日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブバールとペキュシェ」の意味・わかりやすい解説
ブバールとペキュシェ
ぶばーるとぺきゅしぇ
Bouvard et Pécuchet
フランスの小説家フロベールの最後の長編小説で、未完。題名に示された2人の独身、初老の書記が、前者がたまたま遺産を相続したために勤めを辞め、パリから田舎(いなか)に居を移して共同生活を始める。この2人の友は体格や性格は対照的に異なるが、異様なまでの向学心において共通するものがあり、ともどもに不退転の決意をもって、農学、医学、考古学、史学、文学、哲学、社会学など自然・人文科学の全分野に相次いで熱中する。しかし、方法の欠如のために、読書による知識の獲得も、各種の実験もことごとく失敗に帰し、またぞろ元の木阿弥(もくあみ)の筆写の仕事に舞い戻る。ここまでの第一巻はほぼ完成しているが、作者の意図は第二巻として「人間愚劣の集大成」たるべき『紋切型辞典』が両友の筆写の対象となる予定であった。この長編は作者の真意が容易にうかがえないため長らく不評だったが、近来、人間の営為についての作者の判断の結論を示すものとして注目されるに至った。
[山田 ]
『新庄嘉章訳『ブヴァールとペキュシェ』(『フローベル全集 第五巻』所収・1966・筑摩書房)』