作物(読み)さくもつ(英語表記)crop plant

精選版 日本国語大辞典 「作物」の意味・読み・例文・類語

さく‐もつ【作物】

〘名〙
① 農作物、工芸品などのように、自然、人工の過程を経て作られて、人の日常の便に用いられるもの。さくもの。さくぶつ。
※続日本紀‐天平宝字元年(757)四月辛巳「及預周忌御斉種々作物
② 掘り取った鉱物から作ったもの。
※三代格‐一四・承和八年(841)閏九月二九日「件銭毎年鋳作可進。而始九年于今年。堀採之銅乏少、作物之数有欠」
③ 特に、絵画、彫刻、詩歌、小説など、何らかの表現意図をもって創作された、いわゆる芸術作品。さくぶつ。
※妻(1908‐09)〈田山花袋〉一五「此処では当時の文壇の趨勢や作物(サクモツ)の批評が一室を賑かにした」

さく‐もの【作物】

〘名〙
① 刀剣や器具などの名匠が製作した物。名作の物。
※歌舞伎・好色芝紀島物語(1869)二幕「郷太夫から川流れに、流れこんだ此の短刀、切味の塩梅ぢゃあ、何でもこれは作(サク)ものだ」
③ 地唄の一つ。座興を主とした滑稽な内容の語りもの。宝暦(一七五一‐六四)頃の作が多い。「荒れ鼠(ねずみ)」「狸(たぬき)」「たにし」など。

さく‐ぶつ【作物】

〘名〙
① 作ったもの。
② 特に、絵画や彫刻、詩歌や小説などの作品。
※風流魔(1898)〈幸田露伴〉一「作物(サクブツ)たまたまに出れば価必ず貴し、最も惜むべきは此人なり」

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デジタル大辞泉 「作物」の意味・読み・例文・類語

さく‐もつ【作物】

田畑につくる植物。穀類や野菜など。農作物。さくもの。「園芸作物」「救荒作物
さくぶつ」に同じ。
[類語]農作物農産物

さく‐ぶつ【作物】

製作したもの。特に、文学・美術上の作品。
「著者の名前も―の名前も」〈漱石
[類語]作品

さく‐もの【作物】

名匠の製作した刀剣や器具類。名作の物。
農作物。さくもつ。
地歌の一種で、こっけいな内容を座興的におもしろおかしく歌ったもの。「荒れ鼠」など。おどけもの。

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改訂新版 世界大百科事典 「作物」の意味・わかりやすい解説

作物 (さくもつ)
crop plant

作物とは,農業に利用するために,人が繁殖と生育とを保護管理する植物をさす。たとえばイネは米という農業生産物を得るために,水田を作り,苗を植え付ける。そして肥料をやって生育を助長し,水田に侵入する他の植物(雑草)を除き,病気のまんえんや虫の害を防ぐなどの保護管理作業を続け,収穫にいたる。また,キクイモは,イモを食用あるいは飼料とするために栽培管理する場合は作物であるが,荒地や河原に逸失して野生化して人の管理を受けていない場合は作物とはいえない。作物は人間の力をかりて種族の繁栄をはかり,人間はその作物の一部を生活に利用している。いわば共生的関係をもっている。そこで人間と共生関係にある植物を作物と定義している学者もいる。

