水酸化鉄(読み)スイサンカテツ(英語表記)iron hydroxide

デジタル大辞泉 「水酸化鉄」の意味・読み・例文・類語

すいさんか‐てつ〔スイサンクワ‐〕【水酸化鉄】

水酸化鉄(Ⅱ)。白色ないし淡緑色粉末。空気中で容易に酸化され水酸化鉄(Ⅲ)になる。水酸化第一鉄。化学式Fe(OH)2
水酸化鉄(Ⅲ)。鉄(Ⅲ)塩の水溶液アンモニア塩化アンモニウム混合液を加えて得られる。赤褐色の粉末。アルカリ性水溶液中でコロイド溶液になりやすい。水酸化第二鉄。化学式Fe(OH)3

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精選版 日本国語大辞典 「水酸化鉄」の意味・読み・例文・類語

すいさんか‐てつスイサンクヮ‥【水酸化鉄】

  1. 〘 名詞 〙 鉄の水酸化物。
  2. 水酸化鉄(II )。化学式 Fe(OH)2 白色ないし淡緑色、六方晶系の粉末。酸に溶けるが、アルカリには溶けない。強い還元剤として作用する。水酸化第一鉄。
  3. 水酸化鉄(III )。化学式は Fe(OH)3 または Fe2O3・nH2O α(アルファ)・β(ベータ)・γ(ガンマ)型の三つの変態と無定形の水酸化物とがある。三酸化二砒素を吸着しやすく砒素の解毒剤に用いられる。水酸化第二鉄。オキシ水酸化鉄(III )。

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改訂新版 世界大百科事典 「水酸化鉄」の意味・わかりやすい解説

水酸化鉄 (すいさんかてつ)
iron hydroxide

酸化数ⅡおよびⅢの鉄の水酸化物と,両方の酸化数の鉄を含む水酸化物とが知られている。

化学式Fe(OH)2。空気を断って鉄(Ⅱ)塩溶液にアルカリを加えると得られる。白色ないし淡緑色粉末。比重3.40。六方晶系。結晶格子は層状のヨウ化カドミウム型で,Feは6個のOHにとりかこまれている。水溶液中では徐々に,空気中では速やかに酸化されて赤褐色の水酸化鉄(Ⅲ)になる。水に難溶で,溶解度0.6mg/100g(20℃)。アルコール,エーテルに不溶。塩酸および硫酸に溶けて鉄(Ⅱ)塩を生じ,濃水酸化アルカリにはヒドロオキソ鉄(Ⅱ)酸塩をつくって溶ける。

化学式Fe3O4nH2O。四酸化三鉄の塩酸溶液にアンモニア水を加えると得られる。黒色粉末。フェリ磁性。塩酸,濃硫酸に可溶,希硝酸に易溶,濃硝酸に難溶。空気を断って100℃以下で熱すると無水和物になる。

化学式Fe2O3nH2O。鉄(Ⅲ)塩溶液にアルカリを加えると得られる。コロイド溶液になりやすい。赤褐色の無定形固体で,nの数は一定でない。天然褐鉄鉱として産する。新しく沈殿させたものは酸に溶けやすく,熱アルカリ溶液に溶けて亜鉄酸塩をつくり,吸着力が強くヒ素の解毒剤になる。一定の組成をもつものとしてはn=1の酸化物水酸化物FeO(OH)が知られており,製法によりα,β,γ,δ型などが得られる。天然には針鉄鉱(α),鱗(うろこ)鉄鉱(γ)などとして産する。α型は黄色顔料として,また磁気記録用針状マグネタイトやγ酸化鉄(Ⅲ)の出発原料として工業的に生産されている。
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化学辞典 第2版 「水酸化鉄」の解説

水酸化鉄
スイサンカテツ
iron hydroxide

】水酸化鉄(Ⅱ):Fe(OH)2(89.86).酸素を完全に除いた鉄(Ⅱ)塩水溶液に水酸化ナトリウムを加えると得られる.白~淡緑色の粉末.密度3.40 g cm-3.きわめて酸化されやすく,水溶液では溶存酸素により徐々に,空気中ではただちに熱を発して酸化され,赤褐色の水酸化鉄(Ⅲ)になる.水に難溶.濃水酸化アルカリにはテトラヒドロキソ鉄(Ⅱ)酸塩M2[Fe(OH)4]をつくって溶ける.エタノール,エーテルに不溶.黒うるしの製造に用いられる.[CAS 18624-44-7]【】水酸化鉄(Ⅱ)鉄(Ⅲ):Fe3O4nH2O.酸化鉄(Ⅱ)鉄(Ⅲ)の塩酸水溶液にアンモニア水を加えると得られる.黒色の粉末.強磁性で,酸化されやすい.空気中で加熱すると酸化鉄(Ⅲ)になる.塩酸,濃硫酸に可溶,希硝酸に易溶,濃硝酸に難溶.【】水酸化鉄(Ⅲ):Fe2O3・H2O(177.70),またはFeO(OH)(88.85).酸化水酸化鉄(Ⅲ)ともいう.鉄(Ⅲ)水溶液にアンモニア水あるいはアルカリを加えて得られる暗赤色の綿状固体は,含水量不定のFe2O3nH2Oで表される.無定形水酸化物である.Fe(OH)3は存在せず,誤称である.水に難溶.コロイド溶液になりやすい.新しく沈殿したものは吸着性が強く,また両性である.乾燥するとFeO(OH)を経て,Fe2O3になる.一定の組成をもつものはFe2O3・H2OまたはFeO(OH)で,α形とγ形がある.α形は淡黄色の塊.密度3.3~4.3 g cm-3.酸に可溶,水に不溶.600 ℃ でα-Fe2O3になる.γ形は黄色の粉末.密度4.09 g cm-3.400 ℃ でγ-Fe2O3になる.重要な鉄鉱石の褐鉄鉱はFe2O3nH2Oで,これらの変態の混合物である.黄色顔料,ヒ素中毒の解毒剤,医薬品の原料などに用いられる.[CAS 20344-49-4:FeO(OH)][CAS 1309-33-7:Fe(OH)3]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「水酸化鉄」の意味・わかりやすい解説

