イスラム法に定める行為の5範疇のうち,第5番目の禁止される行為をいう。イスラム法では,ハラームをなした者にのみ刑罰が科せられる。刑罰は神による罰と人による刑罰に分けられる。不信仰などの最も重いハラームの行為をなした者は,神によって罰せられる(来世は地獄に落とされる)が,大部分の行為は人によって罰せられるものである。殺人,傷害などの人身への加害は,同害報復の原則で被害者の近親者によって復讐されるか,血の代償であがなわれる。姦通,中傷,飲酒,窃盗などもハラームの行為で,コーランによって行為者への刑罰は定められている。詐欺,恐喝などのハラームの行為は,その刑罰はコーランには定められていないが,カーディー(裁判官)によって刑罰が個々の場合に応じて定められる。豚肉や死肉を食べること,利子を取ること,月経中の女と通じることなどもハラームであるが,とくに定められた人による刑罰はない。
ハラームは,メッカのカーバを囲む聖所がマスジド・アルハラーム(聖モスク)と呼ばれるように,神聖不可侵を意味する。ハラームと同じ語根から派生したハラムḥaramは,流血・殺生・伐採禁断の地,つまり聖域を意味し,前イスラム時代にはメッカ周辺の地がハラムとされ,イスラム時代には,メディナ周辺の地,およびエルサレムの岩のドーム,アクサー・モスクを含む区域もハラムとされた。
→ハレム
執筆者:後藤 晃
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アラビア語で「禁止」をさす名詞,形容詞。特にシャリーア上の禁止をさし,法的にも宗教的にも制裁が予定されていること。例えば豚肉などの禁止物をさす。転じて侵されざる聖域の意味で,特にメッカ,メディナをさす。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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