知恵蔵の解説
(黒木登志夫 岐阜大学学長 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
(黒木登志夫 岐阜大学学長 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
胃に発生するがん(悪性腫瘍(しゅよう))。胃の粘膜を構成する腺(せん)上皮細胞から発生する腺がんがほとんどを占めており、分化度(細胞の成熟の度合い)や細胞形態に応じてさまざまな組織型がある。一般に高分化型は進行が緩やかで、未分化型は進行が速い傾向にある。特殊型として腺扁平(へんぺい)上皮がん、扁平上皮がん、内分泌細胞に由来するカルチノイド腫瘍や内分泌細胞がんなどが、ごくまれにみられる。通常、胃がんといえば原発性胃がんをさす。好発年齢は60歳代以降で、胃がんによる死亡と罹患(りかん)は男性に多く、男女比は2:1である。
特殊なタイプの胃がんであるスキルス胃がん(硬がん)は、腺がんの一種で、がんの実質に対し間質結合組織の量が著しく多いため、きわめて硬いのが特徴である。胃壁の肥厚・硬化を特徴とするが、がん胞巣(ほうそう)が小さく、正常な粘膜に覆われることで胃粘膜の表面にはあまり現れず、胃壁の中をびまん浸潤性に増殖し、潰瘍(かいよう)も形成しにくいため、病巣と周辺粘膜との境界が不明瞭(ふめいりょう)で、内視鏡検査で発見するのがむずかしいことがある。低分化がんや印環細胞がんといった悪性度の高いがん細胞がみられることが多く、腹膜播種(はしゅ)やリンパ節転移の頻度が高いため、治癒切除が困難なことが多く、予後が悪い傾向にある。
[渡邊清高 2018年8月21日]
日本において2016年(平成28)に胃がんで死亡した人は4万5531例である。このうち男性2万9854例、女性1万5677例であり、それぞれがん死亡全体の13.5%、10.2%を占めている。部位別にみると肺がん、大腸がんに次いで第3位(男性第2位、女性第4位)の死亡数となっている。死亡数の年次推移は長らく横ばいであったが、2007年以降減少傾向にある。年齢階級別の死亡率をみると、40歳未満では男女差は小さいが、40歳からは加齢とともに増加し、男女差が大きくなっていく。
2013年の胃がんの罹患数(全国推計値)は13万1893例である。男性9万0851例、女性4万1042例で、それぞれがん罹患全体の18.2%および11.2%を占めている。部位別の罹患数をみると、男性は第1位、女性は乳がん、大腸がんに次いで第3位となっている。罹患数の年次推移は、ほぼ横ばいであるが、わずかずつ増加傾向にある。年齢階級別罹患率は、死亡率と同様、40歳未満では男女差は小さく、40歳以降は加齢とともに増加して、男女差が大きくなる。
経年的な推移をみるうえで、人口の高齢化の影響を除き、一定の年齢構成に調整した数値を比較する年齢調整死亡率の年次推移は、1960年代から男女ともに経時的に減少傾向にある。年齢調整罹患率も、一貫して減少傾向にある。
がん診療連携拠点病院院内がん登録(2015年)における臨床病期(ステージstage)の分布をみると、TNM分類ステージ0とⅠを含めた早期がんの割合は63.2%で、五大がん(胃、大腸、肝、肺、乳房)のなかでもっとも高かった。これは、胃がんの半数以上は早期がんの状態で発見されていることを示している。
胃がんの罹患率には地域性がみられ、東アジアや南アメリカで高く、アメリカの白人では低い。東アジアのなかでも、日本は高発症地域となっている。アメリカの日系、韓国系、中国系移民より、それぞれの本国に在住している人たちのほうが高い傾向にあり、このことは、遺伝的な要因より環境要因の関与が大きいことを示唆している。国内では、東北地方の日本海側で高く、南九州、沖縄で低い(データ出典:国立がん研究センターがん対策情報センター)。
[渡邊清高 2018年8月21日]
国際がん研究機関(IARC)は、1994年にピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)感染が胃がんの危険因子であることを認定している。その後の複数の疫学研究でも、胃がんとの強い相関関係が示されている。さらに2014年には、ヘリコバクター・ピロリにより胃粘膜の異形成や胃がん発症リスクが約80%上昇する一方で、除菌によって胃がん発症を30~40%減らすことができ、コストを含めた保健衛生政策上受け入れられるという追加報告がIARCからなされた。ヘリコバクター・ピロリに感染した人がすべて胃がんを発症するわけではないが、ヘリコバクター・ピロリ感染に伴う慢性胃炎、長期間にわたる持続的な炎症状態が胃粘膜細胞の萎縮(いしゅく)をもたらし、これが胃発がんの背景になっていると考えられる。感染者には除菌療法(プロトンポンプ阻害薬、アモキシシリン、クラリスロマイシンの3剤併用、7日間服用)が推奨されている。約7~8割で除菌に成功するが、除菌不成功の場合には2次除菌としてクラリスロマイシンのかわりにメトロニダゾールを用いた3剤併用療法が行われる。また除菌後も、継続的・定期的な胃の検診が勧められる。
