デジタル大辞泉 「売買」の意味・読み・例文・類語
ばい‐ばい【売買】
1 売ることと、買うこと。売ったり買ったりすること。うりかい。「株を
2 民法で、当事者の一方が財産権を相手方に移転することを約束し、相手方がこれに対して代金を支払うことを約束する契約。売買契約。
[類語]売り買い・商売・取引・商い・商業・ビジネス・引き合い・商行為・交易・トレード・貿易・輸出入・通商・商取引・先物取引
民法の規定する契約類型(典型契約)の一つであって,当事者の一方(売主)が,相手方(買主)に対し財産権を移転し,買主がその対価として金銭(代金)を支払うことを内容とする契約をいう(民法555条)。財貨を入手するには,売買契約という法律的形式をとることが多く,社会的にも重要な契約である。売買の目的物は,財産権であれば足りるから,不動産・動産のような有体物はもとより,債権,無体財産権,株式,のれん,企業等であっても,財産的価値があるかぎり,すべて売買の対象となる。売買においては,財産権の移転と代金の支払とは,対価的な意味をもち,これらは契約当事者双方が負担する債務であるから,売買は有償契約であり,双務契約である。しかも,売買は有償契約の典型であって,売買に関する民法の規定は,性質の許すかぎり,他の有償契約に準用され(559条),双務契約に関する民法の規定(同時履行の抗弁権,危険負担等)は,売買に典型的な適用をみることが多い。この意味で,売買は社会的にばかりでなく,法律的にも重要な契約である。
民法には売買と題する節(555~585条)がおかれているが,売買に関する法規制は,これに限られるわけではない。売買は契約の一つであるから,契約総則(521条以下)に関する規定が適用されるし,契約は法律行為の一つであるから,法律行為の規定(90条以下)の適用もある。売買から生じた債権は,債権総則(399条以下)が適用される。売買の結果生じた権利の移転については,物権に関する規定(176~178条等)も関連してくる。商人間の売買に関しては,商法の特則(商法524条以下)も適用される。このほか,各種の特別法(宅地建物取引業法,割賦販売法,訪問販売等に関する法律,独占禁止法,農地法等)が特定の売買について,その取引方法,契約内容,権利の移転等に関し規制を加えている。また,メーカー・商社間,小売商・卸売商間のように反復的・継続的に売買が行われている当事者間には,種々の取引慣行が発達し,また各種の約款が用いられ,民法の規制が排除されている場合が少なくないのである。
割賦販売,クレジットカード販売,提携ローン販売のような売買は,各種の契約が組み合わされた,きわめて複雑な形態をみせている。国際的売買は,国内間の売買とは違った契約や取引慣行によって行われる場合が多い。このように,売買に関する法の規制は多種多様であって,民法の〈売買〉と題する節は,この多様性を捨象してまとめて一般的・抽象的・部分的な規定をおいているにすぎない点に注意する必要がある。以下では,民法の規定を中心に売買に関する基本的な事項を証明するにとどめる。
売買契約が有効に成立するには,契約当事者間に,売ろう・買おうという合意だけが必要である(このように意思表示のみを要件とする契約を諾成契約という)。不動産など重要な財産権を対象とする売買では,契約書が作成されることが多いであろうし,法律上も契約内容を明確にして紛争を防止する等の目的のために契約に関する書面の交付が要求されている場合があるが(宅地建物取引業法37条,〈訪問販売等に関する法律〉5条等),これらの場合の多くは書面の作成は効力発生の要件ではないと解されている。なお,スーパーマーケットでの売買や,自動販売機を利用した売買では,目的物の引渡しと代金の支払とがただちに完了してしまい,売ろう・買おうという合意が存在するとはみられないので(このような売買を現実売買という),現実売買の性質をどのように解すべきかについて議論があったが,現在では,これも売買契約の一つと考えて,性質の許すかぎり(556条,557条などは現実売買の性質上適用されない)売買の規定を適用すべきであると解されている。
