ドゥッフ(英語表記)duff[アラビア]

改訂新版 世界大百科事典 「ドゥッフ」の意味・わかりやすい解説

ドゥッフ
duff[アラビア]

西アジア,北アフリカおよびインドで用いられる,篩(ふるい)の形をして円い木枠にヤギ革を1枚張った一面太鼓。ダッフdaffともいう。アラブやトルコの古典音楽に用いられるものは,直径約25~30cmで,木枠の側面に3~5対の小型シンバルが取り付けられている。西洋のタンバリンはもともと西アジア起源で,ドゥッフの一種と見ることができる。事実アドゥフェadufeと呼ばれるポルトガルの四角形タンバリンの名称は,アラビア語のドゥッフに由来する。ドゥッフは必ずしも円い枠太鼓とは限らず,四角形や,八角形のものもこの名で呼ばれた。この名称はヘブライ語のトーフtōpに相当し,歴史的にこの太鼓は古く,古代イスラエルにさかのぼることができる。今日,地域によっては別のアラビア語タールṭār(北アフリカ),リックriqq(イラク),ベンディールbendīr(モロッコ)の名でも呼ばれるが,いずれも同種の楽器である。ベンディールはスペイン語でタンバリンを意味するパンデレータpandereta,また四角形のタンバリンを意味するパンデーロpanderoの語源である。

 ただしタールの一部やベンディールは小型シンバルの代りに,さわり弦を革面に張り,特殊な音響効果を発する。トルコ語ではドゥッフはデフdefまたはテフtefとなまって発音され,シンバル付きのものは特にジッリ・デフzilli defと呼ばれている。シンバルを欠くデフは民俗音楽スーフィー儀礼などに用いられ,これはダーイラとほとんど同じ太鼓であり,事実,古代・中世には円形のドゥッフはダーイラと呼ばれていた。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のドゥッフの言及

【ダーイラ】より

…この一面太鼓は奏者が左手で枠の下部を支えて,あたかも盾のごとく前に構え,両手の指先で膜面をたたきさまざまな音色とリズムを作り出す。 この太鼓はやはりアラビア語でドゥッフ(ダッフdaff)またはタールṭār,トルコ語でデフdef,マズハルmazharと呼ばれるものと同種であるが,ダーイラの名称はイラン,パキスタン,アラブ諸国で一般的である。またグルジアではダイラdaira,ウズベキスタンやタジキスタン,アフガニスタンではドイラdoira,また東ヨーロッパのアルバニアやマケドニアではダイレdaireの呼称で知られる。…

※「ドゥッフ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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