ヘリコバクター・ピロリの持続感染のほかに、喫煙、食塩および高塩分食品、野菜・果物不足が胃がんのリスクを高めることは、多くの疫学研究で示されている。また、噴門部での胃がんのリスクが飲酒によって上昇するという報告が、とくに欧米でなされている。
一方、予防因子としては、野菜や果物の摂取によるリスクの低下の可能性があると考えられている。また、女性において、緑茶を多く摂取する場合に胃がんリスクが低下する可能性を示す報告がなされている。
[渡邊清高 2018年8月21日]
日本においては、胃がんの組織学的分類として、日本胃癌(がん)学会の「胃癌取扱い規約」を用いることが多い。胃がんは進行するにつれ多様な組織型の混在となっていくが、日本では量的に優勢な組織像に従うのに対し、欧米ではより低い分化度を組織型として分類する点が異なっている。このため、近年では国際間の診断基準の統一化に向けた議論が進められてきている。
胃がんはその多くが腺がんであることから、腺がんを一般型、その他を特殊型と二つに大別している。一般型は、さらに分化型と未分化型に分けられる。分化型は高分化型管状腺がん、中分化型管状腺がん、乳頭腺がんに、未分化型は低分化腺がん、印環細胞がん、粘液がんに細分類されている。特殊型には腺がん以外が分類され、おもなものとしてはカルチノイド腫瘍や内分泌細胞がん(内分泌細胞に由来する)、腺扁平上皮がん、扁平上皮がん、胎児消化管類似がん、未分化がんなどがある。
日本胃癌学会の2009年全国集計における胃切除例での検討では、高分化型管状腺がん20.6%、中分化型管状腺がん28.9%、低分化腺がん33.3%、印環細胞がん11.4%であった。
[渡邊清高 2018年8月21日]
胃壁は層状構造をしており、内側から粘膜上皮、粘膜筋板、粘膜下層、筋層(固有筋層)、漿膜(しょうまく)下層、漿膜とよぶ。粘膜に発生した腫瘍は胃壁の構造を破壊しながらしだいに増大し、漿膜を突き破り周辺臓器に浸潤していく。転移の様式はリンパの流れにのるリンパ行性転移と、血液の流れにのる血行性転移がある。増大した腫瘍が腹膜に表出すると、がん細胞が腹腔(ふくくう)内に散らばり腹膜播種を起こす。
分化型がんの多くは膨張性に発育していき、肉眼形態は境界が明瞭な限局型が多い。進行すると血行性転移がみられることが多い。血行性転移のおもな転移臓器は肝臓であり、肺、骨がこれに続く。一方、未分化型がんは、びまん性に浸潤していき、肉眼的には境界が不明瞭なものが多い。転移様式としては、リンパ行性転移や播種性転移が多く、原発病変が比較的小さい、あるいは原発部位が不明の状態で転移をきたすことも少なくない。
[渡邊清高 2018年8月21日]
胃がんの自覚症状は原発巣・転移巣の部位や病期によってさまざまである。早期の胃がんは一般に無症状のことが多く、胃がん検診で異常を指摘されたり、何らかの腹部症状をきっかけに上部消化管内視鏡検査を受けて発見されたりすることが診断の契機となる。
おもな症状には、上腹部痛、腹部の不快感・違和感、食欲不振、吐き気・嘔吐(おうと)、体重減少、貧血などがあるが、いずれも胃がんに特異的な症状ではない。噴門部や幽門部に病変がある場合には、食物の通過障害(摂取した食物がスムーズにその部位を通過できないことで起こる障害)が生じることが多い。出血を伴う病変の場合、貧血や黒色便が発見のきっかけになることもある。
身体所見として、腹部腫瘤(しゅりゅう)の触知、がん性腹膜炎による腹水貯留、左鎖骨上窩(じょうか)リンパ節転移、肝転移による肝腫大などがみられることがある。
X線検査や内視鏡技術の進歩による胃がんの診断技術が確立するまで、胃がんの診断は身体所見によるものに限られた。特徴的な転移様式による身体所見は、報告した研究者、医師、看護師の名前でよばれている。たとえばウィルヒョウのリンパ節は、ドイツの医師で病理学者のウィルヒョウが胸管(リンパ管の流出路)の合流部の左鎖骨上窩リンパ節への転移を報告したことが由来となっている。クルッケンベルグ腫瘍は、卵巣の腫瘍としてドイツの医師クルッケンベルグKrukenberg(1871―1946)が報告した印環細胞と卵巣の間質が混在する特徴的な病理像を呈するものが、のちに胃がんを含む消化管由来の悪性腫瘍の卵巣転移によるものとわかったものである。胃がんのダグラス窩(直腸子宮窩)への転移はシュニッツラー転移とよばれる(オーストリアの外科医シュニッツラーSchnitzler(1865―1939)に由来)。アメリカのメイヨークリニックの前身の病院に勤務していた看護師メアリー・ジョセフMary Josephは患者の臍(へそ)の結節に注目し、それがあると胃がんで多く死亡すると医師に報告していた。この結節はのちに胃がんを含む腹腔内の悪性腫瘍の転移や浸潤であることがわかり、内臓悪性腫瘍の臍転移はSister Joseph's nodule(シスター・ジョセフの小結節)とよばれ、予後不良の症状の一つと考えられている。
