改訂新版 世界大百科事典 「テイタム」の意味・わかりやすい解説
テイタム
Arthur (Art) Tatum
生没年:1910-56
ジャズ史上最大の黒人ピアニスト。テータムとも呼ぶ。アメリカのオハイオ州トリードに生まれる。生来,片目は全盲,もう一方は極度の弱視であった。13歳でバイオリンを手がけたが,ピアノに転向してプロになり,やがて1932年にニューヨーク52番街のオニックス・クラブにおける演奏が注目された。38年にはロンドンで大成功を収め,43年以降タイニー・グライムスTiny Grimes(ギター),スラム・スチュアートLeloy(Slam)Stewart(ベース)を率いたトリオで活躍した。もしアート・テイタムが白人に生まれていたら,20世紀最高のコンサート・ピアニストの一人に数えられていたろう,と多くの人がいい,ホロビッツやゴドフスキが彼の生演奏を聴いて驚嘆したという話も残っている。またジャズ・クラブ備え付けのピアノの調律はたいてい狂っているが,彼はまずピアノの前に座り,鍵盤をサーッと弾いて狂っている鍵盤を頭に入れてしまい,本番ではそれらを使わなくてすむキーに移調して弾いたという話も残っている。彼自身は,カウント・ベーシーもピアノやオルガンを学んだファッツ・ウォーラーThomas Wright(Fats)Waller(1904-43)に影響をうけたと語ったが,デリケートなタッチ,溢れ出るイマジネーション,強力なスウィング感は,以後のピアニストに大きな影響を与えた。代表作は《アート・テイタム・ソロ傑作集 第1~12集》《アート・テイタム=ベン・ウェブスター・クァルテット》(パブロ),《アート・テイタム傑作集》(MCA)など。
執筆者:油井 正一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報