日本大百科全書(ニッポニカ) 「タラス・ブーリバ」の意味・わかりやすい解説
タラス・ブーリバ
たらすぶーりば
Тарас Бульба/Taras Bul'ba
ロシアの作家ゴーゴリの中編小説。初め作品集『ミールゴロト』(1835)に収められ、1842年に大幅に手を入れた最終稿が発表された。『隊長ブーリバ』の邦訳名もある。17世紀のころ、ドニエプル川下流のザポロージエを本拠とするコサックの隊長タラス・ブーリバは、ポーランドの都市ドゥブノを包囲中、敵将の娘と恋に落ちて敵方へ走った次男を自ら射殺するが、長男は捕虜となって処刑され、その後自分もドニエストル河畔で捕らえられ、火あぶりの刑に処せられて壮烈な最期を遂げる。この作品は、ロシアの作品に類例の少ない英雄叙事詩的なパトスと、フランスのラブレー風の野放図(のほうず)なユーモアに満ちた色彩豊かな歴史小説で、作者の意図は、矮小(わいしょう)化した無気力な同時代に、ウクライナの英雄的過去を対置することにあったと思われる。批評家ベリンスキーはこの作品を「ホメロス的叙事詩」のロシアにおける「最高の模範」と評した。
[木村彰一]
『灰谷慶三訳『タラス・ブーリバ』(『世界文学全集28』所収・1977・講談社)』▽『『隊長ブーリバ』(平井肇訳・角川文庫/原久一郎訳・潮文庫)』