化学辞典 第2版 「ヒ素汚染」の解説
ヒ素汚染
ヒソオセン
arsenic pollution
ヒ素,およびその化合物は,農薬,医薬品の工場,鉱山,製錬などの排水に含まれている.また,農薬や殺虫剤として使用した場合に,野菜や果物中に残留するヒ素化合物によって中毒を起こす危険がある.ヒ素はきわめて有毒であり(As2O3の致死量60 mg),普通,急性症状は1時間以内に現れ,金属性味覚,音声障害,悪心,おう吐,下痢とひどい脱水などを伴う.慢性中毒の症状としては,手,足の知覚異常と知覚消失を伴った多発性神経炎である.皮膚は青銅色となり,むくみを生じる.肝硬変,貧血,体重減少などをきたし,最後は心臓障害で死に至る.中毒事件としては森永のヒ素ミルク事件,台湾での鳥脚病(black foot disease),新潟県下での三硫化ヒ素製造工場排水による集団中毒,和歌山のカレー混入事件などが知られ,また地下水のヒ素汚染が問題となっている.ヒ素,およびその化合物の排出基準として,1993年3月からヒ素0.1 mg L-1 以下がとられている.ヒ素含有排水の処理法としては,一般にカルシウム,マグネシウム,鉄などの金属水酸化物と共沈させる方法が行われている.そのほか,活性炭,活性アルミナ,酸性白土などの吸着剤や,イオン交換樹脂による処理法もあるが,現段階では水酸化鉄による共沈法がもっとも確実であるといわれており,排水中のヒ素分析法にもこの方法が利用されている.水質汚濁に関する環境基準は0.01 ppm 以下.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報