改訂新版 世界大百科事典 「トゥバ族」の意味・わかりやすい解説
トゥバ族 (トゥバぞく)
Tuvintsy
アジア大陸深奥部のエニセイ川源流域(北緯50°~54°)に住むチュルク語系牧農民。中国史料の伝える都播(都波)の末裔とみられるが,隣族のトファラルTofalary(カラガスKaragasy)やコイバルKoibalyもトゥバと自称する。南隣のモンゴルではこれをウリヤンハイ(烏梁海)と呼ぶ。ロシア人による旧称ソヨートSoiotyは部族名ソヨンに由来する(サヤン山脈の名称も同じ)。ロシア連邦領内の人口20万6100(1989)。トゥバ族はロシア連邦トゥバ共和国の基幹民族であるが,一部はモンゴル国内にも住む。
古来より匈奴,鮮卑,柔然,突厥(とつくつ),ウイグル,キルギス,モンゴルなどの興亡したこの地方では,チュルク語系諸部族とともにモンゴル系,サモエード系,ケート系の諸部族が雑居し,長期にわたる異民族の支配下でチュルク語化の過程が進んでいった。伝統的宗教はシャマニズムだが,18世紀にモンゴルよりラマ教が入り,これに伴いモンゴル文化の影響が強くなった。19世紀末に露清間の係争地となったトゥバ地方は1914年にロシア帝国の保護領となり,のちソ連邦トゥバ自治共和国をへて,現在はロシア連邦の共和国となっている。サヤン山脈とタンヌ・オーラ山脈の間のトゥバ盆地とタンヌ・オーラ山脈南面では馬,牛,羊の牧畜と狩猟に加えて大麦やキビなどの栽培が行われる。一方,北東部のトジャ地方では狩猟が中心で,役畜としてトナカイが飼育される。トジャ地方の森林地帯がトナカイ飼育の一発祥地であるという説が有力である。
執筆者:井上 紘一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報