カタツムリ(読み)かたつむり(その他表記)land snail

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カタツムリ」の意味・わかりやすい解説

カタツムリ
かたつむり / 蝸牛
land snail

軟体動物門腹足綱のうち、陸上にすむ貝の仲間で、巻いた殻をもつ種類に対する総称。特定の生物の系統をさす分類学上の用語ではない。海産軟体動物は少なくとも30回、独自に海から陸への上陸を果たしており、その多くが完全な陸生種で、カタツムリに該当する。代表的なグループが、アマオブネ目のヤマキサゴ科、ヤマタニシ目のヤマタニシ科やゴマガイ科、アズキガイ科など、そしてもっとも多くの系統を含むマイマイ目である。

 なお、ナメクジは殻のない陸生軟体動物の総称であり、カタツムリと同じく分類学上の用語ではない。カタツムリは何度も独自に殻を失ってナメクジに進化している。これら陸生貝類のうち、論文などで発表されている記載種は世界で約2万3000種が知られており、発表に至っていない未記載種は1万から4万種いると考えられている。あらゆる分類群のなかで、もっとも多くの種が絶滅しているグループである。

[千葉 聡 2024年10月17日]

形態

もっとも一般的にみられるマイマイ目のカタツムリの場合、軟体は、背上に巻いた殻があり、その中に内臓が収まっている。体は細長く、腹側が全長にわたる足裏になっていて平たく、粘液を分泌しつつその上をはう。体表も粘液を分泌しているので湿っていて、頭部に2対の触角がある。そのうち後方の長い1対の先端に目があり、目は中にまくれ込むようにして退縮させることができる。外套膜(がいとうまく)上に血管が網目状に走り肺の役割をする。その開口部は小さい穴になっている。軟体は縮めると巻いた殻の中に全身を収めることができる。マイマイ目は殻口に蓋(ふた)はないが、ヤマタニシ目やアマオブネ目など、ほかのグループは一般に殻口に蓋がある。また、ヤマタニシ目などのグループの目は一般に触角の基部にある。

[千葉 聡 2024年10月17日]

種類

日本では約800種のカタツムリが知られている。その大半がマイマイ目で、ナンバンマイマイ科Camaenidae、とくに大形のマイマイ属Euhadraなどがもっともよく知られたカタツムリであろう。カタツムリは移動力が小さいので、わずかな地形の相違によってもきわめて多くの種に分化し、地方ごとに種類が異なっている。たとえば、九州地方ではツクシマイマイE. herklotsi、中国・四国地方ではセトウチマイマイE. subnimbosa、近畿地方ではクチベニマイマイE. amaliae、中部地方ではクロイワマイマイE. senckenbergiana、関東地方へかけてミスジマイマイE. peliomphalaヒダリマキマイマイE. quaesita、東北地方にはムツヒダリマキマイマイE. decorata、北海道ではヒメマイマイKaraftohelix editha、エゾマイマイKaraftohelix gainesiなどが代表種である。これらのカタツムリは普通、殻の表面に1本から4本の色帯(しきたい)があるが、すべてを欠くこともあり、各標本で色帯の形式が異なる。同一種内でも環境によって形態が異なり、亜種に分化している。すなわち、同一種でも山地にすむものは形が大きくなり色は黒ずみ、平地のものは小さく色が淡い。また、離島にすむものは本土のものより小さい傾向がある。日本産のものでは中部山地のクロイワマイマイと四国のアワマイマイE. awaensisはともに殻径(殻の最大直径)60ミリメートルに達する大型種で、とくに前者は黄金色の文様がある美麗種である。オナジマイマイBradybaena similarisウスカワマイマイAcustaは全国の平地に分布し、しばしば大量に発生して農作物や花畑に被害を与える。また、奄美(あまみ)群島、沖縄、小笠原(おがさわら)諸島に移入したアフリカマイマイLissachatina fulicaは卵円錐(えんすい)形で殻高(殻の前後の最大距離)100ミリメートルにもなり、農作物に大きな害を与える。

 日本では小型の系統でとくに種多様性の高いカタツムリとして、キセルガイ科が広く分布し、地方によって異なる種ないし亜種に分化している。多層の細長い塔型で、殻口の内部の奥に閉弁とよばれる板状の構造があり、これで殻口を閉じることができる。

