コトバンクはYahoo!辞書と技術提携しています。

胃がん いがんstomach cancer

知恵蔵の解説

胃がん

長い間、日本のがん死亡率の第1位を占めていた。男性では1993年に肺がんに、女性では2003年に大腸がんに1位の座を譲ったが、いずれも罹患率は依然として第1位である。日本海沿岸に多く沖縄に少ない。危険因子は、塩分の多い食事、ピロリ菌感染など。野菜や牛乳を多く摂取することで、リスクは減少すると考えられる。初期は無症状のことが多く、進行すると腹部不快感、腹痛、腹部膨満感、食欲不振などが見られる。早期発見の治癒率は90%以上だが、進行がんの予後は悪い。特に、がん組織に線維成分が多くなって硬くなるスキルスがん(硬がん、印環細胞がん)は、難治性がんの1つ。患者の90%にピロリ菌感染が見られるが、必ずしもがんになるとは限らない。早期発見のため、定期的に集団検診人間ドックなどを受診する。早期の胃がんは内視鏡下で切除するが、進行した時は外科的な手術を行う。進行がんに対しては5FU、またはシスプラチンを主体とした化学療法を行う。

(黒木登志夫 岐阜大学学長 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

栄養・生化学辞典の解説

胃がん

 胃のがん.以前は日本人のがんで最も多かったが,近年は減少している.その原因は食生活の欧風化,食塩の摂取量の減少によると考えられている.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

家庭医学館の解説

いがん【胃がん Gastric Cancer】

◎壮年(そうねん)の男性に多い
[どんな病気か]
◎他の胃腸病の症状と変わらない
[症状]
[原因]
[検査と診断]
◎切除可能なら手術が原則
[治療]

[どんな病気か]
 胃がんは、日本人に発生する悪性腫瘍(あくせいしゅよう)の第1位を長年占めてきましたが、近年わずかながら減少の傾向にあります。しかし、世界的にみても、日本が胃がんの発生率がもっとも高い国の1つであることに変わりはありません。
 胃がんはほぼ2対1の割合で男性が多く、年齢は50~60歳代が約6割を占めますが、高齢化社会を反映して、年々高齢者の割合も増えています。
●経過
 胃の壁は、内側から粘膜(ねんまく)・粘膜下層(ねんまくかそう)・筋層(きんそう)・漿膜(しょうまく)に分けられ、胃がんはいちばん内側の粘膜上皮(じょうひ)から発生し、しだいに漿膜側へと深く浸潤(しんじゅん)していきます。
 がんが粘膜や粘膜下層までにとどまる場合を早期胃がん、筋層より深部に浸潤するものを進行胃がんといいます。
 胃がんは早期のうちに発見して治療するのが理想です。放置すると胃の壁深く浸潤するだけでなく、リンパ液の流れにそって、胃の周囲のリンパ節(せつ)やさらに遠方のリンパ節に転移(てんい)したり、血液の流れにそって肝臓(かんぞう)や肺(はい)などへ転移します。また、おなかの中にがん細胞が散らばる(腹膜播種(ふくまくはしゅ))こともあります。
 この結果、低栄養、低たんぱく、貧血(ひんけつ)をおこすなどして、全身状態が悪化します。
 ですから、早期発見につとめ、早期に治療を受けることがなによりも重要となります。
 早期胃がんのうちに手術などの適切な治療を受ければ、9割の人は完全に治りますが、進行胃がんと呼ばれる状態になると、手術をしても、再発する危険性が高まります。
 胃がんの好発年齢は前述のとおり壮年者ですが、若い人にも発生することがあります。若い人の胃がんは、進行がんの段階になると急速に進展することがありますから、若い人でも、胃の調子が思わしくないなどの症状が出た場合には、早めに胃の検査を受けるようにしましょう。

