交易(読み)コウエキ

デジタル大辞泉 「交易」の意味・読み・例文・類語

こう‐えき〔カウ‐〕【交易】

[名](スル)
互いに品物の交換や売買をすること。「外国と交易する」
互いに交換すること。
「仮に今東西の風俗習慣を―して」〈福沢学問のすゝめ
[類語]取引貿易輸出入通商商業互市ごし外国貿易国際貿易トレード売買売り買い引き合い商い商売商行為ビジネス商取引先物取引

きょう‐やく〔ケウ‐〕【易】

こうえき(交易)」に同じ。
「―の船につきて、この国に帰りぬ」〈宇津保・藤原の君〉

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精選版 日本国語大辞典 「交易」の意味・読み・例文・類語

こう‐えきカウ‥【交易】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( ━する ) 互いに品物と品物とを交換し合うことによって取り引きをすること。
    1. [初出の実例]「正一人。〈掌財貨交易。器物真偽。〈略〉禁察非違〉」(出典:令義解(718)職員)
    2. 「足利染の絹を交易(カウエキ)するために」(出典:読本・雨月物語(1776)浅茅が宿)
    3. [その他の文献]〔易経‐繋辞下〕
  3. ( ━する ) 特に外国貿易をいう。
    1. [初出の実例]「むかしは唐船の数も、交易の銀額(きんがく)も定らざりしに」(出典:随筆・折たく柴の記(1716頃)下)
  4. こうえきぞうもつ(交易雑物)」の略。
    1. [初出の実例]「凡伊豆、紀伊両国以神税交易所進祭料雑皮八十五張」(出典:延喜式(927)三)
  5. 交易雑物を扱う役人。
    1. [初出の実例]「諸使事〈略〉交易〈金銀 朱砂 雑丹 雑器 造茶(三月一日)〉」(出典:侍中群要(1071か)八)
  6. ( ━する ) 学問、知識などを、互いに交換し合うこと。
    1. [初出の実例]「学問を交易して、知識を開き」(出典:西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉第一板序)
  7. ( ━する ) 入りまじること。同化すること。
    1. [初出の実例]「北海道の狐、〈略〉或は造化の奇を好む地気に因て犬と少しく其質を交易せしむるならんか」(出典:明六雑誌‐二〇号(1874)狐説の疑〈阪谷素〉)

交易の補助注記

平安朝の古文献や古辞書に「きょうやく」の読みがあるが、はっきりしないものは、便宜上この項に収めた。


きょう‐やくケウ‥【交易】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「きょう」「やく」は「交」「易」の呉音 ) 品物を交換しあって通商すること。こうえき
    1. [初出の実例]「けうやくの舟につきて、廿三年といふ年、卅九にて日本へ帰り来たり」(出典:宇津保物語(970‐999頃)俊蔭)

交易の補助注記

読みのはっきりしない用例は、「こうえき」の項でまとめた。


きょう‐えきケウ‥【交易】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「きょう」は「交」の呉音 ) =こうえき(交易)〔文明本節用集(室町中)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「交易」の意味・わかりやすい解説

交易(物のやりとり)
こうえき

交易とは、広くは貨幣をも含めた物のやりとりすべてを示す語であるが、狭義には非市場社会での自給自足を補うための物と物との交換をさして用いられる。非市場社会での物々交換は、貨幣こそ欠いているものの、本質的にはわれわれの社会の売買と変わらないと人々が信じて疑わなかった時代がある。このころには交易とは功利目的で行われるものであることが暗黙の了解となっていた。ところが20世紀初め、非市場社会における物のやりとりがかならずしも功利的交換ばかりではないことがマリノフスキーによって示されて以来、非市場社会の経済研究の枠組み自体がさまざまの形で問い直される結果となった。この過程において、交易という語は功利的であるか否かにとらわれずに広く物のやりとりすべてを示す語として用いられたりもしたが(現にマリノフスキーも非功利的交換にも相変わらず交易の語を用いている)、最近ではむしろ、広義の物のやりとりすべてをさすにはもっぱら「交換」という語があてられ、交易とはそのうちでも功利的に行われるものについていい、また非功利的交換には儀礼交換ないしは社会交換の語が用いられることが多い。しかしある交換が実際に功利的であるかないかは、交換する当事者間の認識のレベルと研究者の観察のレベルのどちらについていうのか、また特定の交換をその社会における文化的・社会的意味をも含めて功利的か否かを判断すべきかどうかなどの問題があり、個々の交換にこの語を当てはめるか否かは研究者によりかなり相違がある。