売買契約の締結に先だって,将来において契約(これを予約に対し本契約という)をする旨の合意がなされることがあり,これを売買の予約という。予約の一方の当事者が申込みをすれば,他方はこれを承諾する義務を負い,承諾義務を履行しない場合には,訴えによってこれを強制できる。しかし,このような契約が認めらるべきことは契約自由の原則上,当然のことであり,また,承諾を強制しなければならないとすれば,てまがかかる。ここで,民法は,当事者の一方が意思表示(予約完結の意思表示)をすれば,それだけでただちに売買契約を成立させるという形の予約を認めた(556条)。一方当事者が予約完結権を持つので,これを売買一方の予約という。予約完結権を行使すれば,あらかじめ定めた内容どおりの契約が成立するので,売買の目的物が値上がりしているときなどには予約をしておけば有利である。しかし,売買一方の予約は,本来の予約としてよりは,債権担保の手段として用いられることが多い(貸金債権の担保として貸主が借主の不動産につき売買予約を結んでおき,弁済期に返済がないときに,予約完結権を行使してその不動産の所有権を取得する場合など)。なお,売買に関する(有償契約一般にも準用されるが)重要な制度として手付の制度があるが,これについては,その項目を参照されたい。
売買契約が成立すると,売主は,売買の対象たる財産権を移転する義務を負い,買主は代金を支払う義務を負う(555条)。これが売買契約の主要な効果である。
財産権を移転する義務の中には,目的物の引渡しをすること,不動産売買の場合には登記に協力すること,債権の売買の場合には譲渡の通知をすること(467条参照),農地の売買には,農地法上の許可申請に協力すること(農地法3条,5条),賃借権の売買の場合には賃貸人の承諾を得ること(民法612条参照),などが含まれる。目的物につき権利を主張し,買主の権利取得を妨害しようとする者がいれば,売主はそれを排除する義務を負う(判例)。他人の財産権を売買の対象としたときは,売主はその権利を取得して買主に移転する義務を負う(民法560条)。移転できないときは,担保責任の問題となる(561条)。売買の目的物から賃料等の果実が生じたときは,果実収取権を有する者が取得するのが原則であるが,民法は収取権の所在を問わずに,引渡前に生じた果実については,売主に属すると定める(575条1項)。これは,買主は引渡しの日から代金の利息を支払う義務を負う旨を定めた規定(同条2項)に対応するものであって,引渡しまでに生じた関係(売主は目的物の使用による利益を償還し,他方で,保管費用を請求する等の複雑な関係になる)を簡易に決済する趣旨だと解されている。
以上のほか,売主の負う重要な義務として担保責任があるが,これについてはその項を参照されたい。
買主は代金支払の義務を負う。代金の額,支払時期,支払場所等は契約に定められるのが通常であるが,民法は,契約当事者の意思や取引慣行が明確でない場合に備えた支払時期・支払場所についての規定を設けている(573条,574条)。また,代金の利息の支払義務は原則として引渡しの日から生じる(575条2項)。買主は,〈同時履行の抗弁権〉(533条)により代金の支払を拒絶できるほか,売買の目的につき権利を主張する者があって買主が買い受けた権利の全部または一部を失うおそれのあるときはその危険の限度に応じて(576条),また,買い受けた不動産につき先取特権,質権,抵当権の登記があるときには滌除(てきじよ)の手続が終わるまで(577条),それぞれ代金の支払を拒絶できる。この場合には売主の側で買主に対し代金の供託を請求できる(578条)。買主は以上の義務を負うほか,契約の内容いかんによっては,信義則上目的物の引取(受領)義務を負うことがある(判例)。
(1)見本売買 見本を示して行われる売買をいう。売主が見本と同一の品質・性質を備えた物を給付する義務を負う点に特色がある(〈瑕疵(かし)担保責任〉の項を参照)。
(2)試味売買 買主が目的物を試用して気に入ったら買うという売買をいう。どの時点までに買うことについての諾否の返答をすると解すべきかが,この種の売買で問題になるが,民法556条2項を類推して,相当の期間内に返答をなすよう催告してその期間内に返答がないときには売買が成立しないと解されている。
