日本大百科全書(ニッポニカ) 「マスタートラスト」の意味・わかりやすい解説
マスタートラスト
ますたーとらすと
master trust
単一の金融機関が、複数の運用会社にまたがる年金資産を一元的に管理する業務をさす。企業年金基金などから、保有する株や債券の保管、売買の決済、利子・配当の受取り、会計報告などの業務を一括して請け負う。年金基金にとっては、運用会社別、資産別などの運用状況を把握でき、リスク管理が容易になる利点がある。なお類似用語に、投資家の有価証券を管理するカストディがあるが、カストディが資産全般の管理業務の総称であるのに対し、マスタートラストは年金資産に絞った管理業務の意味合いが強く、マスタートラストはカストディの一形態とみることもできる。
アメリカで1974年にエリサ法(ERISA:Employee Retirement Income Security Act、従業員退職所得保障法)が制定されたのを機に広く普及した金融サービスで、顧客のさまざまな要望に応じて継続的に大規模なシステム投資が必要なため、アメリカではステート・ストリート銀行やバンク・オブ・ニューヨーク・メロンなどが市場を独占している。日本では長く信託業法で禁じられてきたが、1999年(平成11)、政府の規制緩和推進計画に「日本版マスタートラスト」導入が盛り込まれ、2000年(平成12)にマスタートラスト業務を解禁。2000年から2001年にかけて、都市銀行、信託銀行、生命保険会社などが共同出資で、資産管理サービス信託銀行(みずほフィナンシャル系)、日本トラスティ・サービス信託銀行(三井住友トラスト・りそな系)、日本マスタートラスト信託銀行(三菱UFJフィナンシャル・日本生命保険相互系)の3行を設立。2020年(令和2)に、日本カストディ銀行(資産管理サービス信託銀行と日本トラスティ・サービス信託銀行が統合)と日本マスタートラスト信託銀行の2行体制に再編された。
[矢野 武 2022年4月19日]