日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ハックルベリ・フィンの冒険
はっくるべりふぃんのぼうけん
Adventures of Huckleberry Finn
アメリカの作家マーク・トウェーンの長編小説。1885年(イギリス版は1884年)刊。『トム・ソーヤの冒険』の続編として書かれ、少年冒険小説の体裁をとっているが、内容的には、文明社会の拘束を嫌い、大自然の中での自由な生活にあこがれる孤独な少年の、筏(いかだ)による大河ミシシッピ川下りを中心にした文明批判の書である。同時に、いっしょに川を下る逃亡奴隷ジムとの交友を通して奴隷制度の非人間性を告発する。こうして、アメリカ文学の大きな特徴である文明批判、人種問題を底流にもったこの小説は、きわめて現代的意義をもつ本格的な小説である。事実、ヘミングウェイは、すべての現代アメリカ文学はこの一冊の小説に由来するといった。さらに、文体には日常生活の口語体を大胆に用い、アメリカ南西部の「ほら話」のユーモアと相まって、真にアメリカ的といえる文学伝統を確立。トム・ソーヤのギャング団での「冒険」、酒乱の父親の小屋からの脱出、南部名家どうしの宿怨(しゅくえん)抗争、「王様」と「公爵」と称する詐欺師たちの悪事、捕らえられたジムの奪還をめぐるどたばた劇など、深刻なテーマとは別に、少年の読み物としても楽しめる娯楽性を十分備えている。
[渡辺利雄]
『西田実訳『ハックルベリー・フィンの冒険』(岩波文庫)』▽『渡辺利雄訳『ハックルベリー・フィンの冒険』(『世界文学全集54』所収・1980・集英社)』