される。各審判の持ち点は10点で、満点は50点となる。
このほかにスロープスタイルslopestyleという、スキー場の斜面の各所にジャンプ台を設けて技術を競う種目がある。
[福岡孝純]
『全日本スキー連盟編著『競技スキー教程』(1989・スキージャーナル)』▽『全日本スキー連盟編著『競技スキー教程 クロスカントリースキー編』『競技スキー教程 フリースタイルスキー編』(2000・スキージャーナル)』