日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハザール」の意味・わかりやすい解説
ハザール
はざーる
Khazar
トルコ系の遊牧民族で、7~11世紀にカスピ海北岸から黒海北岸にかけての草原地帯を支配した。中国史料には可薩突厥(かさつとっけつ)の名で知られる。東西南北の交易路の交差点にあたるこの地方を抑えて強国となり、8~9世紀には、当時の超大国であったイスラム帝国やビザンティン帝国とも対等の関係を保った。イスラム史料によると、彼らの風俗、習慣は、東方の突厥と類似する点が少なくない。ハザールは遊牧民ではあるが、交易の拠点としていくつかの都市を建設し、とりわけボルガ川河口付近にあったその首都イティルは、各地から集まった商人、手工業者で活況を呈した。また、800年ごろにユダヤ教を国教に採用したことも、ハザール史の特異な点として注目される。10世紀以降は、北方に現れた遊牧民族やスラブ諸公の攻撃を受けて衰退し、歴史上から姿を消してしまった。現在の東欧のユダヤ人の起源をハザールに求める説もある。
[林 俊雄]