 海外では西アフリカ産のメノウアフリカマイマイAchatina achatinaが世界最大とされ、殻高190ミリメートルにも及び、現地では食用とされている。平巻きの種類で大型のものとしてはフィリピンのダイオウマイマイRyssota otaheitanaが殻径100ミリメートルを超える。

 日本産の種はあまり奇抜な形態の種はいないが、海外では殻口を反転させて殻頂を下に向け、逆立ちした形になる種や、殻口の付け根を狭めてラッパ状になり、櫛(くし)のような歯をつける種類、殻の表面にヤマアラシのような針を密生させる種類、殻がほどけてスプリング状になる種類などがいる。また、東南アジアのヒカリマイマイQuantula striataはかなり強く発光する。2023年には、タイで5種の発光カタツムリが発見された。

[千葉 聡 2024年10月17日]

生態

マイマイ目では一般に雌雄同体で、生殖孔は右触角の後方にあって交尾は互いに陰茎を挿入しあう。卵は石灰質の卵殻をもち、丸く、梅雨期などの湿度が高く暖かい時期に、土の中に産卵する。フィリピンなどに分布するゴシキマイマイ類などのHelicostyla属は、樹木の葉を束ねて揺り籠(かご)をつくり、その中に産卵する。卵から出てきたときはすでに親と同じ形態をしていて、卵中でもトロコフォラ期やベリジャー期はない(直接発生)。地上性のものと樹上性のものがあって、活動は夜間に盛んなものが多い。寒い時期に冬眠するときや、乾燥に耐えるときは、殻口に粘液でつくられた障子紙のような膜を張る。食物はコケなどを歯舌でこすり取って食べ、とくに菌類を好む。また、野菜やそのほかの植物の葉を食害し、紙なども好むため、ごみためにも多く集まる。少数の肉食の種類(たとえば陸貝を捕食するヤマヒタチオビ類やネジレガイ類、ミミズを捕食するヌリツヤマイマイ類など)があるが、大部分は植物食性である。なお、ヤマタニシ科やヤマキサゴ科など、ほかのグループは雌雄があるが、やはり直接発生である。

[千葉 聡 2024年10月17日]

人間生活との関係

日本ではカタツムリ類は童謡や俚謡(りよう)に歌われ、俳句などにもしばしば登場し、身近な小動物として親しまれている。日本ではヨーロッパのエスカルゴのようにカタツムリ類を食用とする習慣はなく、戦前にアフリカマイマイの移入を試みたが食用とはされなかった。しかし中国や東南アジアでは、大型のナンバンマイマイ科やヤマタニシ科が食用とされてきた。陸生軟体動物は、ネズミが媒介する広東住血線虫(カントンじゅうけつせんちゅう)などの中間宿主になっていることがあるので、とくに生食は厳禁である。台湾ではアフリカマイマイの生肉を食べてこの線虫に感染した著名な実業家の一家が、偶然食べなかった一人を除き全滅するという悲劇も起きている。

[千葉 聡 2024年10月17日]

民俗

日本ではカタツムリを薬として口にすることがある。アイヌも、のどの痛む病気の薬とする。カタツムリに角(つの)を出せと歌いかける童唄(わらべうた)は、日本では古くからよく親しまれている。出さなければ苦しめる、出せば楽しませるという形式で、平安時代末期の『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』には、「舞えよ、舞えよ、カタツムリ。舞わなければ、ウマの子やウシの子に蹴(け)させるぞ。踏み砕かせるぞ。ほんとうにかわいらしく舞ったなら、花園ででも遊ばせよう」という意味の歌がある。同じ形式の歌は朝鮮、中国のほかヨーロッパ各地にもあり、イギリスでは火であぶりながら歌うという。フランスでは、クリスマスの夜の害虫除(よ)けの行事の一環として、果樹を損なうカタツムリをとるために歌う。

[小島瓔


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改訂新版 世界大百科事典 「カタツムリ」の意味・わかりやすい解説

カタツムリ (蝸牛)
land snail

陸産の貝類全体をいうこともあるが,正確にはえらでなく外套(がいとう)腔で呼吸する有肺類Pulmonataに属する軟体動物のことで,とくにその中の大型の種類を指す。カタツムリのツムリはツブ(壺),すなわち殻が膨らんだ巻貝の意であるが,カタの意は明らかでない。デンデンムシともいうが,これは〈出よ出よ虫〉の意で早く殻から体をのび出してはえということである。学術的な用語はマイマイである。

