四訂版 病院で受ける検査がわかる本 の解説
ヘリコバクター・ピロリ検査
基準値
陰性(-)
ヘリコバクター・ピロリとは
ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori、以下ピロリ菌)は、胃の粘膜に感染する、鞭毛を有するらせん状のグラム陰性
一般には、発展途上国では感染率が高く、先進国では低いとされています(図1)。我が国では、40歳以上では70%以上と発展途上国なみの陽性率ですが、40歳以下は欧米なみの低い陽性率です。戦後の公衆衛生環境の整備が要因としてあげられています。
■図1 ピロリ菌の年代別感染率
(Graham,D.Y.:Gastroenterol.clin Biol,13:84b,1989より改変)
胃・十二指腸潰瘍、胃がんでも陽性に
近年、このピロリ菌の感染が、急性胃炎、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんなどと関係することが明らかになりました。
そして、ピロリ菌と胃がんの発生については、WHO(国際保健機構)は確実な発がん物質と認定しており、研究では、ピロリ菌感染者ではピロリ菌非感染群と比べて約6倍の発生リスクとの報告もあります。
さまざまなピロリ菌の検査
ピロリ菌感染の検査法には、表1に示すような内視鏡を用いる方法と用いない非侵襲的な方法があります。
非侵襲的検査の尿素呼気試験は、ピロリ菌がもつ尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解する働きを利用したものです。まず、尿素に標識をつけた薬を飲み、次に呼気中の標識二酸化炭素を測定して感染を推定します。
抗体測定法は、血液中に存在するピロリ菌に対する抗体を検出する方法です。しかし、除菌治療をしても抗体の低下には時間が必要で、半年に一度くらいに検査が行われます。
一方、内視鏡的検査は胃粘膜を採取し、この組織を培養したり顕微鏡で調べたり、あるいはPCR法という遺伝子検査を行ったりします。この方法では、採取した胃粘膜にピロリ菌が存在していないと陽性にはなりません。
■表1 ピロリ菌の検査
○内視鏡的検査
・培養法
・PCR法
・組織鏡検査
・迅速ウレアーゼ試験
○非侵襲的検査
・尿素呼気試験
・便中抗原測定法
・抗体測定法
ピロリ菌の除菌
最近、抗菌薬(アモキシシリン、クラリスロマイシン)による除菌治療が一般に行われるようになりました。除菌をすれば、多くの胃・十二指腸の病気は改善します。一度で除菌に成功しない場合でも、薬をかえて再び除菌が可能になりました。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の治療としてピロリ菌を除菌すると、再発率は著明に低下します。除菌しなかった場合と除菌した場合での再発率は、図2に示すように明らかに違います。
■図2 除菌の有無による胃・十二指腸潰瘍の再発率
(NIHカンファレンスの資料より改変)
ピロリ菌の感染は、胃潰瘍や胃がんなどの重大な危険因子です。日本人の40歳以上の多くは感染しています。
医師が使う一般用語
「ヘリコ」もしくは「ピロリキン」
出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報