日本大百科全書(ニッポニカ) 「テノントサウルス」の意味・わかりやすい解説
テノントサウルス
てのんとさうるす
tenontosaur
[学] Tenontosaurus tilletti
鳥盤目鳥脚類(ちょうきゃくるい)(亜目)エウオルニソポッド類(真鳥脚類)イグアノドン類Iguanodontiaに属する恐竜。北アメリカの白亜紀前期、約1億2500万年~1億0580万年前の地層から産出した。全長4.5~7.5メートル、体重900キログラムと推定される。小形種からなるヒプシロフォドン科と類縁であるが、それよりも大形化しており、外見がイグアノドン類と似るため、かつてイグアノドン科に分類されたこともあった。しかし、歯の形や歯の配列、足の指の形態などはヒプシロフォドンHypsilophodonとの類縁関係を示す。前肢は大きく頑丈で機能指が5本あり、後肢はさらに大きく頑丈で機能指は4本ある。この恐竜の尾は不つり合いなほど長く、全長の半分以上を占めていた。背中から尾にかけての椎骨(ついこつ)は腱(けん)によって強化されていた。二肢歩行のときには、前半身とのバランスをとる必要があった。もっとも、成体は四肢歩行が多かったらしく、前肢は頑丈なうえに長くなっている。テノントサウルスはしばしば肉食恐竜デイノニクスDeinonychusの獲物になった可能性がある。テノントサウルスはデイノニクスの歯を伴って産出することが多いからである。モンタナ州の地層から、1体のテノントサウルスの骨格と、それを囲むようにした5体のデイノニクスの完全骨格が発掘されたことがある。もしこれが恐竜たちが生活していた場所で埋没し化石となった原地性の産状を示したものと仮定すれば、デイノニクスの群れは一本肢(あし)でバランスをとりつつ跳びはねて他方の肢の鉤(かぎ)づめでテノントサウルスを蹴(け)って深手を負わせ、テノントサウルスは攻撃者を押しつぶしたり、重い尾でたたきのめしたりして逆襲していたことであろう。このような状況を想定した「動く彫刻」(動刻)展示が、ロンドンの自然史博物館で1992年2月~2001年2月に開催された。しかし、現地の化石の産状が、恐竜の死後、洪水などで偶然いっしょになった異地性のものである可能性もある。いずれにしろ、テノントサウルスは、しばらくの間イグアノドンに相当する生態的地位を占めたが長続きせず、イグアノドン類にとってかわられたと思われる。
[小畠郁生]