 作物は人間の保護管理を永年にわたって受け続けている間に,人間のつごうがよいように形質が改変されたものが多い。作物になった植物は,もともと特定の器官が一般の植物にくらべて形態的あるいは質的に発達のすぐれたものであったが,作物とされてからはことさらにそれが強調される方向に〈改良〉された。たとえば数十kgの果実をつけるカボチャとか,太い根のダイコンなど,特定の器官が巨大化され,植物として奇形的なものに変えられている。また種子の休眠性が失われるなど,植物としての本性のいくつかを失わされたり,環境への抵抗性や自衛手段などの一部,たとえば,のぎやとげ,あるいは体内に含んでいた毒物などがなくなってしまったものが多い。これらの結果,種族の繁殖や維持を,自力でおこなう能力を減少あるいは喪失してしまっているものも少なくない。たとえば,トウモロコシは人間の保護管理を離れれば,絶滅してしまうであろうし,日本の主作物であるイネも,種子を人間が保存し,翌春まきつけてくれなければ,日本の気候条件下ではたちどころに滅びてしまう運命にある。すなわち作物の多くは,人間の保護管理を不可欠として生存する,いわば人間に依存する植物群である。現在の作物の多くは,人間によって人工交配,人工突然変異,染色体の人工倍加その他の方法によって,人工的に作り出されたものであるが,さらに細胞融合,花粉培養,カルス培養その他,自然界では起こりえない,さまざまな方法で人間が作り出す作物もしだいに増えてくる傾向にある。

作物は全世界に約2300種,そのうち日本で栽培される作物は500種ほどあるといわれている。これらの作物について,従来,いろいろな分類がおこなわれてきている。本来作物は人間生活上の利用,農業上の利用関係の上に成立するものだから,その分類基準も人間の利用目的,栽培方法,流通形態など多面にわたり,またこれに利用部分の植物体内での部位,植物学的分類上の位置づけをいかに加味するかによってその分類は多様化する。現在では,主として作物の用途や栽培事情などに重点をおいて,分類するのが一般で,作物の研究分野もこれに対応して分化している。すなわち,まず作物を農作物と園芸作物とに大きく分ける。農作物は,粗放な栽培管理に耐え,商品としては,まとまった一定量を必要とする。一方,園芸作物は,集約的な栽培管理を必要とし,鮮度が重視され商品価値の高い作物である。

 農作物は,さらに利用目的により,食用作物,工芸作物,飼料および緑肥作物に区分される。食用作物とは,穀類やマメ類など,いわゆる穀物といも類をさし,主食,あるいはその代用食として人間のエネルギー源となる食糧を生産する作物である(〈食用植物〉の項目を参照)。工芸作物とは工業や工芸の原料となる作物で,収穫物は程度の差はあっても,加工の過程を経て利用される。工芸作物はさらに用途によって,繊維料作物,油蠟料作物,糖料作物,デンプンおよび糊料(こりよう)作物,嗜好(しこう)料作物,香辛料作物,芳香油料作物,ゴムおよび樹脂料作物,タンニン料作物,染料作物,薬料作物などに分ける。飼料および緑肥作物のうち飼料作物は,家畜や家禽(かきん)の餌(飼料)とする作物で,飼料用として畑に栽培される作物(食用作物に分類される種も多い)のほか,草地に栽培される牧草類などが含まれる。緑肥作物は田畑にすき込んで肥料とするために栽培するレンゲソウなどの作物をさす。

 一方,園芸作物は野菜,果樹,観賞作物に区分される。野菜は一般には草本植物で,食用とする部分によってキュウリ,ナスなどの果菜類,ダイコン,ニンジンなどの根菜類,キャベツ,レタスなどの葉菜類,アスパラガス,ウドなどの茎菜類,カリフラワーなどの花菜類に分ける。果物は,おもに木本植物の果実を食用とする作物で,ナッツ類も含め多くの種類の作物がある。観賞作物は,花や葉などを観賞に供するために栽培される作物で,キク,カーネーション,ランの仲間など多種ある。

 以上の区分の内部の細分類は,植物学的な自然分類が適用されることが多い。しかし,単位となる個々の作物は,必ずしも植物学上の種と一致するわけではない。たとえば,作物としてのアブラナには,アブラナBrassica campestris L.とセイヨウアブラナB.napus L.の植物学上の2種が含まれている。逆に,作物としてはキャベツ,メキャベツ,コールラビブロッコリー,カリフラワーと区別されているものも,植物学的には,B.oleracea L.1種に属するものである。