 かつては完全に自給自足を行う原初的家族経済モデルが想定されたこともあるが、少なくとも今日そのような民族をみいだすことはできない。それどころか考古学の成果によれば、先史時代にすでに世界各地で黒曜石、こはく、緑石、貝などが原産地から遠く離れた地点にまで輸送されていたことが明らかであり、それらは交易ないしは交換の成果によるものと考えるのがもっとも適当であろう。そのような特産品は、部族から部族へ、集落から集落へと他のものに媒介されながらリレー式に取引されていたようで、こうした交易ルートは先史時代において世界各地に存在していたし、また今日においてすらいくつかの例がある。言語、文化、社会構造を異にするこれらの部族間で、次から次へと物のやりとりがなされたのは一見驚異的に思えるが、しかし実際には功利を目的とした交換としての交易は、共同体内部よりも共同体間において発達したものであるらしい。一般的に共同体内においては互酬的な贈与によって一時的な財の過不足を補うのに対し、共同体間では地理的な資源の偏在を交易によって補うのである。また、なんらかの形での「連帯」が必要であり、「和」が尊ばれる共同体内部にあっては、個人的な利潤のみを追求する交易が行われにくかったのは当然ともいえよう。その意味で、資料が断片的であるために疑念のもたれている沈黙交易も、交易の原初形態としての存在を否定できない。沈黙交易とは、言語も通ぜず、文化、社会組織も極端に異なる異部族間で、一定の交換レートに従っておのおのの特産品を無言のうちに交換する風習であり、互いの接触を極端に避けるために一定の場所に時間を変えて相互に品物を置いて交換することにより、顔をあわせることすらなしに交易を行うのである。しかしこれより一般的に行われているのは、異なる部族の成員同士がある種の習慣に基づいて他方を訪問したり、どちらかの共同体の外れで落ち合ったりして交易を行うことである。

 階層分化の少ない部族社会においては、交易を行う者が部族内で専門化することはあまりないが、近隣諸部族間を回り交易をもっぱらにする部族がときおり存在することは興味深い。ニューギニア島とニュー・ブリテン島との間のビシアス海峡の小島に住むシアシ人は、さしたる資源ももたないかわりに2本マストのカヌーを乗り回して海峡を結ぶ交易網を維持し、家畜、農作物、土器の壺(つぼ)、黒曜石などの仲買活動を行っている。同様の例は、歴史時代にはフェニキア人、ユダヤ人など、また砂漠のベドウィンや西アフリカの民族集団のハウサ、マンディンゴ、また東南アジアではマレー人などにもみいだすことができよう。

 利潤追求の交易と社会関係の円滑さを求めるための贈与に基づく交換(儀礼交換)とは、理念的には相反するものとして峻別(しゅんべつ)しうるが、実際に個々の交換がどちらなのか厳密に区分することはしばしば困難を伴う。たとえばマリノフスキーの記述したマッシム諸島におけるクラ交換についても、航海の主目的としての貝やウミギクの装飾品の交換は贈与によるものとしか考えられないが、これに伴い副次的に各地の特産品の交易が行われることに着目して、クラ交換の潜在的目的は交易であるとみなす学者もいる。また、互いにもしくは一方が相手の持つ品物を欲しがっていながら、手続としてはなんらかの習慣に従い、表面上は贈与という形式で互いに物を贈り合うことによって品物を入手する場合もある。とくに威信経済prestige economyの下では訪問者を手厚くもてなすのが美徳とされており、訪問者の持参した贈り物に見合う以上の返礼がなされることもしばしばである。ただしこのような形での交換を、人々はたてまえとしては「物が欲しいから行うのではない」と強調するのが普通である。実際に人々がいつもかならず合理的に判断して交換を行っているとは限らず、習慣に従って非合理的な交換をせざるをえないこともある。また人々がもうけることを自覚して行っている交易の場合ですら、パートナーが異部族といえども固定していたり、交易品に制限があったりなど慣習的ルールがかならず付きまとっているのである。

