イングランド北東部の都市、ダーラムにあるイギリス・ロマネスク様式の大聖堂。樹木に覆われた傾斜の強い丘の上にそびえ、イギリス聖堂建築のなかでとくに威厳のある外観をみせる。1093年起工、1135年ごろまでに内陣からアプス(後陣)に及ぶ部分と身廊の穹窿(きゅうりゅう)がまず完成し、1170~75年には西端部にナルテックス(前廊)が増築された。さらに1217~26年に西側正面(ファサード)の双塔が建立され、1242年に「九祭壇の礼拝堂」とよばれる翼廊の整備が完了した。1986年にダーラム城とともに世界遺産の文化遺産として登録されている(世界文化遺産)。
この聖堂の様式は本質的にはロマネスクであるが、細部にはノルマン侵入(1066)後に発達したアングロ・ノルマン様式が顕著に認められる。まず身廊や内陣におけるリブ穹窿の出現で、ヨーロッパの聖堂建築ではもっとも早期に属する。次に身廊の側面における明層(あかりそう)、小アーチ、大アーチの三層構成に示される立体性と、それによる旋律的な効果である。さらにアーチの縁や円柱に施されたノルマン独自の幾何学模様が、堂内に一種の神秘的な雰囲気をもたらしている。ノルマンの建築家たちが残したこれらの成果は、やがてイギリス・ゴシック建築への飛躍台となった。
[濱谷勝也]
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