(3)継続的供給契約 電気,ガス,水道,新聞など一定の種類のものを継続的に供給する契約をいう。この種の契約では,売主が先に供給し,買主が代金を定期的にまとめて支払うので,同時履行の抗弁権,解除について特殊な考慮を加える必要がある点に特色がある(買主は今期分の給付がないことを理由に,前期分の代金の支払を拒絶できず,また,解除の効果は将来に向かって生ずる,と解される)。
このほか,割賦販売については,その項を参照されたい。
→契約
執筆者:平井 宜雄
例えば,日本の会社がアメリカ合衆国カリフォルニア州の会社からオレンジを買いつけたり,日本に観光旅行でやって来たイギリス人が日本のデパートで土産物を買ったり,あるいは,ドイツ人が日本にある韓国人所有の土地を購入したりする場合のように,売買が国際的な規模で行われるとき,その売買を国際的売買という。このような国際的売買については,売買契約の当事者の権利・義務がどの国の法によって規律されるか,つまり,売買契約の準拠法は何か,という国際私法上の問題が発生する。売買契約の準拠法が何になるかは,訴訟が提起された国(法廷地国)の国際私法によって決められる。そして,この国際私法もまた,世界的には統一されていないので,裁判がどの国で行われるかによって,同一の売買契約に適用される法が異なってくることになる。もっとも,多くの国の国際私法が,売買契約のような債権契約の準拠法の決定につき,当事者自治の原則を採用しているので,当事者が明示的に準拠法の指定をしている場合には,指定された法が適用される場合が多いということはできる。しかし,当事者自治の原則を採用していない国もあるし,また,採用している場合でも,それらの国々の裁判所がつねに同一の法を準拠法と決定してくれるという保障はない。というのは,中には当事者自治の原則を制限している国々があり,しかもその制限は一様ではないし,また,当事者が明示の準拠法の指定をしなかった場合の措置も国によって異なるからである。しかし,このような状態では契約当事者は前もって相互の権利義務を確定的に知ることが困難であり,このことは取引の安全を阻害することになる。とくに,国際取引の中で重要な地位を占める諸国の企業間における大量の商品売買において,当事者間の権利・義務関係が不明確であることは,これらの取引で強く要請される取引の迅速・円滑化を妨げることになる。そこで,国際取引におけるこのような困難を除去するために,従来よりさまざまな国際的努力がなされてきているのである。
最も望ましいのは,当事者の権利・義務を直接規律する諸国の売買に関する実質法を世界的に統一することである。この方面での成果としては,私法統一国際協会(UNIDROIT)がその作成に努力し,1964年にハーグで採択された〈有体動産の国際的売買に関する条約〉(1972発効),および〈有体動産の国際的売買契約の成立に関する条約〉(1972発効。両者を合わせてハーグ統一売買法条約と呼ぶ),および,国際連合により64年に設けられた国際商取引法委員会(UNCITRAL)がその草案を作成し,80年にウィーンで採択された国際動産売買契約に関する国際連合条約(1988年1月発効。ウィーン統一売買法条約と呼ぶ)がある。このような統一法条約に世界のすべての国が加入すれば,法の抵触はなくなり,国際売買に関する国際私法は不要となろう。しかし,実質法の世界的統一の実現はそれほど簡単ではない。
実質法の統一が困難な場合でも抵触法である諸国の国際私法が統一されれば,裁判がどこで行われようと,売買契約の準拠法は同一の法となり,準拠法につき当事者の予測が可能となる。そこで,売買に関する国際私法の統一が考えられたのである。1955年にハーグ国際私法会議で採択された〈有体動産の国際的性質を有する売買に適用すべき法律に関する条約〉(1964年発効)および,同じく同会議により58年に採択された〈有体動産の国際的性質を有する売買における所有権の移転の準拠法に関する条約〉(1995年8月現在未発効),さらに同じく85年に採択された〈国際動産売買契約の準拠法に関する条約〉(1995年8月現在未発効)などはその例である。