水酸化鉄
すいさんかてつ
iron hydroxide

鉄の水酸化物。二価鉄および三価鉄の水酸化物と、これらの混合水酸化物とがある。正式にこの名称でよべるのは酸化数Ⅱの化合物、すなわち水酸化鉄(Ⅱ)だけである。

(1)水酸化鉄(Ⅱ) 鉄(Ⅱ)塩の水溶液に、空気を断ってアルカリ金属水酸化物を加えると得られる。空気に触れると急速に暗緑色を経て黒色に変色する。この段階では鉄(Ⅱ)と鉄(Ⅲ)が共存しているが、さらに酸化が進むと赤褐色の酸化水酸化鉄(Ⅲ)(通常、水酸化鉄(Ⅲ)とよばれる)となる。水にはほとんど溶けないが、塩化アンモニウム水溶液や酸には溶ける。また、通常のアルカリ溶液には不溶であるが、濃水酸化ナトリウム溶液には[Fe(OH)42-イオンとなって溶ける。強い還元剤で、パラジウム触媒が存在すれば200℃で水を還元する。また硝酸塩をアンモニアに、ニトロベンゼンをアニリンに還元する。

(2)水酸化鉄(Ⅲ) Fe2O3・nH2O鉄(Ⅲ)塩の水溶液にアンモニアまたはアルカリ金属水酸化物を作用させて得られる褐色の沈殿。含水量が一定せず、FeO(OH)を主成分とするものと考えられる。この化合物には生成条件によって少なくとも二つの変態が存在する。新鮮な沈殿は強酸の希薄溶液に溶けるだけでなく、熱濃アルカリ溶液にも溶ける。α(アルファ)形は黄色顔料などに用いられる。

(3)水酸化鉄(Ⅱ)鉄(Ⅲ) Fe3O4・nH2O硫酸鉄(Ⅱ)および硫酸鉄(Ⅲ)の混合溶液にアルカリを加えるか、あるいは四酸化三鉄の塩酸溶液にアンモニア水を加えると得られる。黒色粉末。きわめて脱水されやすい。

[鳥居泰男]


水酸化鉄(データノート)
すいさんかてつでーたのーと

水酸化鉄(Ⅱ)
  Fe(OH)2
 式量  89.9
 融点  (分解)
 沸点  ―
 比重  3.40
 結晶系 六方
 溶解度 0.6mg/100g(水20℃)

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百科事典マイペディア 「水酸化鉄」の意味・わかりやすい解説

水酸化鉄【すいさんかてつ】

(1)水酸化鉄(II)Fe(OH)2。比重3.40。鉄塩(II)水溶液に苛性アルカリを加えると得られる沈殿で,純粋なものはほとんど無色。ふつうは酸化されて緑〜褐色。強還元剤。(2)水酸化鉄(III)Fe(OH)3。鉄塩(III)水溶液にアルカリを加えると得られる褐色沈殿であるが,水含量が一定せずFe2O3・nH2Oとも書かれる。天然には褐鉄鉱として産する。水にほとんど不溶。コロイド溶液となりやすい。乾燥した一定の組成のものはFeO(OH)。
→関連項目脱硫

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「水酸化鉄」の意味・わかりやすい解説

水酸化鉄
すいさんかてつ
iron hydroxide

(1) 水酸化鉄 (II) ,水酸化第一鉄  Fe(OH)2 。無色ないし淡緑色粉末結晶。 (2) 水酸化鉄 (III) ,水酸化第二鉄  Fe(OH)3 。天然には褐鉄鉱などとして産出する。赤ないし褐色粉末。 500℃で水を失い酸化鉄となる。水,アルコールに不溶,無機酸に可溶。水の精製,顔料,触媒,吸着剤などに使用される。鉄さびの主要成分の1つ。

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