[渡邊清高 2018年8月21日]
(1)胃がん検診
胃がんの罹患率の高い日本においては、対象となる集団の胃がんによる死亡率を減少させる効果が証明され、実施することが推奨される検診手法として胃X線検査(バリウム検診)と上部消化管内視鏡による検査が、対策型のがん検診として実施されている。従来は胃X線検査のみが行われていたが、2016年に国の指針が改定され、上部消化管内視鏡検査によるがん検診が追加された。対象年齢と受診間隔は、「40歳以上、年1回」が推奨されているが、上部消化管内視鏡検査については「50歳以上、2年に1回」の受診が推奨されている。胃X線検査で精密検査が必要と判断されれば、精密検査として上部消化管内視鏡検査が行われる。
2016年の国民生活基礎調査によると、胃がん検診の受診率は男性46.4%、女性35.6%であり、2010年と比べ10ポイント近く上昇しているが、さらなる受診率の向上が望まれる。
血液検査によって胃の萎縮度をみるペプシノゲン検査、ヘリコバクター・ピロリ抗体検査は、任意型検診として行われることがある。しかしながら、胃X線検査と上部消化管内視鏡検査以外の検査による胃がん死亡率減少効果に関する評価は現時点では不明であることから、長期間の追跡による評価と検証が必要である。
(2)原発巣の存在診断
胃がんの存在診断には、上部消化管内視鏡検査や胃X線検査が行われる。
内視鏡検査では、スコープ先端のカメラと光源を用いて、胃の中の小さな病変を直接観察することが可能である。胃を内側から観察して、病変や出血源の有無、表面の性状を確認する。腫瘍が発見された場合には、その性状、大きさ、広がりや深達度などを調べる。同時に病変の一部を採取する生検により、病理診断を行うこともできる。
胃X線検査は、硫酸バリウムと発泡剤を飲んで胃を膨らませて胃粘膜を造影するもので、胃の形態や粘膜の不整、壁の硬化などを評価することができる。被検者はX線撮影装置を備えた検査台に乗り、体の向きを変えながら撮影する。内視鏡検査に比べ、がん病変の広がりを客観的に判断することができる。胃X線検査は、切除範囲の検討のために手術前に行われたり、粘膜面に病変が露出することが少ないスキルス胃がんの評価のために行われる。
胃がんの確定診断には、病理組織学的な検査が必須(ひっす)であり、内視鏡検査に引き続いて病理組織学的検査が行われる。内視鏡検査で得られた生検材料を用いて、胃生検組織診断分類(グループGroup分類)に基づいて診断が行われる。これは病変の診断区分を明確にするためのもので、グループX、1~5の6段階があり、胃がんと確定診断されるのはグループ5である。グループXは生検組織診断ができない不適材料、グループ1~4は正常組織からがんが疑われる病変までの段階であり、結果に応じて経過観察や確定診断のための再検査が行われる。
超音波内視鏡検査は、病変の深達度診断に有用である。病変の広がり、他臓器との関係、リンパ節転移や遠隔転移の有無を腹部超音波検査、CT、MRI、PETなどで評価し、病期診断に用いる。
腹膜播種については、CTによる播種病変の描出、腸管の変形・狭窄(きょうさく)などから検出されるが、腹水の細胞診検査でがん細胞を認めることで診断される場合もある。
腫瘍マーカーは、CEAやCA19-9が用いられることが多いが、早期診断には有用性が低く、おもに治療後の経過観察や再発の探索、がん薬物療法の治療効果の評価などに用いられている。
[渡邊清高 2018年8月21日]
胃がんはおもに粘膜に発生し、胃壁の中を徐々に深く進んでいく。胃壁は内側から粘膜層(粘膜上皮・粘膜筋板)、粘膜下層、筋層、漿膜下層、漿膜の5層に分かれている。がんが胃壁のどの深さまで広がっているかを示すものが、深達度である。がんの深さが粘膜層および粘膜下層までのものを早期胃がん、筋層より深く達したものを進行胃がんとよぶ。
病期(ステージstage)とは、がんの進行の程度を示すもので、日本においては「胃癌取扱い規約」の進行度分類や、国際対がん連合(UICC)のTNM分類に基づいて病期分類が行われている。いずれも壁深達度を示すT因子、リンパ節転移のN因子、および遠隔転移のM因子の三つの因子から分類していく。進行度分類ではステージⅠ(ⅠA、ⅠB)、Ⅱ(ⅡA、ⅡB)、Ⅲ(ⅢA、ⅢB、ⅢC)、Ⅳの8段階に分類される。ステージⅠAは腫瘍が粘膜内または粘膜下層にとどまりリンパ節転移のないものである。同じ深達度でもリンパ節転移が1~2個みられる場合は、腫瘍が筋層にとどまりリンパ節転移のない場合とともにステージⅠBとなる。ステージⅡ、Ⅲも壁深達度とリンパ節転移の個数がそれぞれ取り決められている。遠隔転移および領域リンパ節以外への転移を認めるものはすべてステージⅣとなる。