 また,同一種の植物が,さまざまな用途に利用される場合は,それぞれに重複して分類されることも起こりうる。たとえば,ダイズは豆を食糧とするための食用作物であり,豆から油を採るために栽培すれば工芸作物中の油料作物に分類され,家畜の餌に利用すれば飼料作物となる。また未熟な豆を枝豆として食べる場合には,野菜の果菜類に分類される。現実的には,植物学的には同一種でも,それぞれの用途によって使用する品種が異なることが多く,また,栽培方法も必然的に変わってくる。

 このほか,作物は時と場合により,次のような分類方法が適用されることもある。(1)栽培の集約度や方法などを考慮せずに,単純に収穫物の用途だけを考えて,食用作物,飼料作物,工芸作物,観賞作物に分ける。(2)栽培される耕地の状態を重視して,湛水(たんすい)した水田に栽培される田作物と畑に栽培される畑作物とに分ける。(3)栽培地域の気象地理的な相違を考慮し,気温のちがいによって寒地作物,温帯作物,熱帯作物に,あるいは降雨量の違いによって乾燥地作物と湿地作物とに分ける。(4)栽培の経時的前後関係に注目して,表(おもて)作物と裏作物とに,あるいは前作物と後作物とに分ける。

(5)栽培の目的に主従関係がある場合には,主作物,副作物,随伴作物などに分ける。たとえば,日本の水田ではイネが主作物,冬季に水田を排水して作るナタネは副作物である。また,たとえばクローバーの牧草地を作るのに,まず初期生育が早く,雑草などの侵入を防ぐことに役だつエンバクを混播(こんぱん)しておくが,この場合のエンバクを随伴作物(コンパニオン作物)という。(6)栽培技術上の目的によって,たとえば前作物と後作物の間の裸地の土壌流失を防ぐために植える作物類を捕捉(ほそく)作物,果樹園の下地の土壌流失を防ぐための牧草類などを被覆作物,主作物に対し強い日照を防ぐ目的で間作されるものを被陰作物などと呼ぶ。

狩猟や採集により食物を得ていた人類は,山野から野生植物の種や果実,いもなどを集めているうちに,植物の生長や繁殖についての型式を理解するようになったと思われる。さらに,生活がある程度定住化した場合,食べ残したり捨てた植物体の一部や種から,芽が出て生育し,再び食べられる実やいもができることを学ぶ機会もあったろう。このような知識の積重ねから,食用となる植物が栽培されるようになり,作物が誕生した。人類が作物を栽培し農耕を営み始めたのは,今から約1万年前のことと推定される。しかし,作物を栽培するということは単純なことではなく,土地を耕したり,作物の生育を管理するなどの技術を覚えなくてはならない。これにはかなりの知識の積重ねが必要で,初めからそのような完全な農耕がおこなわれたのではない。おそらく当初は,一定の活動範囲の中に生える食糧となる野生植物に,一種の所有権のようなものができ,それを害獣や他人にとられないように保護し,さらにはこれを居住地の近くに移植し,管理をおこなうといった農耕の前段階ともいうべき半栽培の状況があったと思われる。現在もなお,狩猟採集生活をしている原始的部族の間に,こうした前栽培的過程の姿を見いだすことができる。北アメリカのインディアンの野生マコモに対する所有権とそれの保護などは,その一例とみてよいであろう。一度農耕生活の形態ができあがると,定住化は強くなり,作物の種類も徐々に増えていき,特色のある作物群をもった農耕文化が生まれる。

 多くの野生植物の中から,一つの作物が選び出される過程で,最も重視される条件は,その植物が人間の食糧としてあるいは生活に必要な資材として,とくに有用な形質をもっていたということである。しかし,それに加えて,その植物が人間の栽培という行為に適応できる性質をもっていなくては,作物として成立することが困難である。いわゆる山菜やキノコの中には,食用に適し,しかも美味でさえあるのに,栽培化がむずかしいことから,いまだに野生を採集することに頼っているものが数多くある。これらは,栽培への適応性のないこと,あるいは人間がその植物の生活史をいまだに把握できないことなどから,栽培が困難で農業に適さず,作物として成立できないでいるのにほかならない。

