改訂新版 世界大百科事典 の解説
バンクロフトシジョウチュウ (バンクロフト糸状虫)
Wuchereria bancrofti
線形動物双腺綱糸状虫科Filariidaeの人体寄生虫。フィラリアの一種。成虫は乳白色,糸状で,ヒトの主としてリンパ管やリンパ節内に寄生する。雄虫は体長約40mm,体幅0.1mm,尾端はコイル状に巻いている。雌虫は体長65~100mm,体幅0.3mmで,その子宮内には薄い卵膜に包まれた子虫が充満しており,これらが被鞘幼虫(ミクロフィラリアmicrofilaria,体長0.3mm)として産出される。このミクロフィラリアはリンパ流を経て血流に現れるが,この現れ方は,周期的で,夜間,末梢血管中に出現する。ミクロフィラリアを吸血とともに摂取し感染を媒介するのはイエカ属やハマダラカ属のカである。カの体内で発育した感染幼虫に感染後,数ヵ月間無症状に経過した後,陰囊,四肢などにリンパ管炎,リンパ節炎が起こり,熱発作(いわゆる〈草ふるい〉)を起こす。熱発作は数週または数ヵ月ごとに不規則に繰り返される。やがてリンパ管が閉塞,変形,破壊されると,陰囊水腫,乳糜(にゆうび)尿などがみられ,また皮下組織の繊維性増殖をきたして皮膚が肥厚硬化し,ついには象皮病になる。熱帯,亜熱帯に広く分布し,日本では九州南部以南にみられる。予防はカの駆除であり,治療にはジエチルカルバマジンが有効である。種名は成虫の発見者バンクロフトJ.Bancroft(1836-94)にちなむ。
執筆者:小島 荘明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報