五穀のひとつで,イネ科の一年草。英名millet,proso millet,common millet,hog millet。種子は栄養価が高く,古くから重要な食糧とされてきたが,最近ではほとんど常食とされない。古名〈キミ〉は実が黄色を帯びることに由来する。《万葉集》の歌2首にキビの名が見られる。野生系統は知られていないが,近縁種としてアフガニスタンからモンゴルに分布するP.pontaneumが知られている。原産地は,アジアの中央部から東部にかけての大陸性気候の温帯地域と推定され,中石器時代にはヨーロッパに伝わっていた。日本へは華北から朝鮮半島を経て渡来したらしい。山間地ややせ地の畑で栽培され,明治末期には3万haを超える栽培面積があったが,大正・昭和と急激に減少し,現在ではほとんど栽培されていない。
稈(かん)は中空で高さ0.7~1.7m。2~3本の分げつを出し,10~20枚の葉をつける。上部の葉の葉身は,長さ30cm,幅2cmほど。茎頂に総状に小穂をつける。穂の形によって次の3型に分けられる。平穂型(var.effusum Al.)は枝梗が長く,穂軸の両側に広く散開し,稔実すると垂れる。片穂型(var.contractum Al.)は枝梗がやや短く,穂軸の片方にのみ寄って垂れる。密穂型(var.compactum Kcke.)は枝梗が短く,実っても直立のままである。日本で栽培されていた品種の多くは,平穂型か密穂型である。小穂は2小花からなり,上位小花は稔実するが,下位小花は不稔。子実はやや扁平な球形で,長さ2mmほど。淡黄白色で,千粒重は3.8~4.8gである。世界中で数百の品種が知られている。日本では約80品種が栽培されていたが,これらには明りょうな品種区分はなく,各地方の在来種が実用上支障のない程度に特性が固定していたにすぎない。粳(うるち),糯(もち)の区別は一部の品種を除いて必ずしも明りょうでない。日本には糯種が多く,おもな品種は北海道の早生糯,中生黒糯,東北・中部地方の信濃1号,黄糯,白糯など。高温,乾燥の地を好むが,生育期間が80~120日と短く,高冷地でも栽培ができる。北海道では5月に播種(はしゆ),9月には収穫する。また,暖地では春まいて夏収穫するものと,夏まいて秋収穫するものとの二つの栽培型が可能である。
子実はタンパク質に富み,消化率も高い。精白して米と混炊し,また粉にして餅や,あめなどの菓子原料にされる。キビ粉でつくるキビだんごは桃太郎の話で有名だが,現在の岡山名物の吉備だんごは米から製する白玉粉を原料とする。小麦粉と混ぜてパンとする利用も外国では多い。また醸造してキビ酒をつくったり,小鳥の餌にもする。稈およびぬかは飼料とされる。
執筆者:星川 清親
中国では五穀の一つであるキビは,干害に強くて高地に適するので,新石器時代から華北で栽培される最も代表的な穀物であったが,六朝時代になると,収量の多いアワ(粟)にその地位を譲った。《斉民要術》が穀物の栽培法を種穀(稷(しよく),粟(ぞく)),黍穄(しよせい),粱秫(りようじゆつ),大豆,小豆,種麻,種麻子,大小麦,水稲,旱稲(かんとう)の順に記すのは,こうした事態の反映でもあろう。また森が後退して木材の不足が深刻となった華北では,〈きびがら〉が燃料や建材に転用されたので,灌漑によって低地での麦作が普及したのちも,キビは重用された。変種も多く,地方によって名称の違いが認められる。子実が糯のものを黍,粳のものを稷,穄ということがあるのもその一例である。近世では俗に糜子(びし),黍子という。なお,古代中国ではキビが度量衡の基準として用いられたことが知られている。
執筆者:勝村 哲也
