情念、情動、衝動、情熱などと訳され、ロゴスlogosに対する。ラテン語ではpassioと訳され、近代語のpassionはそこから由来する。もともとは古代ギリシア語の「受ける」「被る」を意味する動詞のpascheinから派生した語で、その根本義は「受けた情態(受態)」である。したがって、広くは、何事であれ事物が「受けた変化状態」を意味したが、狭くは、特別に「人間の心が受けた情態」を意味する。受動性・可変性がその特徴であり、その時々の内外の状況に応じて、人間の心が陥る気分・情緒を総括する。
理性の判断とは異なる源泉から由来するもので、「快」「苦」の情がその基本であり、古典倫理学では快・苦の情を理性の判断に従わせることが「徳」とされた。しばしば理性の命令に反抗するところから、ストア派ではパトスは病気といわれたが、それは覚醒(かくせい)的意識よりも意識下の根源衝動に関係づけられるものであり、人間存在の置かれている(表層的、ないし根源的)存在状況を代表するものとして、むしろ人間存在の根源性を開示するものといえる。
[加藤信朗]
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…そこで,情念がなぜ同時に〈受動〉〈受苦〉〈受難〉などを意味しうるかであるが,それを明らかにするにはどうしても語源にさかのぼることが必要である。すなわち,情念=パッションは,語源的にはギリシア語のパトスpathos,ラテン語のパッシオpassioに由来し,元来,他から〈働きかけを受けること〉を意味している。そしてそのようなありようには,いろいろな側面がある。…
…そこはかとなく身にせまる悲しい情感のこと。英語の音をそのまま移した語で,同様のユーモア(諧謔)との対比を意識して用いられることが多い。〈哀愁〉〈哀感〉〈悲哀〉〈悲傷〉などとも訳される。語源はギリシア語のパトスpathosにあり,パトスとは〈何かされる〉という受身のあり方を本義として,ここから受難や被害の意を経て,激しい感情に襲われた心の情動や情念,ひいては苦悩を意味するまでになっている。同じギリシア語のエトスethos,ēthos(習慣,性格)やロゴスlogos(言葉,理性)が人間精神の能動的・理性的で持続的な側面をあらわすのに対し,パトスは受動的・感情的で一時的な状態を語ろうとし,ここに激しさも盛り込まれるのである。…
…知,情,意によって代表される人間の精神作用の総体,もしくはその中心にあるもの。〈精神〉と同義とされることもあるが,精神がロゴス(理性)を体現する高次の心的能力で,個人を超える意味をになうとすれば,〈心〉はパトス(情念)を体現し,より多く個人的・主観的な意味合いをもつ。もともと心という概念は未開社会で霊魂不滅の信仰とむすびついて生まれ,その延長上に,霊魂の本態をめぐるさまざまな宗教的解釈や,霊魂あるいは心が肉体のどこに宿るかといった即物的疑問を呼び起こした。…
…そこで,情念がなぜ同時に〈受動〉〈受苦〉〈受難〉などを意味しうるかであるが,それを明らかにするにはどうしても語源にさかのぼることが必要である。すなわち,情念=パッションは,語源的にはギリシア語のパトスpathos,ラテン語のパッシオpassioに由来し,元来,他から〈働きかけを受けること〉を意味している。そしてそのようなありようには,いろいろな側面がある。…
…〈哀愁〉〈哀感〉〈悲哀〉〈悲傷〉などとも訳される。語源はギリシア語のパトスpathosにあり,パトスとは〈何かされる〉という受身のあり方を本義として,ここから受難や被害の意を経て,激しい感情に襲われた心の情動や情念,ひいては苦悩を意味するまでになっている。同じギリシア語のエトスethos,ēthos(習慣,性格)やロゴスlogos(言葉,理性)が人間精神の能動的・理性的で持続的な側面をあらわすのに対し,パトスは受動的・感情的で一時的な状態を語ろうとし,ここに激しさも盛り込まれるのである。…
※「パトス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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