リンパ液のうっ滞のために皮膚および皮下組織が厚くなってゾウの皮膚のような状態を呈する慢性の皮膚病。おもに下肢に好発し、ついで陰嚢(いんのう)、大陰唇に多い。糸状虫症(フィラリア症)から移行するものと、その他の疾患に続発するものとに分けられる。
カによって媒介されるバンクロフト糸状虫が原因となるものは、熱帯および亜熱帯地方に多く、糸状虫性象皮病あるいは熱帯性象皮病とよばれる。日本ではかつて沖縄、九州南部に地方病的にみられ、俗に「くさふるい」とよばれていたが、現在は根絶されている。海外旅行中に感染することがある。糸状虫症は、まず下肢や陰嚢に発赤腫脹(しゅちょう)(赤く腫(は)れる)として現れ、同時に発熱、頭痛、腰痛、関節痛などを伴う。この症状は数日で軽快するが、反復して発症するうちに象皮病に移行する。糸状虫によらないで、慢性潰瘍(かいよう)、慢性炎症性疾患、再発性丹毒、腫瘍(しゅよう)およびリンパ節摘出などに続発しておこるものは、続発性象皮病とよばれる。この場合も、糸状虫症と同様にリンパ液のうっ滞による。
治療としては、原因疾患に対する処置がたいせつであり、皮膚の肥厚部には対症療法的に形成手術が行われることもある。
[伊崎正勝・伊崎誠一]
皮膚が全体に肥厚し,浮腫性で,表面がざらざらになり,象の皮膚を思わせる外観を呈するものをいう。ふつうフィラリア症に伴う皮膚変化を指すが,手術や外傷後のリンパのうつ滞(うつたい)に基づく類似の変化にも用いられることがある。フィラリア症は吸血昆虫を中間宿主とする糸状虫感染症で,日本では九州地方の風土病としてみられたが,近年は著しく減少した。フィラリアの成虫はおもに腹部リンパ系に寄生し,幼虫(ミクロフィラリア)が夜間循環血液中に出現し,発熱を起こす。象皮病は,これら成虫によるリンパのうつ滞に,熱発作を伴う丹毒様変化が重積・反復して起こるもので,真皮・皮下の結合組織は著しく増生し,その部分は著しく肥大する。皮膚表面は,はじめ平滑であるが,やがて肥厚・落屑(らくせつ)し,しばしばいぼ状となり,ときに潰瘍の形成をみることもある。下肢と外陰部,ことに陰囊に最も多くみられ,病変部を指で押し,放すとすぐに元にもどる。高齢者に多く,20歳以下にはまれである。治療として,ジエチルカルバマジンの内服が有効である。なお局所療法として,圧迫包帯,マッサージ,局所の挙上等によるリンパうつ滞の軽減や病変部の成形,リンパの誘導,排除等外科的処置も行われている。
執筆者:石橋 康正
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…また筋肉の運動はリンパ液の灌流を促進するので,半身不随などでは麻痺側に水腫がおこりやすい。フィラリア糸状虫がリンパ管内に多数寄生すると,下肢・外陰部に高度の水腫がおこり,象皮病となる。 水腫がおこると,組織は膨張し,しわはのび緊張し,蒼白,貧血状となり,温度も下がる。…
… 人体寄生種のおもなものには,バンクロフトシジョウチュウ,マレーシジョウチュウBrugia malayi,オンコセルカ,ロアシジョウチュウLoa loaなどがある。このうち前2者はリンパ系に寄生し,象皮病の原因となる。オンコセルカはアフリカ,中南米など赤道直下の熱帯地方に分布し,皮下に寄生して腫瘤を形成し,またしばしば目にも侵入して失明の原因となることもある。…
※「象皮病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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