知恵蔵 「ハラール食品」の解説
ハラール食品
ハラームに関する事件として有名なものには1857年に始まるインド大反乱(セポイの反乱)がある。イギリス東インド会社がその傭兵であるセポイたちに支給する火薬の薬包紙に牛や豚の脂を使ったとされたのが、反乱のきっかけになった。当時の銃は薬包紙を口で噛(か)んで装填(そうてん)していた。ヒンズー教徒にとって牛は神聖な動物であり、ムスリムにとって豚の脂はハラームとなるから、いずれにしても口にするのははばかられることになる。ムスリムの宗派や信仰のありようなどによってハラールの基準は一定ではないが、現在も重要な事柄として順守される。コーランには、死肉や血、豚肉及びアラーの神以外の名で供えられたものは、ハラールに反し、食べることが禁じられると明記されているし、ハラールに反する餌で飼育された家畜や豚の糞(ふん)で育てた作物すらもハラールに反すると考えるムスリムもいる。インドネシアでは化学調味料製造に用いる酵素に豚由来のものが使われたと指摘され、2001年には日本人社員らが逮捕されるという事件に発展、製造方法の切り替えが行われた。イスラム諸国ではこのような運用が行われているため、ハラームにならない合法な食品だけが市場に出回る。このため、逆に異教徒用に限定的に供されるハラーム食品の表示がなされることもある。その一方、日本を始め非イスラム圏では食品がハラールであるかどうかは、外見や成分表示だけでは明確ではない。このため、ムスリム向けにハラール認証を受けた食材を販売する店や、食事を提供する施設も登場してきている。いくつかの大学の食堂でも留学生向けにハラール食品を用意している。また、食の安全への懸念が強まる中国国内では、厳格な管理がなされるハラール食品が注目されているという。
(金谷俊秀 ライター/2014年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報