[渡邊清高 2018年8月21日]
胃がんの治療は、内視鏡治療、外科療法(手術)、薬物療法(おもに化学療法)が中心となっており、病期分類に応じて治療方針が検討される。日本胃癌学会の「胃癌治療ガイドライン」には、標準治療として推奨される治療法選択のアルゴリズムが示されている。
[渡邊清高 2018年8月21日]
胃がんに対する内視鏡治療は、リンパ節転移の可能性が低く、局所治療で手術と同等の治療効果が得られると考えられる病変に対して行われる。開腹手術を行わないで病変を切除でき、治療後も胃の機能が温存されるため、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ:QOL)を保ちつつ、治療が可能となる。「胃癌治療ガイドライン」では、腫瘍が一括切除できる部位にあり、かつ2センチメートル以下で肉眼的に粘膜内にとどまるもの、組織型が分化型、潰瘍形成がない病変を、内視鏡治療の絶対適応としている。
切除の方法には、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離(はくり)術(ESD)がある。
内視鏡的粘膜切除術は、病変周囲の粘膜下層に生理食塩水などを注入して固有筋層から浮き上がらせ、スネアとよばれる輪状のワイヤーをかけて、高周波により焼灼(しょうしゃく)切除する方法である。
内視鏡的粘膜下層剥離術は、病変周囲の粘膜下層に生理食塩水などを注入後、病変周囲の粘膜を高周波ナイフで切開し、さらに粘膜下層を剥離して切除する方法である。内視鏡的粘膜切除術よりも高度な技術を要するが、一括切除率が向上し、より大きな病変の切除も可能であり、現在では早期胃がんに対する有用な治療手段になっている。
切除した組織は精査され、分化度や深達度などの評価が行われる。リンパ節転移やがん遺残の可能性がある場合は、根治治療のために後日改めてリンパ節郭清(かくせい)(リンパ節の切除)を伴う追加手術が行われる。
[渡邊清高 2018年8月21日]
胃がんに対して行われる外科療法(手術)は、治癒を目的とした治癒手術と、治癒は見込めないが症状緩和を目的として行われる非治癒手術に大別される。
治癒手術には、定型手術と非定型手術がある。定型手術は、胃がんを完全に切除することを目的として標準的に行われてきた方法で、胃の3分の2を切除し、領域リンパ節(D2)を郭清する。非定型手術は、進行度に応じて切除範囲やリンパ節郭清範囲を変えて行うもので、縮小手術と拡大手術に二分される。周辺臓器に浸潤している場合は、浸潤している臓器の一部も合併切除する。
非治癒手術は、緩和手術と減量手術に分けられる。緩和手術は姑息(こそく)手術ともいい、治癒手術不能例に対し、出血や狭窄などの切迫した症状を改善するために行われる。減量手術は、腫瘍量を減らし、症状の出現を遅らせることや延命を目的として行われる。
外科療法のおもな合併症には、腹腔内膿瘍(のうよう)、膵液漏(すいえきろう)、創感染、腸閉塞(ちょうへいそく)、出血などがある。また、胃切除後の後遺症としては、ダンピング症候群(後述)、逆流性食道炎、残胃炎などの消化器症状がみられることがあり、ビタミンB12および鉄の吸収障害からの貧血、カルシウム吸収障害による骨粗鬆症(こつそしょうしょう)が生じるようになる。
(1)胃切除術
胃全摘術は、胃の入り口である噴門と、出口である幽門を含めて、胃をすべて切除するもので、もっとも切除範囲が広い術式である。病変部が胃の中部から上部付近で、噴門を残す余裕がない場合に行われる。
幽門側胃切除術は、胃の上部噴門側を約3分の1残して、下部の幽門側約3分の2を切除する術式である。病変部が胃の中部から下部で、噴門との距離が十分離れている場合に行われる。
幽門保存胃切除術は、胃の上部約3分の1と幽門を残して胃を切除するもので、幽門の機能が温存される。
噴門側胃切除術は、噴門を含めて胃の上部約3分の1を切除する。病変部が噴門から3分の1の範囲内にある早期がんで、噴門を残す余裕がない場合に検討される。
(2)リンパ節郭清
日本においては、ステージⅠAの胃がんには、胃周囲の第1群までのリンパ節(D1)の郭清手術が行われている。リンパ節転移が疑われる場合はより広い範囲のリンパ節郭清が行われる。それ以外のステージⅠB~Ⅲの胃がんでは、第2群の領域リンパ節(D2)までの郭清が行われている。
これに対し、欧米ではかつては標準的にD1郭清が行われることが多く、日本の良好な治療成績との差につながっていた。近年では、欧米においても、手術症例の多い施設を中心にD2郭清を行う施設が増えてきている。
(3)消化管再建術
胃切除術と同時に、残存する消化管を縫い合わせてつなぎ、食物の通り道を再建する。
胃全摘術の場合は、食道に空腸(くうちょう)(十二指腸から続く上部の小腸)をつなぐルーワイ法が一般的である。食道と十二指腸の間に、胃の代用として空腸をつなぐ空腸間置法が行われることもある。