[症状]
 初期のころは、なんの自覚症状もないことがほとんどです。また、症状が現われても、胃がん特有のものはありません。
 なんとなく胃のあたりが重い、食欲がない、味覚が変わった、胸焼(むねや)けやげっぷが多くなった、口臭(こうしゅう)がきつくなった、吐(は)き気(け)がするなど、ほかの胃腸の病気でみられるものと同じです。また、初期のころは痛みをともなうことはまれで、その痛みも、空腹時に痛むことの多い胃(い)・十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)とちがい、食事と一定の関係はありません。
 がんが進行すると、先に述べた症状がしだいに強く現われてきたり、常に感じられるようになります。体重も徐々に減少します。
 さらに進行すると、胃のあたりにかたいしこり(腫瘤(しゅりゅう))を触れるようになったり、おなかに水(腹水(ふくすい))がたまったりします。胃がんから出血がある場合には、吐物(とぶつ)の中に血液がまじったり(吐血(とけつ))、便がコールタールのように黒褐色(こくかっしょく)になる(血便(けつべん))こともあります。
 このころになると貧血が進み、全身衰弱(すいじゃく)が目立つようになります。
 肝臓や肺・骨・脳などの臓器に転移すると、転移した臓器やその程度により、さまざまな症状が現われます。

[原因]
 まだ十分に胃がんの発生原因が解明されたわけではありませんが、食生活を中心とした生活習慣が、胃がん発生と大きな関連があると考えられています。
 過食・早食いの人、大酒家、愛煙家、塩分の濃い食事を好む人では、胃がん発生の危険度が高まるといわれています。また、熱すぎる料理や焦(こ)げた食物もよくないとされています。
 逆に、緑黄色野菜(りょくおうしょくやさい)や乳製品を多く摂(と)ることで、胃がんの発生率が抑えられるといわれています。冷蔵庫が普及し、食物を必ずしも塩漬けで保存する必要がなくなり、新鮮な食物を口にできる機会が増えてきたことが、胃がんの発生が世界的に減少傾向にあることと無関係ではないようです。
 最近は、胃の中にすむヘリコバクター・ピロリと呼ばれる細菌が胃がん発生と関連があるのではないかとして注目されています(コラム「ヘリコバクター・ピロリ」)。

[検査と診断]
 胃がんの発見には、胃X線透視(とうし)と胃内視鏡(いないしきょう)が大きな役割を担っています。
 胃X線透視(上部消化管X線検査(「上部消化管X線検査(上部消化管造影検査)」))は、市区町村や職場の検診で広く行なわれています。バリウムと呼ばれる白い造影剤(ぞうえいざい)を飲んで行なう検査ですが、がんの全体像をとらえたり、胃の中におけるがんの位置を、より正確に知ることができる点で優れています。
 胃内視鏡(上部消化管内視鏡検査(「上部消化管内視鏡検査(胃ファイバースコープ/胃カメラ)」))は、弾力性のある細いファイバースコープを口から挿入して行なう検査です。ファイバースコープは改良がすすみ、以前にも増して細くやわらかくなっていますし、のどに麻酔(ますい)をするなどの処置を行ないますので、苦しい検査ではなくなりました。また、この検査は、疑わしい胃粘膜の組織を直接採取することができます。この組織を顕微鏡で見ることで、がんか否かが正確にわかるのです。
 胃X線透視も胃内視鏡も、日本の診断技術は世界のトップレベルにあります。いずれの検査も外来で受けられますが、検査前日の食事や飲酒・喫煙は控えめにし、当日の朝は食事をとらずに検査に臨(のぞ)みます。常用している内服剤がある人は、検査担当の医師と相談してください。検査の際に使う薬により、目がかすんだりしますので、検査当日は、車の運転や自転車での来院は控えたほうがよいでしょう。
 胃がんが発見された場合は、ほかの臓器に転移していないか調べるために、超音波・CTスキャン・MRI・血管造影(けっかんぞうえい)などの検査が追加されます。また、早期胃がんの場合、内視鏡による処置で取り切れることもありますから、その適応を決めるため、さらに詳細な胃内視鏡検査や超音波内視鏡検査が追加されることもあります。
 また、がんがからだのどこかにできた場合、血液中で特殊な物質の数値が上昇することがありますので、血液検査も行ないます。これらの物質を腫瘍(しゅよう)マーカー(「腫瘍マーカー」)といいますが、胃がん特有のマーカーはなく、すべての胃がん患者でマーカーが上昇するわけでもないので、胃がんの早期発見には用いられていないのが現状です。

