ふつう手先を使って細かい小道具,調度などを作ること,あるいはその職人を指す語。《類聚三代格》809年(大同4)の〈内匠寮雑工長上,番上〉の中にみえる細工,《延喜式》内匠寮で五尺屛風を製作する工人中にあげられた細工は,木工,鋳工,鍛冶工,漆工等と区別された,細かい木製の調度を作る工人で,《宇津保物語》(吹上)で作物所に属し,沈(じん),蘇芳(すおう),紫檀から破子(わりご),折敷(おしき),机等を作った細工も同様の人々であった。しかし《源氏物語》(宿木)には,すでに沈,紫檀,銀,金などの〈道々の細工ども〉とあり,金属工から金・銀・銅の細工が分化するとともに,細工の範囲は広がり,諸種の手工業者を含むようになる。1010年(寛弘7)神宝を作成した道々細工(〈九条家本延喜式紙背文書〉)も同じ事例で,鎌倉初期には〈殿下御細工〉といわれた鋳物師(いもじ)もみられ(〈民経記紙背文書〉),道々細工は各種手工業者の総称となった。これらの細工は朝廷では作物所,蔵人所に統轄され,行事所にも細工所が設けられたが,院や摂関家,さらに鎌倉幕府なども,それぞれ常置の細工所を持ち,道々細工を統轄した。これらの細工たちは特定の権門に専属せず,いくつかの権門に兼ね属する場合が多かった。また,諸国の国衙(こくが)にも一般的に細工所が置かれ,若狭国細工所の所領細工保には番匠,鍛冶,檜物などの給田がみえ,播磨国には東西2ヵ所の細工所,武蔵国にも大細工所,内細工所(前者が幕府,後者が北条氏の細工所と推定される)があった。当初の狭義の細工の用例も鎌倉期まではみられるが,室町時代には〈絵師幷びに障子以下細工人〉(〈小山田文書〉)のように,その範囲は多少とも限定され,《日葡辞書》は細工人を〈物を作る職人〉としつつ,細工は〈細かに工(たく)む職人〉としている。江戸時代にかけて,武具や馬具,細かい調度,道具を作る職人がふつう細工と呼ばれ,江戸幕府も若年寄に属する細工所をもち,細工頭,細工方改役,細工所組頭などの役職を置き,こうしたものを細工に製作させた。
一方,南北朝期に入ると,〈裏無〉(草履)を所役(所)として祇園社に属し,ときに処刑された人の首を処理する〈河原細工〉が現れる(《八坂神社記録》)。〈四条河原細工丸〉あるいは単に〈細工丸〉といわれることのあったこれらの人々は,河原者とも重なっていた。また室町時代の奈良においても,興福寺一乗院・大乗院に属し,板上利(金剛草履)を課役として負う〈細工座〉があり,板金剛座とも〈両座ノエムタ〉とも呼ばれ,〈上利は河原者の沙汰〉といわれている点から,この細工が河原者に重なることはまちがいない(《大乗院寺社雑事記》)。〈エムタ〉(穢多)という呼称が定着しはじめていることからみて,室町期にはこうした一部の細工が卑賤視されるようになり,江戸時代,竹細工,箒などを作り売る人々を細工ということのあったのは,ここにその源流を求めることができる。
執筆者:網野 善彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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