幽門側胃切除術では、残胃と十二指腸を直接つなぎ合わせるビルロートⅠ法や、十二指腸の断端を閉鎖し、残胃と空腸をつなぎ合わせるビルロートⅡ法やルーワイ法が行われる。
幽門保存胃切除術では、残胃の上部と下部をつなぎ合わせる胃胃吻合(ふんごう)法が行われる。
噴門側胃切除術では、食道と残胃をつなぐ食道残胃吻合法や、食道と残胃の間を空腸でつなぐ空腸間置法などが実施される。
(4)腹腔鏡下手術
近年では、小さい手術創からカメラと光源、手術器具を挿入して切除を行う腹腔鏡下手術が選択されることも増えてきている。臓器の切除範囲とリンパ節郭清の範囲、全身状態などを考慮し適応が検討される。開腹による手術に比べ創が小さく、術後の痛みが少なく、術後の回復や食事の再開時期が早いことが利点としてあげられる。一方で、リンパ節郭清や再建技術のむずかしさから、開腹手術より合併症の発生率がやや高くなる可能性が指摘されている。
[渡邊清高 2018年8月21日]
薬物療法には、手術と組み合わせて補助化学療法として行われるものと、治癒が難しい進行・再発胃がんに対して行われる化学療法がある。
(1)補助化学療法
補助化学療法は、治癒手術後の微少遺残腫瘍による再発予防を目的として、術後に行われる全身化学療法である。日本においては、ステージⅡおよびⅢの胃がんに対し、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤S-1(TS-1)を術後1年間内服することが標準治療となっている。S-1の内服により、5年生存率が約10%向上することが確認されている。
さらに2015年11月には、カペシタビン(ゼローダ)とオキサリプラチン(エルプラット)を併用するXELOX(ゼロックス)療法が新たに保険適用となった。
(2)切除不能進行・再発胃がんに対する化学療法
切除不能と判断された進行・再発胃がんに対する化学療法の目的は、腫瘍の増大を遅らせ、延命と症状コントロールを行うことである。全身状態が良好で、主要臓器の機能が保たれている場合は、治療の第1選択となる。フッ化ピリミジン系薬剤(フルオロウラシル、S-1、カペシタビンなど)、プラチナ系薬剤(シスプラチン、オキサリプラチン)、タキサン系薬剤(パクリタキセル、ドセタキセル)、イリノテカンなどの抗がん薬が単独または組み合わせで用いられる。
また近年、分子標的治療薬という新しいタイプの抗がん薬が用いられるようになってきている。
胃がんの10~20%では、HER2(ハーツー)というタンパク質ががん細胞の増殖に関与している。そのため、化学療法の開始前にHER2検査を行い、使用する薬剤を決定する。HER2陽性の場合は、分子標的治療薬の抗HER2抗体トラスツズマブ(ハーセプチン)を併用した化学療法が行われる。また、ラムシルマブとよばれるVEGFR-2(血管内皮増殖因子受容体2)に対する特異的な抗体が、他の抗がん薬と併用、あるいは単独で用いられる。
(a)一次化学療法
HER2陰性胃がんの場合、フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の2剤併用療法が推奨されている。日本では、S-1+シスプラチン(ランダ、ブリプラチン)療法が標準治療となっている。S-1のかわりにカペシタビンが用いられることもある。
HER2陽性胃がんでは、カペシタビン+シスプラチン+トラスツズマブ療法が推奨されている。カペシタビンのかわりにフルオロウラシル(5-FU)またはS-1が用いられることもある。
(b)二次化学療法
一次化学療法の治療効果が認められなくなった場合、または副作用などの理由で一次化学療法を中止した場合には、全身状態が良好であれば二次治療が検討される。ドセタキセル(タキソテール)、パクリタキセル(タキソール)、イリノテカン(トポテシン、カンプト)などが考慮される。分子標的治療薬のラムシルマブ(サイラムザ)は、パクリタキセルとの併用あるいは単独での治療効果が示されたことから、2015年6月に保険適用となった。
(c)三次化学療法
二次化学療法の治療効果が十分に期待できない場合でも、全身状態が良好であれば三次化学療法が行われる。ドセタキセルまたはパクリタキセル、イリノテカンのうち、二次化学療法で使用していない薬剤による治療が検討される。また、免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ(オプジーボ)は、三次以降の薬物療法で有効性が証明されたことから、2017年9月に保険適用となった。
[渡邊清高 2018年8月21日]
原発巣が噴門部や幽門部にある場合、経過中に通過障害(摂取した食物がスムーズにその部位を通過できないことで起こる障害)が生じることがある。
腹膜転移では腸閉塞、腹水、水腎(すいじん)症がみられることがあり、それぞれ症状緩和のための処置が行われる。骨転移、脳転移が起こることもある。