[治療]
 胃がんと診断されたら、できるだけ早期に治療を受けるのが原則です。切除可能ならば手術を行ない、補助療法として抗がん剤や免疫賦活薬(めんえきふかつやく)を、手術の前あるいは後に併用します。
●手術
 手術方法は、胃がんの発生した場所や、広がりの程度、他の臓器への転移の有無によってちがいます。一般的には、がん組織を含めて十分な範囲の胃を切除したうえで、転移の可能性がある胃の周囲のリンパ節を除去するために、リンパ節の摘出(てきしゅつ)(リンパ節郭清(せつかくせい))を行ないます。
 早期胃がんであれば、がんを完全に取り切って永久的な治癒(ちゆ)を目指す「根治手術(こんじしゅじゅつ)」が行なえます。このようながんに対しても、以前は広く大きく切除することが大原則でしたが、がんが完全に治って(根治して)、手術後長期間生存できる人が増えてきた昨今では、根治性を損なわない程度に、小さい範囲で切除する治療も広く受け入れられるようになってきました。
 たとえば、内視鏡を使って、粘膜内にとどまるごく早期のがんを切除する「内視鏡的粘膜切除術(ないしきょうてきねんまくせつじょじゅつ)」を行なえば、おなかを切り開く必要もなく、入院も短期間ですむうえ、胃の形や機能が損なわれることがないので、術後の障害がほとんどありません。
 また、一部の施設では、おなかに内視鏡を挿入(そうにゅう)して、おなかを大きく切り開かずに胃の部分切除を行なう「腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)」も導入されて良好な成績をあげています。手術後の機能障害が少なく、手術創(しゅじゅつそう)が小さいので、社会復帰が早いのが利点です。
 一部の進行がんでも「根治手術」は可能ですが、浸潤の程度が進んだ場合や、他の臓器への転移がある場合は、症状を改善するための「姑息的(こそくてき)な手術」が行なわれることもあります。
 その一例として、食物の通過障害がおこっている場合に行なわれるバイパス手術があります。
 胃の切除範囲は、部分切除の場合と全部摘出する場合がありますが、必要に応じて周囲の臓器(脾臓(ひぞう)、膵臓(すいぞう)、肝臓、横行結腸(おうこうけっちょう)など)を同時に切除することもあります。
 切除した胃は再生されませんが、再び食事が摂(と)れるようにするために、食物の通り道を再建する処置を施します。
●手術が不可能な場合
 広い範囲に転移をおこしているなどの理由で手術が不可能な場合は、抗がん剤を用いる化学療法や、免疫療法が行なわれます。
●手術後の療養
 手術直後は口から飲食物を摂ることができませんので、その間は点滴(てんてき)で栄養を補います。口から飲食物が摂取(せっしゅ)できるようになるのは(手術術式によって多少の差がありますが)3日目~1週間前後です。
 まず水分から始め、流動食から徐々にふつうの食事にもどしていきます。胃を切除した後は1回に摂れる食事の量が少なくなるため、当初は1日に5~6回に分けて食事をする必要がありますが、しだいに1回の食事量が増えて、ふつうの人と同じように食事が摂れるようになります。ただし早食いは厳禁です。
 手術創の糸が抜け(抜糸(ばっし))、からだに入っていた排液管(はいえきかん)などが抜けると、入浴も可能になり、退院するのも間近となります。
 手術後の社会復帰については、個人差がありますので、担当医とよく相談してください。
●手術後の後遺症(こういしょう)
 胃を切除すると、胃の食物貯留機能(しょくもつちょりゅうきのう)が低下・消失するために、消化吸収障害・下痢(げり)・ダンピング症候群(しょうこうぐん)(めまい、頻脈(ひんみゃく)、発汗(はっかん)など)・逆流性食道炎(ぎゃくりゅうせいしょくどうえん)(胸やけ)などの後遺症がおこることがあります。手術による癒着や暴飲暴食などが原因で腸閉塞(ちょうへいそく)をおこすこともあります。また、貧血や骨代謝異常(こつたいしゃいじょう)(骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、骨軟化症(こつなんかしょう)など)・胆石(たんせき)の発生が手術後長期間たってからおこる場合もあります。
 手術後の再発防止や後遺症予防のために、定期的に外来を受診し続けることが必要です。
●化学療法
 がんの再発を予防するために、あるいは手術では取り切れなかったがんをたたくために、抗がん剤を使用することがあります。使用方法は内服の場合や点滴の場合などがあり、薬剤としてはフルオロウラシル(5FU(ファイブエフユー))やその類似物、マイトマイシンC、塩酸ドキソルビシン、シスプラチンなどが単独あるいは併用で用いられています。
「抗がん剤」というと副作用ばかりがクローズアップされる嫌いがありますが、切除したがん組織を使って抗がん剤の感受性試験(かんじゅせいしけん)を行ない、個々のがんに効果があると予想される薬剤を事前に選択し、無為な副作用を軽減する工夫も行なわれています。
●免疫療法(めんえきりょうほう)
 その人自身がもつ免疫機能を高める治療法です。免疫強化薬(ピシバニール、クレスチン、レンチナンなど)が広く用いられています。
●その他の治療
 放射線治療や温熱療法などが試みられていますが、十分な効果をあげるには至っていません。
●受診する科
 診断は内科・外科・放射線科のうち、消化器を専門とする医師があたります。最近は、消化器病センターや内視鏡センターを設ける病院も増えてきました。
 症状が現われる前は、市区町村や職場で行なわれる検診を積極的に受診するのが望ましいのですが、なんらかの症状が出現し、それが持続するようなら、早めにこれらの消化器病専門医を訪れるのがよいでしょう。
 治療は、切除可能な胃がんであれば外科が担当し、内視鏡治療が可能な場合は内視鏡医が担当することもあります。併用される化学療法などのため、内科が治療を担当することもあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