作物は民族の移動,交易,戦争,宗教の伝布など,さまざまな人間の活動に伴って世界各地に広まった。その伝播(でんぱ)距離は古代においてもかなり大きなものがあり,それはおもに民族の大移動,渡来,交流によっている。たとえば石器時代にインド・ヨーロッパ語系の諸族の一部が,西アジアから先住民族を駆逐しつつ,小アジア,バルカン北部を経てアルプス北部まで達する大移動をおこなったといわれるが,その際に西アジアに起源したいろいろな作物をヨーロッパにもたらした。日本への縄文時代における作物の伝来も,大陸あるいは南方島嶼(とうしよ)から作物をたずさえて諸民族が渡来してきたことによると考えられている。

 また古代文明の栄えた土地に集められた作物は,その文明の勢力範囲一帯に広められた。西アジア原産の作物はメソポタミアに集められて,またその周囲に普及した。ナイルの沃野に集められた作物はエジプトの文明を栄えさせ,それがギリシア,ローマへと引き継がれた。マケドニアアレクサンドロスの大遠征は,インドの作物を地中海域にもたらした。そしてローマ帝国による広大な勢力圏の経営は,イギリスや北ヨーロッパにまでオリエントの作物を伝えた。また,ペルシア帝国の繁栄は西側の多くの作物を集め,それをシルクロードを経て中国に伝え,さらにインドへと伝えた。同じ経路は逆に中国やインド起源の作物を西方へ中継する役割を果たした。一方,アフリカとインドとの間には,古代から海路での交流があり,多くの作物が相互に伝播し,また,インドネシアや南太平洋地域へと広がった。これらとは別に,アメリカ大陸では,中央アメリカの文明と南アメリカのアンデスに栄えた文明との間でも作物の相互伝播があった。しかし,アメリカ大陸と他大陸との相互伝播は近世初頭までほとんど認められていない。

 15世紀末のコロンブスの新大陸発見は,新旧大陸間の作物伝播をひき起こし,世界の作物栽培に大変革をもたらすことになった。新大陸原産のジャガイモ,サツマイモ,トウモロコシ,タバコ,トウガラシインゲンマメ,そのほか現在の世界の主作物となっているものが続々と旧大陸へ伝来した。その後,植民地経営のために,旧大陸のコーヒー,コムギ,サトウキビなどが新大陸へ導入され,とくに北アメリカへはヨーロッパの移民が,ヨーロッパの作物のほとんどすべてをたずさえていった。また,西アフリカとの奴隷貿易は両大陸の多くの作物を伝播交流させることになった。

 こうした伝播により,作物は原産地と著しく異なった環境下で選択淘汰がなされたため,作物の分化発達はいっそう促進され,その変異の幅を広げた。また,伝播先での環境が,原産地よりもその作物の栽培に適しており,より優秀な作物となって,多くの品種が分化し,大量に生産されるということも多くみられた。

 日本に,最も古く渡来した作物はアワやヒエなどと考えられている。これらは中国から朝鮮半島を経て伝来したとされる。縄文時代の末にはイネがもたらされ,日本の農耕文化は大きく変化した。これは稲作文化をもった人々が,大陸から移住して来たことによると推定されている。同時代にはコムギやオオムギ,ダイズも伝来した。またキビ,ソバ,エンドウ,アズキなども次々に伝わり,野菜ではキュウリ,マクワウリ,ナス,ダイコン,カブ,ネギなどが10世紀までに渡来していた。新大陸起源のサツマイモ,ジャガイモ,トウモロコシ,ラッカセイ,トウガラシ,トマトなども江戸時代に伝来した。また,明治初期には政府が積極的に欧米の作物を導入し,今日,日本で栽培される作物のおおよそがそろった。

