日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポリドラ」の意味・わかりやすい解説
ポリドラ
ぽりどら
環形動物門多毛綱スピオ科Spionidaeの1属Polydoraの総称。日本では現在7種認められているが、それ以上の種類が生息しているものと考えられる。すべて海産で、いろいろな種類の貝殻の中に穿孔(せんこう)して生活する習性がある。体長1~3センチメートル、体幅1~1.5ミリメートル、100剛毛節内外からなる。口前葉は先端が突出し、2対の眼点と1対の大きな副感触手がある。第5剛毛節は大きく、ほかの節と異なった形の鉤(かぎ)状剛毛が並んでいる。葉状のえらが第7剛毛節より生じ、体末端近くまで続く。肛環節(こうかんせつ)は盤状または杯状になる。
ポリドラ属の種類が真珠母貝のアコヤガイやクロチョウガイ、食用貝のアワビやホタテガイなどの殻の中に多量に穿孔すると、貝は成長が阻害され、ついには死ぬ。アワビの肉がやせて半透明になった「みずがい」は、ポリドラの寄生によるものであり、被害の著しい殻は質がもろくて殻の細工に適さなくなる。
アコヤガイはポリドラ・シリアータPolydora ciliataとポリドラ・フラバ・オリエンタリスP. flava orientalisの2種が優占していて、殻の腹側縁辺部の鱗片(りんぺん)状突起が多い場所に集中している。孔道はU字形になっていて、入口と出口が隣接し、2本の孔道の間は白く軟らかい物質で仕切られている。孔道の中で4~8月に産卵し、約10日後には体長0.3ミリメートルほどの幼生になって海中を浮遊生活し、その後、着生生活に移る。駆除にはアコヤガイを飽和食塩水中に10~30分浸漬(しんし)し、その後30~60分間陰干しして虫体を殺す方法がとられているが、かならずしも完全とはいえない。
オホーツク海沿岸のホタテガイの貝殻中には、ポリドラ・コンカルムPolydora concharum、マダラスピオP. variegata、ポリドラ・シリアータの3種が確認されていて、各地域で優占種が異なっているが、マダラスピオが周年にわたって主役を占めている。マダラスピオは、ホタテガイの殻の成長障害輪に沿って同心円状に孔道をつくる傾向がある。産卵期は9~10月で、仔虫(しちゅう)は流氷下で貝殻中に穿孔する。これらポリドラ類による被害が大きく、完全な駆除法の確立が望まれている。
[今島 実]