日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブラーシェ」の意味・わかりやすい解説
ブラーシェ
ぶらーしぇ
Jean Louis Auguste Brachet
(1909―1988)
ベルギーの動物学者。両生類やウニの受精および初期発生の研究を行ったアルバート・ブラーシェAlbert Brachet(1869―1930)の子。ブリュッセルの自由大学教授。両生類発生期の物質代謝の研究をし、核酸の役割について先駆的な研究を行った。1941年、胚(はい)細胞を材料とした組織化学的方法を用いて、タンパク質合成が盛んな細胞にはRNA(リボ核酸)が多量に含まれていることをみいだした。このことから、当時盛んであった胚発生の際にみられる誘導作用(形成体作用)の実体は何かという議論への一つの答えとして、誘導を担う実体(誘導物質)はRNAであると主張した。また、細胞質のRNAは、小粒子、ミクロゾームなどとよばれる粒子中に集まっていることを示し、1946年には、このようなリボ核タンパク質粒子は細胞中のタンパク質合成体かもしれないと指摘した。この粒子はのちにリボゾームと名づけられ、実際そのように働くことが示された。このような業績を通じて、化学的発生学の基礎を据えた。著書に『The biological role of ribonucleic acid』(1960年。『リボ核酸の生物学的機能』)がある。
[石館三枝子]
『ブラッシェ著、毛利秀雄・安増郁夫訳『分子発生学』(1976・講談社)』