植物の繁殖と生育とを保護、管理すること。植物は人間の生活の衣食住全般にわたって欠かすことのできない存在であり、植物を栽培する目的も多様である。食用はもとより、繊維やデンプン、油、薬、染料、香料、木材などの原料をとるために、また、家畜の餌(えさ)や耕地の緑肥とするために栽培される。花や葉、樹木などを観賞し、精神的安らぎを得る目的でも栽培され、さらには風を遮る目的や、斜面などの土砂流出を防ぐ目的、山地で水資源を確保する目的などでも植物は栽培される。
[星川清親]
人類は、旧石器時代には狩猟を中心とした移動性の生活をしながら、野生の植物を採集して食糧としていた。しかし、いまから1万年前ごろになると、ある程度定住した生活をするようになり、まもなく植物を栽培することを覚えた。まず、前栽培的な段階として、野生の植物の採集について縄張り(テリトリー)のようなものが生じ、それを守るとともに植物の生育をもある程度保護するようになったと考えられる。そして野生の植物の種や果実、いもなどを採集したり、縄張り内の植物を監視している間に、植物の生育に関する知識が徐々に蓄積され、また、食べ残したいもや捨てた種子などが芽を出し、やがて新たに植物体として生育することに気づいたことなどが、本格的な栽培の契機となったのであろう。
植物を栽培することにより、採集時代に比べてより多くの収穫物をより安定して得られるようになった。また、栽培技術が進歩し、作物の種類や収量が増え、定住性をより強めるとともに、多数の人が1か所に集まって生活することを可能とした。また、栽培から収穫、調理のための道具が発達し、栽培に影響を与える気象に関する知識が養われ、さらに占いや宗教の誕生を導き、それらがやがて農耕文明へと発達する基盤となった。
栽培の方法は、文明が発達するとともに進歩し、人力から畜力、そして動力機械の導入へと変化し、さらには肥料、農薬を用いる化学的な方法も取り入れられるに至った。もっとも原始的な栽培法は、やぶや林に火を入れ草木を焼き払って作物を植え付ける焼畑農法である。集積された有機質や灰が肥料となって初期の生産性は高いが、数年間で土地がやせてくる。生産力が減退するとその耕地を放置して、ほかの土地に移ってふたたび火入れをして作物を栽培する。農具も簡単な棒だけのことが多い。このような方法では、1人当りの生活のための土地はかなりの広さが必要である。進歩した栽培方式は穀草式とよばれる。畜産のための草地の中で一部分を穀物畑として利用し、生産性が落ちると畑を他区域に移す方式である。これをさらに有効な土地利用形態とするために、ヨーロッパでは三圃(さんぽ)式農業が発達した。これは穀物を栽培する耕地を草地から独立させたもので、その耕地を三分して、それぞれ順に、初年に秋播(ま)きのムギ、2年目には春播きのムギを播き、3年目には休耕して土地を休める体系をとり、全耕地の3分の2で穀物を栽培し、3分の1を休めておく方式である。時代が下ると、休閑期間中にクローバーなどを植えて地力を培養するようになり、さらに改良されて飼料作物の栽培を取り込んだ作付け体系となった。
一方、日本をはじめとするアジアの稲作農業地域では、水田栽培が発達した。原始的な水田は耕地をあぜで囲って水をためるだけの構造であった。また、湿地帯などでは、小さく囲ってはそこを開墾して水田として増やしていったらしい。やがて水路などの灌漑(かんがい)施設が発達し、用水を積極的に調節する大規模な土木工事を伴うようになった。
[星川清親]
栽培の方法や技術は作物の種類や地域の気候、風土、また時代の要請に適応しつつ発達した。水稲は日本のほぼ全域で栽培されるが、それに伴う作付けは地域によって異なる。北海道や東北地方北部などでは1年に1回作付けする一毛作が中心であるが、気候的にさらに温暖な東北地方南部以西では、水稲の収穫後にムギ類やナタネ、野菜類などを作付けする二毛作が普及した。さらに高知県などでは水稲を年間二度作付けする二期作が行われた。野菜栽培では多毛作が一般的で、とくに都市近郊では種々の野菜を組み合わせて四毛作や五毛作さえ行われている。