 カタツムリの基本的な形態は背上に通常右に巻いた殻をもち,体の表面は網目状になっていて,いつも粘液で湿っている。その前端は頭になっていて,左右1対の長い後触角(大触角)があり,その先端に眼がある。口は前端下方にあって,口内には褐色の顎板(がくばん)とワサビおろしのような数千の歯が並んでいる。口の下方左右両側に短い前触角(小触角)がある。通常右触角の後方に生殖孔があり,交尾のときここより陰茎が出る。足は前後に長くて,足うらは平らで粘液を出しつつはう。殻の中に入っている部分は内臓であるが,殻の入口のところは外套膜の縁で厚くなり,右寄りに呼吸孔の丸い穴が開いたり,閉じたりする。その左上側の切れ込みが肛門でここより糞を出す。呼吸孔の内側は広い空洞になっていて,外套膜には網目のように血管が走り,肺の作用をしている。休止するときは体を殻内に引き込めて,殻の口に粘液が乾いてできた薄い膜を張るが,呼吸口の部分には小さい隙間を残している。したがってふつうの巻貝のようにふたはない。ナメクジは殻の退化したカタツムリであるが,ヨーロッパからきたコウラナメクジには頭部にかむっている笠の中に小さくて薄い殻が入っている。

 雌雄同体で雌雄両性の生殖器をもっているが,違う個体が互いに交尾をして精子を交換する。日本の大型のカタツムリ(ミスジマイマイ,ナミマイマイなど)では,頭の大触角の間に瘤があって生殖のときこれがザクロの実のように大きく膨れる。また交尾前に恋矢(れんし)という石灰質の針を出して互いにつき合う。生殖期はおもに梅雨期であるが,春から秋まで交尾が行われる。また相手のいないときに自家受精することがある。卵は直径2~3mm。球形で石灰質の殻で包まれている。一度に20~40個を土中に浅い穴を掘って産む。気温によって孵化(ふか)までの期間は異なるが,2~4週間で幼貝になる。寿命は種類にもよるが1年半から4年くらいで,産卵後数ヵ月で親貝は死亡する。

 活動は夜行性で日没後と夜明け前によく動くが,乾燥が著しかったり,気温が低いと休止している。雨が降って湿度が増すと昼間でも活動する。これが一般に目にふれる状態である。食物ははいながら歯舌と顎板とでかき取るが,野菜の若芽やキノコなども好んで食べるので農業に害を与える。また肉食の種類もあり,アメリカ産のヤマヒタチオビガイやアフリカ産のキブツネジレガイはアフリカマイマイの卵や幼貝を食べるので,天敵としてその駆除に使われる。

 世界中で約1万1000種ほど知られ,日本産は約700種がある。世界最大の種はアフリカ産のメノウアフリカマイマイAchatina achatinaで殻の高さが19cm,太さ(幅)11cm,日本ではアワマイマイで高さ3.6cm,太さ6.3cm。小型の種ではミジンマイマイが高さ1mm,太さ1.3mmである。オナジマイマイウスカワマイマイは全国に広く分布するが,都市や農耕地に多い。エゾマイマイ,サッポロマイマイは北海道,ムツヒダリマキマイマイ,オオタキマイマイは東北地方,ミスジマイマイ,ヒダリマキマイマイは関東地方,クロイワマイマイは中部山地,ニシキマイマイやクチベニマイマイは近畿地方,セトウチマイマイ,サンインマイマイは中国地方,アワマイマイ,セトウチマイマイは四国地方,ツクシマイマイは九州地方,シュリマイマイは沖縄地方の代表的な種である。ヨーロッパでは食用カタツムリのエスカルゴが名高い。
エスカルゴ
執筆者:

西洋にあってはカタツムリは怠惰の象徴である。ヨーロッパ中世では怠惰をすべての罪の源と考え,カタツムリを罪人になぞらえた。しかし一方,露を吸うだけで生き繁殖しうる生物と信じられたことから,中世の教会は処女懐胎の真実性を保証する生物ともみなした。また心理学者ユングは,夢に現れるカタツムリを本人自身の投影と解釈している。盲目で無感覚な生物という印象を与えるため,生と死の境界の象徴にされることも多い。またヨーロッパでは天の川をカタツムリのはい跡に擬する。
執筆者:

高温多湿の季節に現れ,児童の多くはこの虫と遊んだ体験をもち,《梁塵秘抄》の〈舞へ舞へ蝸牛,舞はぬものならば,馬の子や牛の子に蹴させてん……〉という歌も子どものものと考えられている。カタツムリの名は《和名抄》に載せられて当時の京の標準的名称であったが,異名が多く,現在はデンデンムシが一般的名称となっている。カタツムリの異名が多いのは,この虫が幼児の相手としてそれぞれの時期のもっとも新鮮な特徴を表現した語で呼ばれた結果であろう。カタツムリはカサヅグリ,すなわちつぶらになった渦紋の貝の形から呼んだらしく,ツノダシはその角のような長柄の眼に注目した名である。また,マイマイは中世までの笠をもった神事舞に似た姿から呼んだとする見解と,その巻貝の渦紋が旋回しているように見えることによるという解釈とがある。時期的に古く知られたカタツムリの語が,現代では京都になくて山間部や日本列島の東西の端に近く残り,京阪地方や平たん部など交通が便で文化が交流しやすい土地では,新しい造語とみられるデンデンムシやマイマイが広い範囲を占めている。この方言分布からその新旧の変遷過程が,文化発展の中心から周辺へという存在形態として現れるとする〈方言周圏論〉が,このカタツムリ方言を主材料とした柳田国男の《蝸牛考》に説かれ,言語史研究上の一方法とされることとなった。この方法は童詞のような新語を採用しやすい方言の変遷に有効といえる。
執筆者:


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カタツムリ」の意味・わかりやすい解説

カタツムリ
land snail

軟体動物門腹足綱有肺亜綱のうち,特に触角の先に眼のある種類(柄眼類)をさす(→軟体動物)。デンデンムシ,マイマイともいう。軟体は,体表は網目状で粘液で湿っており,背上に巻いた殻をもっている。頭には,先端に眼のある大触角(後触角)と,味覚を司る小触角(前触角)とがある。口には顎板と歯舌とがあり,やすり状の歯舌を餌にすりつけ,削りとって食べる。軟体が殻から出る部分には小さな穴(呼吸孔)が開閉し,その内部は広い外套腔となっている。外套壁には細い血管が密にあり,これが肺の作用をしている。鰓はない。足は大きく,平たい。雌雄同体で,生殖口は右触角のうしろにある。産卵期は梅雨の頃で,交尾は互いに陰茎を挿入して精子を交換する。1回に数個から数十個の卵を,地中に浅い穴を掘って産む。キノコ,軟らかい野菜,苗などを食べるので,ときに有害。ほかに肉食のもの(タワラガイ,ベッコウマイマイ類)もあり,ニュージーランドにはミミズ(→貧毛類)を食べる種類もいる。世界に約 3万種,そのうち日本産は約 800種あり,アフリカマイマイウスカワマイマイオナジマイマイミスジマイマイなどが知られている。なお世界最大の種は,西アフリカ産のメノウアフリカマイマイ Achatina achatina で,殻高 19cmに達する。

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百科事典マイペディア 「カタツムリ」の意味・わかりやすい解説

カタツムリ(蝸牛)【カタツムリ】

デンデンムシ,マイマイなどとも。有肺類に属する一群の陸生巻貝の総称。殻は右巻のものが多く,体はいつも粘液で湿っている。外套(がいとう)腔壁に血管が網目状に走り肺の働きをする。乾燥すると体を殻の中に縮め,殻口に薄い膜を張る。雌雄同体。多くは土中に卵を産む。関東地方ではミスジマイマイとヒダリマキマイマイが,関西地方ではクチベニマイマイとニシキマイマイとが代表的。またオナジマイマイやウスカワマイマイは日本全土に分布し,野菜等を食害する。→アフリカマイマイエスカルゴ

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デジタル大辞泉プラス 「カタツムリ」の解説

かたつむり

日本の唱歌の題名。文部省唱歌。発表年は1911年。

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世界大百科事典(旧版)内のカタツムリの言及

【ウスカワマイマイ】より

…畑や庭にもっともふつうなまるみのあるカタツムリ(イラスト)。マイマイ科の巻貝。…

【エスカルゴ】より

…フランス料理の食用カタツムリとして有名なマイマイ科の陸産巻貝(イラスト)。escargotはフランス語でカタツムリの意で,この貝を指すにはescargot des vignes(ブドウ園のカタツムリ)が正しい。…

※「カタツムリ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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