作物は栽培されることにより,個体の密度や土壌の肥沃度,水分状態など,野生のときとはちがった環境で生育するようになる。そこへ保護や選抜,淘汰など人間の操作が加わって,野生時代の形質がしだいに変化させられ,人間にとってより有利な作物へと発達した。本来もっていた諸性質のうち,発芽や生育のそろうことや病気への強さ,成熟する時期,収穫物の大きさや味覚,貯蔵性などは,ごく原始的な時代からも,ほとんど無意識的に選抜の規準とされたであろう。また,人間の保護と選択とによって作物の形質が変えられた。たとえば,害獣から保護されたいも類は,地中の浅い所にいもを作るようになり,鳥から守られた穀類はのぎが短くなり,その他茎葉のとげや毒はなくなった。それは栽培や収穫のしやすさから人間がそのような形質のものを選抜したからである。また,栽培環境の変化は,遺伝子にも影響を及ぼした。人間の保護で強い自然選択圧なしに多くの個体が生き残れるようになったため,個体変異の幅が広まった。また突然変異の発生率が野生時代に比べて格段に高まったとも考えられる。とくに,原始的な過程で,すでにおこなわれた焼畑や灌漑による土壌環境の変化は,突然変異誘発の強い要因となったと思われる。さらに集団的に栽培されることになった結果,作物個体間の交雑,あるいは作物と雑草などの近縁野生種との交雑の頻度も高まった。さらに作物の染色体の倍加が起こったことも重要で,現在の作物の大部分は原生野生種に対して二~三倍体化している。さらに栽培が続くに従って,遺伝子もますますその変異の幅を広げ,それに選抜がいっそう強まって,作物の発達はますます進み,かつ多様化の度を強めたのである。

 こうして一つの作物の中に多くの品種や系統が分化し,とくに著しい分化をとげたものは,もとの作物からはもはや異なる新しい作物として成立することさえあった。たとえばトウモロコシの場合,原生野生種が原産地と推定される中央アメリカにも南アメリカにもまったく発見されない。このことは,作物としてとりあげられた原生野生種が,栽培されている間に,近縁の野草と交雑を繰り返して祖先種とは著しく形質の異なった作物となり,それが人間にとって祖先種より好ましかったため,新生種だけが残され,祖先種の系統は捨て去られて絶滅してしまったからであろうと考えられている。パンコムギも,これに似たプロセスで生じたらしい。幸い,コムギの場合は原生種と思われるものも残存し,関係したと考えられる近縁野生種も見いだされたため,栽培されている間に近縁の雑草と交雑しながら発達してきたパンコムギのできあがる過程が実験的に証明された(木原均,1944)。

 また,作物が原産地から遠くへ伝播されるにつれ,異なった自然環境へ適応し,異なった文化をもつ人間によっての選抜,淘汰がおこなわれるから,作物は起源地のものと著しく異なった方向へ分化した。たとえば,ダイコンは原産地パレスティナ=カフカス地域から,西方へ伝わったものは,祖先形とあまり大きさが変わらず,辛味スパイス的な用途のものとして,ハツカダイコンや黒ダイコンに発達した。これに対して,東方へ伝わったものは,東アジアの米食地帯で米によくあう副食として重要視されたため栽培が広まり,いろいろな変異が引き出されて多様な品種群が発達した。すなわち,中国においては辛みをもった華北系のダイコン品種群と,辛みは少なく米食の菜として煮食を主とする大型の華南系ダイコン品種群とに分化した。さらに日本に伝来してからは,日本人の生活嗜好に適合した長さや形の多様なダイコンに分化発達した。桜島ダイコンや守口ダイコンなどはその著しい例である。インドに伝わったダイコンには,根でなく,肥大した莢(さや)を食用とする著しく異質な系統へと変わったものもある。このように,作物は伝播に伴って,その地域の文化に適合したものへと変質させられていくこともある。