 儀礼交換や交易は貨幣や市場システムが未発達な段階でもっぱら行われるが、どの品物とどの品物が等価であるかという目安は多くの社会や地域に存在する。これを基に人々は儀礼交換において返礼すべき品物とその量を知り、また交易であれば多少の駆け引きを行うのである。ただし等価であればなんでも交換可能なのではなく、交換、交易に供される品物にはおのずと制限がある。このような品物のなかでもとりわけ頻繁にやりとりされるものは、交換を媒介する役割を果たす点で貨幣に似た機能をもつものとして古くより注目を集めている。これらの品々(交換財)は文化によって多種多様であるが、一般にはヤップ島の石貨をはじめとして使用価値をまったくもたないものや、メラネシア各地の貝貨のように装飾以外に用いられることのないものであることが多い。しかし一方、土器や石斧(せきふ)のような得がたい製品や黒曜石などのように使用価値の高いもの、東アフリカの牛、メラネシアの豚などの家畜(食物)がしばしば交換の媒体になっているのも事実である。

 結局交易とは、だれもが自由に好きな物を交換することのできる市場という場の存在しないところで、さまざまな制約の下にありつつも、できるだけ功利的に行われる取引である。制約を克服できずに非合理的選択をとらざるをえない場合もあるが、一方で習慣(制約)を利用して利潤を生み出すこともある。そもそも交易とは、純粋に功利的な交換とはなりえないのであって、単独ではなく互酬的な儀礼交換をも含めた交換一般のなかで考察されるべき問題であるといえよう。

[山本真鳥]


交易(売買の古代的用語)
こうえき

売買の古代的用語。「きょうやく」とも読む。一般に物品の売買は古代でも行われていたが、律令(りつりょう)時代においてとくに重視されるのは、中央では官司、官人の交易で、地方では国衙(こくが)の交易であろう。律令時代の中央財政は、現物で租税として徴収した物品を中央に集中し、現物で官司、官人に分配するシステムを基本としていた。しかしこのシステムでは、収入と支出の不均衡が生じざるをえず、また組み込みえない物品(たとえば生鮮食料品)も出る。こうした矛盾を解決する手段として、都城の東西市や、その機能を補完する各地の流通経済上の要地(中央交易圏)における交易が行われた。官司や官人は、必要物資を入手するために各地に「庄(しょう)」を置き、必要に応じて「交易使」を派遣した。中央での交易は銭で行われたため、官司や官人は銭財源を用意しておく必要があった。平城宮出土の木簡(もっかん)にみえる「西市司(にしのいちのつかさ)交易銭」はその一例であろう。

 一方、国衙では、定められた品目数量の物品を、調(ちょう)、庸(よう)、土毛(どもう)(その土地の産物)、諸国貢献物(しょこくこうけんもつ)その他の税目で中央に進上しなければならなかった。それらの物品は正税(しょうぜい)、郡稲(ぐんとう)や代納物を財源として、国衙近傍の市や中央の市で交易し、品目数量を整えて納入した。これが平城宮出土の木簡や正倉院古裂(こぎれ)銘文にみえる「国(官)交易」である。この国衙の交易はその後拡大し「交易雑物(こうえきぞうもつ)制」として定着した。

[栄原永遠男]

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改訂新版 世界大百科事典 「交易」の意味・わかりやすい解説

交易 (こうえき)

特定の個人あるいは集団の間で価値あるものを互恵的に交換する体系のこと。交易は大別して,貿易など経済上の生活必需物資の交換(この場合には市場の形成に関連する)と儀礼的に交換する場合とに類別できようが,前者は貨幣を媒介とする商業的レベルで,また,後者は直接的な物々交換に重点を置いて行われることが多い。したがって,経済的交易は貨幣経済の発展を前提とした交易であるのに対し,儀礼的交易は物品に対する等価意識や呪術的認識が前提となる。ともあれ,後者の交易は与える側と受ける側との伝統的な社会慣行によって物資の質・量が規定されていて,たとえばかつてのメラネシアにおいては貝製品,カヌー,ブタなどが儀礼的交換の対象として顕著であった。こうした交易の範囲は特定の地域単位内部での交換から,シルクロードなどに象徴されるように直接または間接であれ地理的にもかなりの遠距離に及ぶものまでみとめられる。

