シュンラン(その他表記)Cymbidium goeringii(Reichb.f.)Reichb.f.

改訂新版 世界大百科事典 「シュンラン」の意味・わかりやすい解説

シュンラン (春蘭)
Cymbidium goeringii(Reichb.f.)Reichb.f.

日本で最も普通に見かけるラン科の地生ランで,ホクロ,ジジババの異名もあり,昔より親しまれている。地下に偽球茎があり,偽球茎上に葉を叢生(そうせい)する。葉は常緑で,線形,長さ約30cm,粗い細鋸歯がある。3~4月,偽球茎のわきから伸びた花茎の先に1~2花をつける。花は普通,淡緑色,径4~5cm。萼片は半開または開出し,花弁唇弁は蕊柱(ずいちゆう)を包む。唇弁は白色で,普通,紅紫色斑紋がある。花粉塊は2個。北海道南部より九州までの日本全国,中国大陸に分布し,暖温帯から温帯の疎林下や林縁に生える。鉢植えや庭植えで栽培され,シュンラン属のなかでは最も耐寒性があり,じょうぶで,庭の隅でも育ち,緑色のほかに黄色の強いもの,褐紅色をおびるものなど,花の色や花弁の形などにさまざまな変異があり,斑入り葉(ふいりば)も知られている。そのような花や葉の変異品は高価で売買されるため,最近は乱採され,場所によると野生集団がひどく減少している。花を塩漬にして茶に入れることがある。

 シュンラン属Cymbidiumは偽球茎のわきから出る花序,数節からなる偽球茎,芽の中で二つ折りになる葉,2個の柄のある花粉塊などで特徴づけられ,約70種が主としてアジアの熱帯から亜熱帯に分布している。熱帯アジアの種は樹上着生種が多く,花が大きく美しいので品種改良され,属名のシンビジウムの名で洋ランとして温室で栽培される。日本,中国,台湾の種は大部分地生種で,古くより東洋ランとして,花および葉の変異品が高価で取引されている。

 日本の同属の自生種としてはほかに5種ある。カンランは,葉がより細長く,花も複数咲く。ヘツカランC.dayanum Reichb.f.var.austro-japonicum Tuyam.は半着生種で,九州南部以南に分布する。ナギランC.lancifolium Hook.,アキザキナギランC.javanicum Blume var.aspidistrifolium F.Maekawaは葉が長楕円形である。マヤランC.nipponicum Makinoは緑葉のない腐生ランである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「シュンラン」の意味・わかりやすい解説

シュンラン
しゅんらん / 春蘭
[学] Cymbidium goeringii (Reichb.f.) Reichb.f.

ラン科(APG分類:ラン科)の多年生地上ランで、東洋ランの1種。ホクロともいう。根茎は短い。葉は多く根出し、線形で長さ20~35センチメートル、幅0.5~1センチメートル、革質で縁(へり)には粗い小さな鋸歯(きょし)がある。早春、10~20センチメートルの花茎を出し、緑色を帯びた径3~5センチメートルの花を1個開く。萼片(がくへん)は3枚で倒披針(とうひしん)形。花弁は2枚。唇弁は萼片より短く、白色に赤紫色の斑点(はんてん)があり、上半は外曲し、内側の中央脈は溝となる。山林に生え、日本全土、および朝鮮半島、中国に分布する。多くの園芸品種があり、白色花系の源氏香(げんじこう)、赤色花系の平氏香(へいしこう)に大別されるほか、形変わり花や葉に入る斑(ふ)によって覆輪斑、縞(しま)斑、虎(とら)斑などがある。鉢植えにはミズゴケを単用する。植え替えは、春と秋の彼岸ころが適期である。

[猪股正夫 2019年5月21日]

文化史

春の花として、ホクロ、ジジババなどの呼び名で親しまれた山草であるが、江戸時代の初期には栽培下にあり、『花壇綱目』(1664年成立)には、栽培法とともに赤花が載る。現代の赤花系は、1939年(昭和14)新潟県中蒲原(なかかんばら)郡村松町(現、五泉(ごせん)市)で発見された「多摩(たま)の夕映え」をはじめ、数々の銘品が愛培されている。花を塩漬けや梅酢漬けにしたものは、熱湯を注いだ蘭茶(らんちゃ)や吸い物の浮かしに使われる。生の花をそのまま酢の物に、また、さっと湯がいて和(あ)え物にもする。かつては太い根を火であぶってたたき、あかぎれの薬に使った。

[湯浅浩史 2019年5月21日]


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普及版 字通 「シュンラン」の読み・字形・画数・意味

乱】しゆんらん

是非がみだれる。〔新書、先醒〕昔(むかし)、君(くわくくん)驕恣にして自ら伐(ほこ)り、諂(てんゆ)は親せられ、諫臣は誅せられ、亂し、國人せず。

字通「」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「シュンラン」の意味・わかりやすい解説

シュンラン

ホクロとも。北海道南部〜九州,中国の山地の雑木林などにはえるラン科の常緑多年草。葉は線形で堅い。早春,膜状の鱗片のある肉質の花茎を出し,1花を頂生する。花は径3〜4cmで淡緑色,唇弁(しんべん)は白く濃紫色の斑点がある。東洋ランの一種として栽培され,多数の園芸品種がある。花は刺身のつまなどとし,また塩漬にして湯を入れて飲料にする。シュンラン属の中で東洋ラン以外のものをシンビジウムとよぶ。
→関連項目ラン(蘭)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シュンラン」の意味・わかりやすい解説

シュンラン(春蘭)
シュンラン
Cymbidium goeringii

ラン科の常緑多年草。ホクロともいう。日本,朝鮮半島,中国に分布する。やや乾いた山林中に生え,関東地方の雑木林ではごく普通に見かけるランである。根は白色の紐状で太く,長く伸びる。葉は叢生し線形で長さ 20~50cm,幅6~10mm,上面は濃緑色でつやがあり先端はとがる。早春の頃,高さ 10~20cmの肉質の花茎を直立し,頂上に淡黄緑色の1花を横向きに開く。花茎には数枚の鱗片葉があり,花は径3~5cm,唇弁は白色で濃紅紫色の斑点がある。花の塩漬を湯に浸して味わう。昔から観賞用に広く栽培され多数の品種も知られている。

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世界大百科事典(旧版)内のシュンランの言及

【ラン(蘭)】より

…ラン亜科は着生生活に適応したグループと考えられ,大部分の着生ランが所属する。この亜科はさらに茎が仮軸分枝をするグループと単軸分枝をするグループに分けられ,前者にはエビネ属,シュンラン属,クモキリソウ属,セッコク属などが,後者にはフウラン属,カヤラン属などが属する。チドリソウ亜科,サカネラン亜科,ラン亜科は一つにまとめられ,ラン亜科とされることもある。…

※「シュンラン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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