日本大百科全書(ニッポニカ) 「テンレク」の意味・わかりやすい解説
テンレク
てんれく
tenrec
広義には哺乳(ほにゅう)綱食虫目テンレク科に属する動物の総称で、狭義にはそのうちとくに尾が痕跡(こんせき)的なテンレク亜科をさし、さらに狭義にはそのうちの1種をさす。テンレク科Tenrecidaeの仲間は原始的な食虫類で、マダガスカルに限産する。この島には他の食虫類が分布しなかったため、他地域で多くの食虫類が示した適応放散のさまざまなタイプをテンレク類だけでつくりだしている。この科には、外形や生態がハリネズミ型のオナシテンレク属Tenrec、シマテンレク属Hemicentetes、ハリテンレク属Setiferなどのテンレク亜科Tenrecinaeのほか、モグラ型のコメテンレク属Oryzorictes、ジネズミ型のオナガテンレク属Microgale、ジネズミテンレク属Geogale、カワネズミ型のミズテンレク属Limnogaleなどのコメテンレク亜科Oryzorictinaeがある。このように形態や生態は種群によって著しく異なるが、次に代表としてもっとも狭義のテンレクを意味する種であるオナシテンレクT. ecaudatusについて述べる。
オナシテンレクは最大の食虫類の一つで、頭胴長30~40センチメートル、尾は痕跡的で、吻(ふん)が長い。体毛は普通の柔らかい毛、硬くて太い針状毛、および細く非常に長い剛毛の3種からなる。成体では頸(くび)の上面を除き、背の針状毛は抜け落ちるといわれる。頭骨は非常に細長く、頬骨弓(きょうこつきゅう)は不完全である。歯式は
で合計40本。山地の低木林や森林にすみ、地上性で、日中は地中の穴や物陰で休み、夜活動する。南半球の冬である5~12月には冬眠する。昆虫、ミミズ、カタツムリ、トカゲ、果実などを食べ雑食の傾向がある。産子数は非常に多く、1産12~20子で、最大32子という記録もある。
[阿部 永]