 近代になると,生物学など自然科学の発達により,作物はより積極的に改良されることになった。遺伝に関した知識に基づいた人為交配や選抜淘汰がおこなわれ,求める改良品種の育成をより容易にした。実際,品種改良は過去100年の間に目覚ましい成果をあげ,多くの作物の形質はそれ以前のものと格段の変化をとげた。人為交配は品種間にとどまらず,種間や属間についてもおこなわれ,まったく新しい作物も作り出されている。たとえば,ライムギとコムギとの異なる属の作物を交配することにより,新作物ライコムギが誕生している。また,雑種の第1代は,多くの形質が両親より強勢となる性質があることを利用して,一代交配品種(ハイブリッド品種)が作られている。さらに,それを作るための雄性不稔品種など,品種を作るための品種の育成までおこなわれている。また,薬品や放射線による染色体の変化や突然変異の人為誘発もおこなわれ,さらに現在では,その作物自身ではおこないえない生殖の方法,たとえば葯培養,体細胞のカルス培養,人為的体細胞融合,遺伝子の組換えなどを,人間がおこなって,自然界では誕生しえなかったまったく新しい作物を創出する技術がすでに実用化され始めている。

作物の特徴は生長と繁殖である。この特性を利用して最も多くの生産を,最も合理的にあげることが,農業における作物栽培の目的であり,その方法が栽培技術である。そのためには個々の作物の性質を見きわめ,すべての知見を整理し,まだ明らかにされていない性質は究明し,合理的な作物の栽培技術を作る基盤とする必要がある。そのための学問が作物学である。

 地球上でこれから農耕地として開拓できる土地は限られている。しかし,人口はますます増加している。現在でも飢餓に苦しむ人々は4億人,現人口の10分の1にものぼるといわれ,現在の生産では世界的な食糧不足が起こるのは時間の問題である。したがって限られた耕地をより有効に利用して,作物の生産量を増加させる以外に,世界的な食糧不足を防ぐ道はない。作物学を基盤にして,農業生産の技術を改良することは,今や緊急な重大問題となっている。
栽培植物 →有用植物
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「作物」の意味・わかりやすい解説

作物
さくもつ

農業に利用するために、人が繁殖と生育を保護・管理する植物。たとえばイネは、農業生産物である米をとるために、水田を耕し、種(たね)を播(ま)き、苗を移植し、収穫までの期間、保護・管理する作物である。ところが東南アジアの一部の地域においては、湿原に野生するイネからその子実を採集して食用としており、この場合は作物とはいえない。このように、作物とは、ある特定の種(しゅ)の植物をさすのではなく、農業に供せられる場合に限って作物とよびうる。

 いまから約1万年前、それまで狩猟中心の移動生活をしていた人類が、ある程度定住生活をするようになり、それがきっかけで農業を始めたといわれるが、農耕と同時に作物は誕生した。農耕文化が発達するにつれて作物の種類は増え、それらは農業生産を高めるように改良され、また原産地から世界各地へと伝播(でんぱ)された。

 現在、作物は全世界に約2300種余りあるといわれ、そのうち日本で栽培される作物は約500種ほどである。作物は、その栽培方法や商品価値、利用目的、利用部分、植物学的分類などを総合的に判断して分類されている。一般的分類によると、作物は農作物と園芸作物とに大別される。農作物は比較的粗放な栽培管理に耐え、まとまった量を生産できる。一方、園芸作物は精度の高い栽培管理を必要とし、1個体当りの商品価値が比較的高い。農作物は利用目的により、食用作物、工芸作物、飼料作物、緑肥作物に分けられる。

 食用作物とはイネやムギ類、ダイズなどの穀物やサツマイモ、ジャガイモなどのいも類などで、主食をはじめ人間生活のエネルギー源となる作物である。工芸作物とは工業や工芸の原料とするための作物である。用途によって、デンプンおよび糊料(こりょう)作物(サツマイモ、コンニャクなど)、糖料作物(サトウキビ、テンサイなど)、油蝋(ゆろう)料作物(ダイズ、ラッカセイ、ベニバナ、アブラヤシなど)、芳香油料作物(バニラ、ラベンダー、ジャスミンなど)、香辛料作物(コショウ、シナモン、ワサビなど)、嗜好(しこう)料作物(チャ、コーヒー、タバコなど)、繊維料作物(ワタ、アサ、イグサ、コウゾなど)、ゴムおよび樹脂料作物(パラゴム、パナマゴム、ウルシなど)、タンニン料作物(ワトル、カキなど)、染料作物(アイ、ベニバナなど)、薬料作物(チョウセンニンジン、オウレン、ホップなど)などに細分される。飼料作物とは家畜や家禽(かきん)の餌(えさ)とする作物で、トウモロコシやソルガム、オーチャードグラス、イタリアンライグラス、アルファルファ、レッドクローバーなど種類が多い。また、緑肥作物とはレンゲソウなどのような田畑にすき込んで肥料とする作物をさす。

