改訂新版 世界大百科事典 「民俗音楽」の意味・わかりやすい解説
民俗音楽 (みんぞくおんがく)
folk music
ある民族の音楽文化全体を指す〈民族音楽〉とはニュアンスを異にして,〈民俗音楽〉は階層社会の基層に属する集団・共同体にはぐくまれてきた伝統音楽を意味するものとされる。したがってそこには,上層における〈芸術音楽〉と対比させる考え方が介在している。通常,民俗音楽の枠の中にくくられるものとして,わらべうた,子守歌,民謡そして民俗芸能の中の音楽的側面が挙げられるが,敷衍(ふえん)して,日常生活の中でのかけ声,物売りの声,マスコミ的な流行歌などをも含めることもある。一般的な傾向としては,民俗音楽に観察されるリズム,旋律,発声法などの音楽的側面は,日常の言語や生活環境を反映していて,歴史的に積み重ねられた集団創作の結果であると考えられている。たとえば,話しことばの抑揚を強調した形でうたわれるはやしことば,戸外の労働に伴う力強い発声とリズムなどにパターン化が観察される一方では,そうしたパターンから意図的に離脱した様式化をねらったものもあり,その起源(作曲者)を特定の個人に帰することができないのが伝統的な状況である。いわゆる芸術音楽との関係は相互交流の形でみられる。たとえば,俚謡の《浜唄》が長唄の《越後獅子》に,あるいは《貝尽し》が山田流箏曲《江の島》に組み入れられたり,ポーランドの民俗舞踊マズレクがショパンによってピアノ曲〈マズルカ〉に利用されるといった材料提供の方向がある一方では,逆に楽器伴奏法,和声法,理論用語などを一部分だけ芸術音楽から借用したりすることもある。総じて民俗音楽は,日常のレベルだけでなく,通過儀礼,年中行事などの祭事とも密接にかかわりをもち,そこには民族性の重要な部分が表明されていると考えられる。
→民俗芸能 →民謡
執筆者:山口 修
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報