法則の辞典 「トマス‐フェルミモデル」の解説
トマス‐フェルミモデル【Thomas-Fermi model】
おのおのの電子は原子番号 Z の原子核や他の電子のつくる平均的な静電ポテンシャル V(r)の中を動いていると考える.r は位置のベクトルである.電子の分布している空間を小さな体積 dv となるような細胞に分割し,この細胞の中では静電ポテンシャルは一定で,その一辺の長さは電子のド=ブロイ波長よりも十分大きいと仮定する.この仮定では,細胞内の電子は自由電子気体と考えてもかまわない.電子はフェルミ‐ディラック統計*に従うので,電子の数密度を n(r) とするならば,細胞内に含まれる電子の運動エネルギーの総和は,電子の電荷(単位電荷)を εk とし,ボーア半径を a0 とすると
のように書ける.この近似を「トマス‐フェルミ近似」という.この近似のもとで電子の全エネルギーを求めると,
となる.第二項は原子核と電子の間のクーロンエネルギー項,第三項は電子間のクーロンエネルギー項に当たる.これに電子の総数 N が一定(=∫ n(r)dv)であるという条件を入れて,上の式が極小となる条件を求めることになる.ポテンシャル V(r) と電子密度 n(r) の間にはポアッソンの方程式が成立するはずだから,計算を簡便にするためにいくつかのパラメータを導入すると,トマス‐フェルミの方程式*が得られる.