胃がんの予後に影響を与える因子としては、年齢、壁深達度、リンパ節転移、遠隔転移、肝・腹膜転移などがある。
日本胃癌学会の全国胃がん登録における2009年の手術症例報告による術後の5年生存率(TNM分類による)は、ステージⅠAで90.2%、ⅠBで81.1%、Ⅱで67.8%、ⅢAで50.9%、ⅢBで36.1%、Ⅳで17.9%であった。
切除不能進行・再発胃がん患者の生存期間中央値は、対症的に対応した症例で3~5か月、化学療法を行った症例で11~13か月程度となっている。
[渡邊清高 2018年8月21日]
ダンピング症候群は、胃切除後に、食物が小腸に急激に流入することによって生じる一連の症状である。食直後から30分以内に症状が出現する早期ダンピング症候群と、食後2~3時間に出現する後期ダンピング症候群に大別される。
早期ダンピング症候群では、食後の全身倦怠(けんたい)感、冷汗、動悸(どうき)、顔面蒼白(そうはく)・紅潮、腹痛、腹鳴、吐き気・嘔吐、下痢などが起こる。浸透圧の高い食物が急に小腸に流入するために、細胞外液が腸管内に移行し、血管内脱水になることが一因と考えられている。さらに、セロトニン、ニューロテンシン、血管作動性腸管ペプチド(VIP)などホルモンの関与も考えられている。
対策としては、1回の食事量を少なめに、何回かに分けて、ゆっくりと時間をかけて食べるようにする。消化のよいデンプンや糖分などの糖質摂取を控え、食事中には水分を控えめにして流し込むような食べ方を避ける。
後期ダンピング症候群では、15~20分継続する発汗、頻脈、脱力、ふるえ、意識障害などが起こる。腸管からの糖質の吸収によって急に血糖値が高くなることで、インスリンが過剰分泌されて起こる反応性低血糖と考えられ、糖質を補うことで改善する。
後期ダンピング症候群の予兆があるときには、食後2時間くらいに糖質を含む間食をとる、外出時には菓子類を携帯するなどのくふうをする。
[渡邊清高 2018年8月21日]
胃がんは長く日本人のがんによる死因の第1位であったが、近年、高齢化の影響を除いた年齢調整死亡率は減少傾向が続いている。これはピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の慢性感染を有している人の割合が経年的に減少してきている(若年人口において感染率が低い)ことと関連しており、衛生環境や食生活の変化の影響と考えられている。
1980年代、オーストラリアの研究者・医師のバリー・マーシャルとロビン・ウォーレンは、胃炎と関連のある螺旋(らせん)状の菌について研究し、胃の強酸の環境下で生存するヘリコバクター・ピロリが胃潰瘍や十二指腸潰瘍と関連があると考えた。マーシャルは慢性胃潰瘍の患者から培養したヘリコバクター・ピロリを自ら飲み込むことで胃炎を発症し、さらにその胃粘膜からヘリコバクター・ピロリの存在を示した。その後の研究で、抗菌薬を内服し除菌を行うことで、胃炎とピロリ菌感染が治癒したことから、胃炎とヘリコバクター・ピロリとの関連が認知されることになった。日本を含めた基礎研究や動物実験モデルを用いた研究、疫学研究などにより、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、さらには胃がん発症との関連が明らかになってきた。1994年には国際がん研究機関(IARC)によって、グループ1(発がん性がある)に分類された。
ヘリコバクター・ピロリはウレアーゼという酵素を産生しており、この酵素で胃粘膜内の尿素をアンモニアに分解することで胃酸を中和させ、酸性下でも感染を維持することが可能になっている。菌が産生する毒素(VacA)やムチナーゼ、プロテアーゼなどの分泌酵素が胃粘膜の傷害に関与するメカニズムや、感染した宿主細胞に注入されるエフェクター分子(CagAなど)が炎症反応を引き起こすメカニズムも、慢性炎症やがんの発生につながると考えられている。
ヘリコバクター・ピロリは、萎縮性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの炎症疾患、胃がんのみでなく、MALTリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫などの悪性腫瘍、さらには血小板減少性紫斑(しはん)病、機能性ディスペプシアなどとの関連も指摘されている。感染を契機に生じる免疫応答、炎症反応がさまざまな疾患発症の契機となっている可能性があり、除菌治療による影響を含めて、幅広い領域で研究が進められている。
[渡邊清高 2018年8月21日]