 園芸作物は野菜、果樹、観賞作物に区分される。野菜は利用部分によって、果菜類(キュウリ、ナス、ソラマメなど)、花菜類(カリフラワー、アーティチョークなど)、茎菜類(アスパラガス、ウド、コールラビーなど)、葉菜類(キャベツ、コマツナ、ホウレンソウなど)、根菜類(ダイコン、ニンジン、ハスなど)に分ける。果樹はおもに木本植物の果実を食用とするもので、リンゴ、ナシ、モモ、ミカン類、ブドウなどがある。また、クリやアーモンドなどのナッツ類も果実に含まれる。観賞作物とは、花や葉などを観賞用に供するために栽培するもので、キクやラン、シダ植物など多くの種類がある。

[星川清親]

作物禁忌

特定の作物を栽培することを忌む風習。農作物にはそれを育成する神々の信仰がある。稲作には田の神を迎えて祭る儀礼が全国的にみられる。種播(たねま)きから収穫まで田の水口(みなくち)に田の神を祀(まつ)って供え物をする。このことは田植唄(うた)の歌詞にも歌われている。農作物の作業に関していろいろな禁忌俗信が言い習わされている。農作業について日の吉凶ということがある。稲作にはこれがきわめて多く播種(はしゅ)から収穫まで「よくない」という日が多い。苗月、苗厄という日があり、この日は苗をとらぬとか、田植をしないとかいう。畑作については稲作ほど「よくない」日というのは少ないが、四菜九菜(しなくな)といって月の4日と9日には菜を播かない。4月には死牛蒡(しごぼう)といってゴボウをつくらない。畑作物には稲作と違って家または村で、ある種の作物をつくらぬとか食べないという禁忌がある。福島県ではこれを家例(かれい)といっている。この種の作物ではモロコシ、トウモロコシ、キュウリ、カボチャなどがある。その理由として、たとえばモロコシならば、家の先祖が戦いに敗れて逃げたとき、モロコシ畑で敵に殺されたから、などと言い伝えている。また村で禁忌としている場合は、たとえば天王(てんのう)様を氏神としている土地でキュウリを食べないのは、それを輪切りにしたものが氏神の紋所に類似しているから、といったたぐいである。

[大藤時彦]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「作物」の意味・わかりやすい解説

作物
さくもの

地歌の分類名称。滑稽な内容をもつ語り物風の戯作物をいい,俗に「おどけ物」ともいう。宝暦8 (1758) 年刊行の横梁編『琴曲松のみばえ』で分類されるのが文献上の初出か。本来座興的に作られたものが多く,作詞者,作曲者を明らかにしない。曲によっては「半太夫物」の分類に入れられている場合もある。現在伝えられている曲としては,『荒れ鼠』『蛙』『尻づくし』『たにし』『浪花十二月』,『狸』 (鶴山勾当作曲の同名の端歌とは別曲) などが代表的。

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普及版 字通 「作物」の読み・字形・画数・意味

【作物】さくぶつ

制作物。

字通「作」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の作物の言及

【地歌】より

…また,元禄期に上方の座敷浄瑠璃として行われた半太夫節なども地歌に吸収され,地歌で独自に作られた〈繁太夫物〉〈半太夫物〉もある。座興的に作られたもので,詞章の固定性の薄いものは,宝暦ころからとくに〈作物(さくもの)〉と呼ばれ,結果として滑稽な内容のものが多い。 現在は京都,大阪とも,盲人音楽家たちの子孫が伝承を伝えているが,箏曲家を兼ねる。…

※「作物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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