食の医学館の解説

いがん【胃がん】

《どんな病気か?》


 胃がんは、高糖質、低脂肪、そして食塩の多い食生活を送ってきた日本人にもっとも多くみられるがんでした。しかし、近年、食習慣の変化や塩分摂取への意識の高まりなどで、若年層では減少の傾向にあります。
 ただ、最近になって、ヘリコバクター・ピロリという細菌がクローズアップされています。この細菌は日本人の感染率が高く、とくに胃潰瘍(いかいよう)や十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)、胃がんの発生に関係しているとされています。
 初期症状は胃のもたれや不快感、圧迫感、胸やけや食欲不振など、胃の調子が悪いという程度なので、初期段階で発見することは困難です。

《関連する食品》


〈塩分をひかえてビタミンC、クルクミンで予防する〉
○栄養成分としての働きから
 ビタミン不足が胃がんの発症に関係しているという研究もあります。ビタミンCを多く摂取することを推奨しているアメリカでは、胃がんの発症が年々減少しています。ほかのがんと同様、がんの予防効果のあるビタミンA、C、Eを積極的に摂取しましょう。
 また、クルクミンという黄色い色素成分は、活性酸素の働きを阻害し、がん発生を抑え、また免疫機能を高めてがんの進行を抑制する働きもあり、とくに胃がんには有効だといわれています。クルクミンは、カレーで使われるスパイスの一種であるターメリックや、たくあん、マスタードなどの着色料に含まれています。
○注意すべきこと
 第1は塩分をひかえることです。男性1日8.0g未満、女性7.0g未満に抑えることが基本ですが、気になる人は6g未満を心がけましょう。熱いもの、飲酒、喫煙も注意が必要です。

出典 小学館食の医学館について 情報

胃がんの関連キーワードGIST(ジスト)と標準治療立川 文都(6代目)山口彊(つとむ)さん山口彊さんの二重被爆胃がん・肺がん検診がんの死亡者数スキルス性胃癌Lがん抑制遺伝子堀江 しのぶ山極 勝三郎がんの死亡率須田 開代子がん集団検診鴇田 英太郎ビタミンC六価クロム発酵調味料連城三紀彦陣内伝之助

今日のキーワード

天網恢恢疎にして漏らさず

《「老子」73章から》天の張る網は、広くて一見目が粗いようであるが、悪人を網の目から漏らすことはない。悪事を行えば必ず捕らえられ、天罰をこうむるということ。...

続きを読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android

胃がんの関連情報