ステンレス製鋼法(読み)ステンレスせいこうほう

改訂新版 世界大百科事典 「ステンレス製鋼法」の意味・わかりやすい解説

ステンレス製鋼法 (ステンレスせいこうほう)

初期のステンレス鋼は,電気炉で炭素鋼屑を溶解し,鉄鉱石で脱炭した後,低炭素フェロクロム合金を加えて製造された。ニッケル酸化損失がほとんどないから添加方法にとくに問題はないが,クロムは添加物の種類,添加方法および時期によって,歩留りに大きな差を生ずる。しかも,クロムの合金量は多いから,その歩留りの良否がコストを大きく左右する。したがって,ステンレス鋼製造の主眼点は,安価な含クロム原料を使って,クロムの酸化を防ぎながら,脱炭を優先的に進行させる点にある。精錬法には電気炉法,真空脱炭法,希釈ガス脱炭法がある。なお日本のステンレス鋼の年間生産量は約200万tであり,1970年以来世界で第1位を占めている。

従来のように溶鉄を鉄鉱石で脱炭する場合には,吸熱反応であるために,溶鉄の温度が上がらない。したがってステンレス鋼屑を原料に使う試みがなされた。ところがクロムの酸化にともない流動性の悪いスラグができて,精錬に支障をきたす。しかし1940年代後半に,安い工業用酸素が精錬に使えるようになって,事情は一変した。酸素による脱炭は,鉄鉱石による脱炭と異なって吸熱反応がなく,高温脱炭が可能である。高温時には,溶鉄中のクロムの酸化を抑えながら,溶鉄中の炭素を優先的に酸化させることができるため,安いステンレス鋼屑の使用が可能になり,耐食性のよい極低炭素の鋼種がつくられるようになった。しかし現在ではこの方法による生産は,ほとんど行われていない。

1950年代には,蓄積されていた大量のステンレス鋼屑も尽き,他の安い含クロム原料として,高炭素フェロクロムを大量に使う研究が行われた。一方,ステンレス鋼の品質向上のため,真空処理も行われるようになったが,未脱酸の含クロム溶鉄を真空処理すれば,クロムの酸化を抑えながら脱炭できることがわかり,まず極低炭素鋼種の製造に脱ガス設備が利用されるようになった。つづいて,真空処理中での脱炭量を増して,電気炉における高温下での脱炭負荷を軽減する方法が検討された。これらの研究から,67年にはVODvacuum oxygen decarburization)法が生まれた。すなわち,電気炉または転炉で溶解,予備脱炭した含クロム溶鉄を入れた取鍋(とりなべ)を真空槽内に移し,取鍋の底からアルゴンガスを吹き込んで溶鉄をかくはんしつつ,溶鉄の表面に酸素ガスを上吹きして,クロムの酸化を抑えながら脱炭を行わせる方式である。

酸素-アルゴンの混合ガスを含クロム溶鉄に吹き込むと,酸素ガスのみの場合に比べて,発生する一酸化炭素ガスの分圧が下がり,クロムの酸化を抑え,優先的に脱炭を行わせることができるという着想に基づき,68年にAOD(argon oxygen decarburization)法が開発された。この方法は転炉に似た炉の底部に二重管羽口を設け,内管には酸素とアルゴンを,外管には冷却兼希釈用のアルゴンガスを通して,羽口の溶損をも防ぐ構造になっている。炭素濃度が下がるにつれて,希釈用のアルゴンガスの比率を増す。真空脱炭法,希釈ガス脱炭法の出現により,含クロム溶鉄の脱炭が容易になったため,高価な低炭素フェロクロムにかわって安価な高炭素フェロクロムがより多く使用されるようになっている。
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