 交易には一定の秩序があり,無秩序の現象ではない。つまり,市場や再配分の組織とともに,いわゆる未開社会においても,特定の儀礼的交換の回路に一定の組織的指向性があり,特定のパートナー間で物品の交換を行うのである。このような交換回路には,海岸部と内陸部の種族間で海産品と山の産物が一定の時期に交換されたり,あるいはA→B→Cというように種族や集団が連鎖状に連結した交易関係を呈する事例などがある。こうした異種族間の交易の方式で著名なのが沈黙交易である。これは,交易を行う一方の側が慣習的に定められた一定の場所に自己に属する産品を置いて姿を消すと,やがて他方が来てこれを収受し,そこに代りの産品を置いておき,やがてこれを一方の側が収受するという交換の方式である。したがって,両者の間では直接に接触,交渉することや言語表現を媒介することもないのであって,アフリカの採集狩猟民農耕民(つまり,文化的に差異を有する)の間で行われる事例などが有名である。このようにして異種族間での交易が持続されるならば,種族間の社会関係は強化され,かつ空間的にも拡大することを可能にするものといえよう。とくに未開種族間における交易は経済的取引とは異なり,儀礼的性格が顕著に表出される傾向がみられることはM.モースによって指摘されたとおりである。

 交易と儀礼的贈与交換の体系がからみ合った事例として有名なのは,ニューギニア東端の島々で行われる,クラ交易である。かなり遠距離にまで及ぶ島々がクラ交易の体系の中に組み込まれており,カヌー作り,航海,交易はそれぞれ呪術的儀礼によって覆われている。交易としては貝製の首飾と腕輪が,特定の方向に循環する儀礼的贈与交換の回路を形成しており,これにヤムイモ,サゴヤシ,干魚,土器,石斧などの生活物資の交換が伴っている。
 →贈物
執筆者:

原始・古代において,産地の限られた天然資源とその加工品,あるいは製作に高度な技術を必要とする製品の交易が認められる。石器の材料となる黒曜石はアメリカや西アジアでも広く使用されたが,日本では十勝岳,長野県和田峠,伊豆,隠岐,大分県姫島,阿蘇などの地域に産地が限定される。サヌカイトは奈良県・大阪府二上山,兵庫県岩屋,香川県金山,広島県冠山などに産するものが使用された。これらの石材は先縄文時代から弥生時代まで,打製石器の石材となった。弥生時代の福岡県今山産の玄武岩製の石斧や,同県立岩産の輝緑凝灰岩製の石庖丁において製品の交易が説かれているが,石材や製品が交易されたのか,製作者が石材産地に出向いたのかは未解決である。ヨーロッパでは石器の石材にフリントが多く使われたが,イギリス諸島では四つの産地が著名である。その一つのグライムズ・グレーブズ遺跡では大きな採石場があり,ここのフリントはイギリス各地に流通した。また琥珀(こはく)はバルト海沿岸の良質の品が青銅器時代から広くヨーロッパ各地に交易された。中国の雲南省や日本の新潟県姫川産の硬玉は装身具の材料として広く流通した。南海産の子安貝は旧石器時代のフランス,殷代の中国,縄文・弥生時代の日本の遺跡などで発見される。このほか,塩や接着剤のアスファルトなども交易の対象となった。金属器や陶器など,高度な技術で製作されたものの交易は青銅器時代以降に発達した。古代エジプトのファイアンスの青色の玉は流通範囲が広く,イギリスの墓地遺跡でも出土する。ヨーロッパでは交易品たる青銅器を携えて移動する人々が,製品を一時的に保管した埋納遺跡がある。原始社会の交易は小地域内のもの,広域にわたるもの,ともに互恵的な性格が強いが,古代には支配者によって政治的に掌握され,貢納物資として流通するものも現れた。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

普及版 字通 「交易」の読み・字形・画数・意味

【交易】こう(かう)えき

貿易、互市。〔易、辞伝下〕日中に市を爲し、天下の民を致し、天下のを聚め、易してき、各其のを得しむ。

字通「交」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「交易」の意味・わかりやすい解説

交易
こうえき
trade

商品交換,いわゆる貿易と同義であるが,貨幣を用いない物々交換を含むか,ないしは物々交換に重点をおいた語として用いられる場合が多い。交易の歴史は古く,貨幣経済に先行する時代のみならず,原始社会においてすら行われた。人類の歴史は一面交易の歴史ともいうことができ,隊商,シルクロードという言葉にもみられるように,人類の文化の発展に大きく寄与してきた。しかし,商品交換としての交易が社会的規模で,しかも社会の再生産の不可欠の過程となるのは,貨幣経済の成立,ひいては資本主義的商品生産の確立をまたなければならなかった。

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