改訂新版 世界大百科事典 「ホモエルガスター」の意味・わかりやすい解説
ホモ・エルガスター
Homo ergaster
前期更新世の原人の一種。アフリカのホモ・エレクトスのこと。ホモ・エレクトス化石のうち,年代が古くアフリカで出土する化石がアジアで出土するホモ・エレクトス化石とは違うという認識に基づいて,それらの化石をホモ・エルガスターという別種として扱っている。ただし,ホモ・エルガスターはアジアのホモ・エレクトスと同じ種であると認識し,その存在を認めない研究者も多い。エルガスターは働くという意味。模式標本は,1971年にトゥルカナ湖東岸で発見された下顎骨(KNM-ER 992)。他に,保存のよい頭骨(KNM-ER 3733)やトゥルカナ・ボーイと呼ばれる少年骨格(KNM-WT 15000)がよく知られている。年代は190万~150万年前。
ホモ・エルガスターは,全身の大きさやプロポーションそして歯の大きさと形態において,ホモ・サピエンスと本質的に変わらない最古の人類種である。頭蓋腔容積(脳容積より10%ほど大きい)は800~900mlで,ホモ・ルドルフェンシスより大きいが,アジアのホモ・エレクトスと比べると小さめである。ホモ・エルガスターは,ホモ・エレクトスと比べると,眼窩上隆起の発達は弱く,脳頭蓋は丸いので,一見すると華奢にみえるが,顎関節や歯は大きく,咀嚼筋が発達し,原始的特徴がみられる。アジアのホモ・エレクトスは,頭骨全体が大きく頑丈になったが,歯は小さく,咀嚼機能は低下したといえよう。
トゥルカナ・ボーイの四肢骨は細長いので,ホモ・エルガスターは背が高く細身の体つきだったと考えられているが,骨盤が広く,かなり頑丈だったという意見もある。発見されている化石のうちで,大柄の個体は男性とみなされ,身長160~180cm,体重60~80kgほどと推定されている。小柄な個体は女性とみなされるが,大柄な個体との差が少ない。つまり,性差は現代人と同じくらいとみなされる。体つきから推測すると,暑い日中でも長距離を移動できるので,積極的な狩りをした可能性が高いと考えられている。少なくとも,広範囲を巡回して,死んだばかりの動物を手に入れることは容易だった。その際には,オルドバイ型の石器を使用して動物を解体し,さらに骨髄を取り出したことだろう。
→原人 →ホモ・エレクトス
執筆者:馬場 悠男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報