改訂新版 世界大百科事典 「ヒトツボクロ」の意味・わかりやすい解説
ヒトツボクロ
Tipularia japonica Matsum.
暖温帯の林床に生えるラン科の多年草。地下に数個の偽球茎があり,連なる。偽球茎の腋芽(えきが)は秋に新葉を1枚展開し,越冬するが,夏には枯れる。茎の基部は肥厚し,新偽球茎となる。5cmくらいの葉柄があり,葉身は狭卵形で,裏面は紅紫色を帯び,長さ3~6cm。5~6月,高さ20cm前後の花茎を頂生し,10個くらいの花をつける。花は紫褐色を帯びた淡黄緑色で,下向きに咲き,径約7mm。花弁と萼片は広線形で平開し,唇弁は3裂し,側裂片は小さい。唇弁の基部は細い距となり,長さ約5mm。本州から九州,朝鮮南部に分布する。
ヒトツボクロ属Tipulariaは連珠状に連なる偽球茎,通常葉が1枚だけである点,偽球茎に頂生する花序,唇弁の基部に細長い距をもつ点などで特徴づけられ,北アメリカと東アジアに約4種が分布する。別属として発表されたヒトツボクロモドキDidiciea japonica Haraは,唇弁が通常の花弁に先祖返りを起こし,距のなくなったヒトツボクロの1型と考えられる。
執筆者:井上 健
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報