フィンランドの劇作家,小説家。貧乏な仕立屋の息子として生まれ,苦学の末に検定試験で大学入学を果たした。在学中に文学賞を得た戯曲《クッレルボ》(1860)は,フィンランドの民族叙事詩《カレワラ》に取材しており,英雄クッレルボの兄妹相姦の悲劇をユーモアまじりに人生肯定劇として描いた。手法はシェークスピアに学び,ユーモアはセルバンテス,ホルベアに近く庶民的である。貧困と病苦と闘いながら短い執筆期間に《寒村の靴屋》(1864),《婚約》(1866),《レア》(1869)などの戯曲や世界的評価を得た小説《七人兄弟》(1870)を残し,若くして狂死した。いずれも,農民の人生の悲哀をユーモアに包んでリアルに描き,後に到来する写実・自然・新ロマン主義が混然一体となったような特異な作風を示し,現代フィンランド文学にまで影響を与えている。今日もなお根強い人気があり,戯曲は上演され続けている。フィンランド語を初めて文学用語にまで高め,フィンランド近代文学の父といわれる。
執筆者:高橋 静男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
イネ科(APG分類:イネ科)の一年草。稈(かん)は中空、高さ0.7~1.7メートル。根際から2、3本の分げつを出す。生育につれ10~20枚の葉が出るが、茎の上部の葉は大きく、葉身は長さ30センチメートル、幅2センチメートル。夏から秋、茎頂に多くの小穂からなる花穂をつける。小穂は2小花からなり、上位の小花は結実するが、下位のものは不稔(ふねん)性である。果実は長さ2ミリメートルほどのやや扁平(へんぺい)な球形で白または黄色、1000粒の重さは4グラム前後である。花穂が長く枝分れし、実ると垂れるものを平穂型、枝がやや短く、実ると片側に寄って垂れるものを片穂型、枝が短く、実っても垂れないものを密穂型とよぶ。
原産地はアジア中央部から東部にかけての温帯地域と推定されている。中石器時代(前8000~前4000)にはヨーロッパに伝わっていた。中国では有史以前から栽培され、中国北部から朝鮮を経て日本に渡来したらしいが、米、麦、粟(あわ)、稗(ひえ)よりも渡来は遅いらしい。古名はキミで、果実が黄色みを帯びるところからきている。栄養価が高く、五穀の一つに数えられ、古くは重要な食糧とされていた。世界に数百の品種が知られ、アジアやアフリカでは食用や醸造原料、飼料とするため多く栽培される。糯(もち)と粳(うるち)とに区別されるが、中間的なものが多い。日本では、早生(わせ)糯、早生黒糯、信濃(しなの)1号、黄糯などの品種があるが、現在はほとんど栽培されていない。
[星川清親 2019年8月20日]
精白したキビ100グラムの熱量は363キロカロリーで、水分13.8グラム、タンパク質11.3グラム、脂質3.3グラム、炭水化物70.9グラムを含む。栄養価は米や麦に劣らず、消化率も高い。中国やアフリカそのほかキビの生産のある地域では、一般には米と混炊して主食としたり、粉にして団子や餅(もち)とする。飴(あめ)などの菓子原料とするほか、小麦粉と混ぜてパンにする。醸造原料にもされ、中国北部では古くから黄酒(ホワンチウ)を醸造した。茎葉や糠(ぬか)は家畜の飼料とされるが欧米では果実も飼料とする。アメリカではブタの飼料とするのでhog milletの名がある。
[星川清親 2019年8月20日]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…在任1940‐43)が,その末期の混乱期はマンネルヘイム元帥(在任1944‐46)が担当した。続いてパーシキビPaasikivi(在任1946‐56)が2期務め,56年からケッコネンが5選され25年間も大統領の座にあった。1982年以降はコイビストMauno Koivisto(1923‐ )が第9代大統領の職にあった。…
…アワ,キビ,ヒエなどの総称で,英語のミレットmilletに対応する語。すでに《日葡辞書》(1603)にも〈Zacocuザコク(雑穀)〉として掲出されている。…
※「キビ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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