『日本胃癌学会編『胃癌取扱い規約』第15版(2017・金原出版)』▽『日本胃癌学会編『胃癌治療ガイドライン医師用 2018年1月改訂』第4版(2018・金原出版)』▽『国立がん研究センターがん対策情報センター『がん登録・統計 がん情報サービス』 http://ganjoho.jp/reg_stat/index.html』▽『国立がん研究センターがん対策情報センター『がん診療連携拠点病院等院内がん登録 2015年全国集計報告書』(2017) http://ganjoho.jp/data/reg_stat/statistics/brochure/2015_report.pdf』▽『World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer ResearchFood, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer : a Global Perspective(2007, AICR, Washington DC) http://www.aicr.org/assets/docs/pdf/reports/Second_Expert_Report.pdf』▽『IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risk to Humans. List of Classifications. vol.1-117(2017) http://monographs.iarc.fr/ENG/Classification/latest_classif.php』
高齢者の胃がんは若年者の胃がんに比較して進行が遅く、肝転移のみられる頻度が高く、
たとえばリンパ節転移は、原発巣の組織型が同じならば、80歳以上でも80歳以下の患者さんと同様の頻度でみられます。「高齢者のがんだからおとなしい」というわけではありません。
胃がんでは、別項に述べる内視鏡的粘膜切除術(EMR)や
中部・下部胃がんには幽門側胃切除術、上部胃がんには胃全摘術が行われます。適応を決めて縮小手術すなわち胃の局所切除術や
また噴門側胃切除術の適応は、胃の上部に存在する深達度が粘膜下層までの早期がんで、
がんが他臓器に直接
75歳以上の高齢者を手術する場合、「高齢だからといって根治性を落とすべきではない」とするよりも、「根治性を求めた結果、命を縮めることにならないように注意する」というように考えます。進行胃がんにおいては、リンパ節の予防的
リンパ節郭清を徹底的に行うと、どうしても術後の回復が悪くなり合併症の頻度も高くなります。手術直後を無事切り抜けられても、胃切除によって経口摂取が不十分な時期に体力が落ちたり、
たとえば標準治療とされるD2リンパ節郭清(胃がん取り扱い規約によるリンパ節第2群までの郭清)を徹底的に行うのでなく、少し郭清範囲を狭めたり、D1+7番(胃がん取り扱い規約による第1群リンパ節+左胃動脈根部リンパ節)の郭清にとどめるなど、方法を考慮します。もちろん「がんをすべて取りきる手術」を目指すのはいうまでもありません。
胃がんは、胃の悪性新生物の95%を占める
がんの
胃がんの発生には、環境因子の影響が強いと考えられています。
最近になって、ヘリコバクター・ピロリ(Hp:ピロリ菌)と呼ばれる細菌が胃のなかにすみ着いて胃がんの原因になっていることがわかってきました。この細菌は、1994年に国際がん研究機関によって“確実な発がん因子”と分類されました。菌によって慢性の炎症が起こり、
この菌は、50歳以上の日本人の約8割が保菌しています。Hp 陽性の患者さんで粘膜の萎縮の強い人は、萎縮のない人に比べて5倍も胃がんになりやすく、またHp 陽性の患者さんで腸上皮化生のみられる人は、みられない人に比べて6倍も胃がんになりやすいとされています。ただし、Hp 陽性者が胃がんに移行する確率は0.4%と低く、ヒトではHp 感染だけでは胃がんにはならず、Hp によって萎縮性胃炎が進行したところにさまざまな発がん因子が積み重なり、胃がんが発生すると考えられています。
分子レベルでは、この過程でがんをつくる方向にはたらく遺伝子(がん遺伝子)の活性化や、がんを抑える遺伝子(がん抑制遺伝子)の不活性化が起こっています。
一方で、胃がんの発生は食生活に関係があるといわれています。たばこ、高塩分食、魚や肉などの焦げは発がん促進因子とされており、逆に緑黄色野菜に含まれるビタミンA、C、カロチンは発がん抑制因子とされています。
胃がんと胃潰瘍はまったく別のものと考えられており、同じHp 感染が原因でありながら十二指腸潰瘍の患者さんには胃がんができないことも知られています。また、胃ポリープの一部(
胃がんに特有な自覚症状はありません。早期胃がんの多くは無症状で、一般には上腹部痛、
進行がんになると体重の減少や消化管の出血(下血や吐血)などがみられ、触診で、上腹部にでこぼこの硬い
バリウムによる胃の二重造影法は日本で開発され、胃がんの診断学の確立に大きな貢献をしてきました。しかしながら、現在は電子スコープの普及と内視鏡の細径化が進み、組織の採取が可能な内視鏡検査が主流になっています。
