僭主(読み)せんしゅ(英語表記)tyrannos

精選版 日本国語大辞典 「僭主」の意味・読み・例文・類語

せん‐しゅ【僭主】

〘名〙 君主称号を、自分の身分を越えてとなえる者。多く武力で君主の位を奪った者にいう。
(イ) 古代ギリシアで、非合法の手段によって政権を奪取し、独裁制を樹立した人物。主に貴族制から民主制への過渡期に現われるが、民主制の崩壊期にも出現した。前者典型アテナイペイシストラトス後者にはシラクサのディオニュシオス一世がある。タイラント
※零の発見(1939)〈吉田洋一直線を切る「紀元前五三二年にポリクラテスサモスの政権を握って僭主となるといふ事件が起った」
(ロ) ルネサンス時代の都市国家で共和政治の混乱を収拾して独裁制をしいた君主。フィレンツェメディチ家が有名。

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デジタル大辞泉 「僭主」の意味・読み・例文・類語

せん‐しゅ【×僭主】

身分を越えて君主の称号をとなえる者。
古代ギリシャのポリスで、非合法手段によって政権を握った独裁者貴族制から民主制への過渡期に出現。アテネペイシストラトスなど。タイラント。

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改訂新版 世界大百科事典 「僭主」の意味・わかりやすい解説

僭主 (せんしゅ)
tyrannos

前7世紀の後半から前5世紀の前半にかけて,ギリシアの多くのポリスに現れた独裁的な支配者総称英語のタイラントtyrantはこれに由来する。彼らはほとんどが貴族の家柄であったが,貴族政の乱れに乗じてこれを倒し,非合法な独裁政を打ちたてた。このために,彼らは外国の貴族や傭兵の力を借りたが,最も頼みにしたのは自国の民衆であった。民衆には中流市民,下層市民,さらに奴隷がいたが,貴族政に反抗するという点では僭主の座に野望を燃やす者たちと気持ちは一つであった。そこで僭主のほとんどは民衆指導者(デマゴゴスdēmagōgos)として現れ,民衆の支持のもとに貴族政を倒し,僭主の座に就くことができたのである。

 僭主は,貴族の土地を没収して貧農に分かち,資金を貸し与えるなど下層農民の経済的な地位の改善に努めた。また商工業をすすめ,植民市をたて,盛んに土木建築事業を行った。さらに詩人や芸術家を集めて,彼らの支配に輝きを添えた。そしてアテナイのペイシストラトスなどのように民衆の人気を得るためディオニュソス信仰を奨励する僭主もいた。しかし,彼らは一方で官職を一味のもので独占したり,田園の農民が中心市に移り住むのを抑えたり,また市民から武器を取り上げて傭兵を雇ったりした。これらの僭主の矛盾した政策は民衆の反僭主熱を高め,外国の介入も加わって,やがて僭主政は倒され,一般に短命であった。こうして僭主政は,独裁支配という点で反民主的なものでありながら,貴族政を打倒し,古代民主政への道を切り開いたという点では歴史的に大きな役割を果たしたといえよう。なお前5世紀末から前2世紀にかけて,再び僭主政が現れるが,それは前5世紀前半以前のものとは性格を異にしていた。
独裁
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「僭主」の意味・わかりやすい解説

僭主
せんしゅ
tyrannos; tyrant

古代ギリシアのポリスで,非合法に独裁政を樹立した支配者。本来この語には「暴君」の意は含まれず,悪い意味が付加されるようになったのは民主政期,特に前4世紀のプラトン以降である。王政と違いその支配が正統ではないため,僭主の地位維持には困難もあり,多くは1,2代で終っている。前7~6世紀の前期僭主と,前4~3世紀の後期僭主とに分けられ,前者にはコリントのキュプセロスペリアンドロス,アテネのペイシストラトス,シキュオンのクレイステネスらがおり,多くは貴族の出身で,貴族政の動揺期に貴族と平民の対立を利用して独裁政を打立て,民主政への過渡期のポリスにおいて,巧みな政策によって民衆の指導者の役割を果し,ポリスの発展に貢献した場合も多かった。後期僭主にはテッサリアのフェライのイアソン,シラクサのアガトクレスヒエロン2世らがおり,前期僭主以上に軍事力を背景に独裁権を握り,民主政の形式は守ったが,それも市民共同体のためであるよりも,自己の支配権保持のためであった。

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百科事典マイペディア 「僭主」の意味・わかりやすい解説

僭主【せんしゅ】

古代ギリシアにおいて非合法手段により政権を獲得した支配者。tyrannosという。ふつう前7―前6世紀貴族政から民主政への過渡期に現れたものをいい(アテナイのペイシストラトスなど),前5世紀末から前2世紀にかけて現れた軍事指導者的性格の強いもの(シュラクサイのディオニュシオス1世など)とは性格を異にする。
→関連項目アナクレオンオストラキスモスクレイステネス

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「僭主」の意味・わかりやすい解説

僭主
せんしゅ
tyrannos ギリシア語

古代ギリシアのポリスにおいて、非合法的に政権を獲得した独裁者。ギリシア語のティラノスは、「暴君」を意味する英語タイラントtyrantの語源で、紀元前5世紀以後「暴君」的な意味の用法が一般化したが、元来はおそらく「主人、主君」を意味するリディア語で、ティラノスも前7世紀には、ほとんど「王」と同じ意味で用いられた。実際の僭主もかならずしも暴君とは限らず、穏和な支配者もあった。

[清永昭次]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「僭主」の解説

僭主(せんしゅ)
tyrannos[ギリシア],tyrant[英]

英語のタイラントはギリシア語のテュランノスに由来する言葉であるが,この語は本来ギリシア語ではなくて,王とか独裁者を意味したアナトリア方面の言葉ではないかといわれる。前7世紀以来ギリシアの各地に貴族支配を倒して現れた非合法な支配者がテュランノスと呼ばれた。邦語では僭主と訳すが,これは僭越な支配者の意味であり,タイラントを暴君の意味に使うのは後世の用法である。

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旺文社世界史事典 三訂版 「僭主」の解説

僭主
せんしゅ
tyrannos

古代ギリシアの都市国家において非合法に政権を獲得した独裁者。英語のtyrant(暴君)の語源
①前7〜前6世紀の貴族政から民主政への過渡期に,民衆の力を利用して貴族をおさえ,僭主になったもの。アテネのペイシストラトスら。
②ペロポネソス戦争後の民主政の腐敗した前4〜前3世紀に出現した独裁者。シラクサのアガトクレスら。

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普及版 字通 「僭主」の読み・字形・画数・意味

【僭主】せんしゆ

僭擬の主。

字通「僭」の項目を見る

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