日本大百科全書(ニッポニカ) 「トム・ソーヤの冒険」の意味・わかりやすい解説
トム・ソーヤの冒険
とむそーやのぼうけん
The Adventures of Tom Sawyer
アメリカの作家マーク・トウェーンの長編小説。1876年刊行。日本でも広く愛読されている「悪童物語」の古典中の古典。孤児の主人公トムは親切なポリーおばさんの家に引き取られるが、規則に縛られた学校や教会中心の生活を嫌い、町の浮浪少年ハックルベリ・フィンたちと大自然の中で自由な生活、冒険を繰り広げる。有名なフェンス(塀)のペンキ塗り、ガールフレンド、ベッキーとの幼い恋愛、墓地で目撃した殺人事件、近くの洞窟(どうくつ)にベッキーと迷い込んで三昼夜をそこで過ごし、最後は洞窟内に隠されてあった1万2000ドルを発見するなど、いかにも少年の冒険らしい冒険が展開する。作者自身の少年時代の体験に基づき、その限りでは少年時代への郷愁が感じられるが、当時のあまりにも健全な道徳観に対する純真な少年の反抗も描いている。しかし、トムの反抗は少年の一時的な反抗にすぎず、続編『ハックルベリ・フィンの冒険』で社会の底辺に生きる浮浪少年の眼(め)を通して、アメリカ社会を根底から批判することになる。
[渡辺利雄]
『大久保康雄訳『トム・ソーヤーの冒険』(新潮文庫)』