良性・悪性の最終診断は内視鏡下に組織を採取し(生検)、病理医による組織診断により決定されます。胃がんは病理学的には、大部分が正常の胃粘膜構造に似た分化型腺がんに分類されます。ただし、病理診断は良性・悪性の質的な診断であり、これだけでは病期(がんの進行度)を決定することはできません。
胃がんにかかわらず、がんの治療方法は後述するように病期によって決まります。病期はがんの深達度と広がりの程度によってⅠ期からⅣ期に大きく分類され、深達度とリンパ節への転移に応じてⅠ期はⅠAとⅠBに、Ⅲ期はⅢAとⅢBに亜分類されます(表3)。がんの深達度を評価するためには、内視鏡の肉眼所見に加えて超音波内視鏡が有用で、胃外への病気の広がり(リンパ節転移、他臓器転移の有無)を知るためにCTを行います。
いわゆる腫瘍マーカーは、胃がんではCEAやCA199などが使われますが、全例で陽性になるわけではなく、また早期診断には無効であり、主に再発予測など進行がんの術後の経過観察に用いられます。現在のところ、早期がんのスクリーニングに有用なマーカーはありません。
2004年に、日本胃癌学会が病期に応じた標準治療のガイドライン(第2版)をまとめて、広く一般にも公開しています(表3)。とくに、ⅠA期に対する内視鏡的粘膜切除術は患者さんへの肉体的負担が少ないこと、胃の機能が温存できること、また入院期間も短いことから日本では積極的に行われています。
最近では、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離(ねんまくかそうはくり)術、コラム)という方法も広く行われるようになり、大きい病変をひとかたまりで切除することができる時代となりました。
手術不能な胃がんに対する抗がん薬治療は、いくつかのベストサポーティブケア(BSC:抗がん薬を使用しない対症療法)との比較試験の結果、明らかな延命効果が証明されています(生存期間中央値がBSCの3~4カ月に対し、抗がん薬治療が10カ月)。しかし、具体的な薬剤の選択や投与法に関しては、いまだ研究段階にあり、経験豊富な施設、医師のもとでの治療がすすめられます。
また、セカンドオピニオンを積極的に聞くことも大切です。主に手術不能症例に対して、いろいろな代替医療(民間療法)が普及していますが、その多くは科学的根拠に乏しいものであり、これらの治療は十分な説明を受け、納得したうえで受けるようにしてください。
胃がん全体の5年生存率は、1963~1969年の統計では44%でしたが、1979~1990年の統計では72%と明らかに改善しています(国立がんセンター)。病期別の5年生存率はⅠ期92%、Ⅱ期77%、Ⅲ期46%、Ⅳ期8%(がん研究振興財団編「がんの統計1999」)となっています。
治療法の進歩にもかかわらず、治癒切除例の5年生存率が88%、非治癒切除例の5年生存率が11%であるのに対し、切除不能例の5年生存率は2~3%と不良で完治は困難です(国立がんセンター)。内視鏡的切除例の5年生存率は、対象がⅠA期に限られていることもあり、80~95%と外科切除と同等に良好です。
胃潰瘍、十二指腸潰瘍に対してはHp の除菌療法が標準治療となっていますが、Hp の除菌によって胃がんの発生が抑えられるかどうかについては、現在、精力的に研究が進められています。ポジティブな結果が待たれますが、明確な答が出るには時間がかかりそうです。
体重の減少や消化管の出血が認められた場合はすぐに近くの消化器専門医を受診し、医師の判断に従って検査を受けてください。初診は外科でも内科でもかまいません。何らかの上腹部症状が続く場合は、内視鏡検査を受けることがすすめられます。胃がんによる上腹部の症状は潰瘍の場合とは違い、食事とは無関係に起こります。
無症状の場合でも40歳を超えたら、内視鏡もしくはX線検査による健康診断を定期的に行うことが早期発見につながります。自覚症状がなく早期に発見された人の5年生存率は97%であり、今や胃がんは早く見つければほぼ完全に治せる病気になっています。前述したように胃がんは食生活の改善により予防できる余地があり、バランスの取れた食生活を心がけることが大切です。
千葉 勉, 伊藤 俊之
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
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出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報
《「ノブレスオブリージュ」とも》身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務があるという、欧米社会における基本的な道徳観。もとはフランスのことわざで「貴族たるもの、身分にふさわしい振る舞...
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