水田で毎年イネを栽培するように、同一圃場(ほじょう)に同一作物を続けて栽培することを連作という。畑地では一般に連作すると作物の生育に障害がおき、収量が減少する。これを忌地(いやち)現象という(連作障害)。作物によっては一度作付けすると数年間、長いときには10年ほども忌地性を示し、同一作物を栽培できないものもある。このような場合には、一般にはいくつかの作物を組み合わせて一定の順番に作付けする輪作が行われる。多くの場合、輪作は3~5年を1周期として計画される。水田では、冬期にムギ類などを栽培することはあっても、夏期には毎年イネをつくる。しかし、まれに数年間畑状態としてイネ以外の作物を栽培し、ふたたび水田に戻して水稲を栽培することがあり、これを田畑輪換とよぶ。田畑輪換は、水温が低かったり、水利が悪く、稲作に適さない地域で行われることが多く、スイカや野菜が栽培される。
普通、1区画の耕地には一度に1種類の作物を栽培する。これを単作とよび、同一圃場に2種以上の作物を同時に栽培することを混作という。混作には、牧草栽培でみられる2種以上の種子を混ぜて播く混播(こんぱ)や、2種の作物、たとえばダイズとトウモロコシを数列置きに植え付ける交互作、耕地の周りと中とで別々の作物を植え付ける周囲作などがある。
収益性の高い果物や野菜などは、温室やビニルハウスなどで栽培される。露地栽培の野菜よりも収穫期が早い促成栽培や、反対に収穫期を遅らせた抑制栽培は、収穫物の商品価値を高める目的で行われるが、特別な栽培技術を必要とする。このような技術の発達によって、現在では、トマトやキュウリ、イチゴなどが年間を通して供給されるようになった。これを周年栽培という。しかし、このような施設利用の栽培では、土地に塩類が集積したり、病害虫が異常に発生し多量の農薬を使用するなどの弊害も生じている。
近年、施設園芸では土を使わないで栽培する水耕栽培(水栽培)が発達した。これは、作物を支えておいて、下に栄養分を含んだ水を流して栽培する方法で、土壌への塩類蓄積や忌地などの心配がなく、作物の生育を調節しやすいが、反面、経費がかかる。
種々の栽培のなかで、とりわけ重要なものは穀物栽培である。穀物は人間の生活の基本的なエネルギー源であり、この充実によって文化的発達も維持できる。しかし、世界の食糧生産は、増加を続けている人口との関係において微妙な段階にきている。現在、すでに全世界の人間の約半数はなんらかの飢えを経験しているといわれるが、今後とも人口は増えるのに対し、作物を栽培できる土地の面積はもはや実際的に増加させることはむずかしい。したがって、将来飢饉(ききん)は地球にとってますます深刻な問題となる。穀物生産の増加への残された可能性は、作物や耕土の改良を含めた栽培技術を、現在よりいっそう発達させ、収量すなわち一定面積からの生産をより高めることにある。
[星川清親]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…われわれの日常生活をふり返ってみると,毎日の生活が多くの栽培植物に依存していることに気がつく。現在世界中に栽培されている植物は,約2300種にのぼるが,それらは過去およそ1万年の間に世界の各地域でいろいろな時代に,野生の植物から人間の手によって作り出された一群の植物ということができる。…
…そして肥料をやって生育を助長し,水田に侵入する他の植物(雑草)を除き,病気のまんえんや虫の害を防ぐなどの保護管理作業を続け,収穫にいたる。また,キクイモは,イモを食用あるいは飼料とするために栽培管理する場合は作物であるが,荒地や河原に逸失して野生化して人の管理を受けていない場合は作物とはいえない。作物は人間の力をかりて種族の繁栄をはかり,人間はその作物の一部を生活に利用している。…
※「栽培」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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