実質法にしろ,抵触法にしろ,法の統一のためには統一法条約を作成し,諸国がその当事国となるという方法がとられなくてはならず,当事国となるかどうかは各主権国家の意思にゆだねられているので,全世界的な法の統一はなかなか実現できにくい。ところで,法規そのものの統一ではなくても,標準契約書や契約用語の解釈のための統一規則等を作成し,当事者がそれによることによって,売買契約の内容を統一することは可能である。このような例として,国際連合欧州経済委員会(ECE)が作成している標準売買契約書や,国際商業会議所が1953年に作成(1980改定)したインコタームズINCOTERMS,CIF売買に関し国際法協会が1932年に採択したワルソー・オックスフォード規則等を挙げることができる。もちろん,標準契約書や統一規則は法規そのものではないので,契約準拠法の強行規定に反することはできない。しかし,売買契約に関する諸国の法規の多くは任意法規であるため,このような統一規則等を広く当事者が採用することによって,法統一類似の効果をもたらすことができる。
→国際商法
執筆者:鳥居 淳子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
当事者の一方(売り主)が財産権を相手方(買い主)に移転することを約し、相手方がこれに代金を支払うことを約することによって成立する契約(民法555条以下)。有償・双務・諾成・不要式の契約である。
[淡路剛久]
売買は諾成契約であるから、合意があれば成立する。契約に要する費用(たとえば、印紙代や公正証書作成の手数料)は、特約がなければ、売り主と買い主とが平分して負担する(民法558条)。なお、契約に際して、いきなり本契約を結ばずに、売買の予約をすることがある。この場合、それが売買の一方の予約(予約を本契約にする権利を一方だけがもっている場合)であれば、予約権利者が予約を完結する意思を表示したときから売買の効力が生じる(同法556条)。また、契約に際して手付が授受されることがあるが、これは別段の合意がなければ、解約手付(当事者の一方が履行に着手するまでは、買い主は手付金を放棄して、売り主は手付金の倍額を償還して、契約を解除できる)と推定される(同法557条)。
[淡路剛久]
売買が成立すると、売り主は売買の目的物である財産権を移転する義務を負い、買い主は代金を支払う義務を負う。売り主が買い主にいまだ目的物を引き渡さないうちに果実を生じたときには、その果実は売り主に属する(民法575条1項)。そのかわりに、買い主は引渡しを受けないうちは代金の利息を支払う必要がなく、引渡しの日より利息を支払う義務を負う(同条2項)。
このほか、売り主が担保責任を負うことが重要である。売り主の担保責任には二つあり、一つは、売買の目的たる権利に瑕疵(かし)があることによる責任であり(追奪担保責任)、(1)他人の権利の売買の場合 売り主が他人の権利を売買の目的としたが、それを取得できなかった場合、買い主は契約を解除でき、また損害賠償をとれる(同法561条・562条)、(2)数量不足および一部滅失の場合 数量を指示して売買した物が不足な場合、および物の一部が契約の当時すでに滅失していた場合、買い主は代金の減額、契約の解除、損害賠償を請求できる(同法565条)、(3)売買の目的物に占有を内容とする他人の権利(地上権、永小作権など)がついている場合 買い主は契約を解除でき、また損害賠償をとれる(同法566条)、(4)売買の目的たる不動産に抵当権などがついていて、そのため買い主が所有権を失った場合 買い主は、契約の解除、出捐(しゅつえん)の償還、損害賠償の請求ができる(同法567条)、などである。売り主の担保責任のもう一つは、売買の目的たる物に隠れた瑕疵があった場合の責任であり(瑕疵担保責任)、買い主は契約を解除でき、また損害賠償をとれる(同法570条・566条)。なお、これらの責任の多くは1年の除斥(じょせき)期間にかかる。
[淡路剛久]
売買には、現実売買(目的物と代金とが即時に交換されるもの)、試験売買(買い主が目的物を試験してみて、買うかどうかを決めるもの)、見本売買(見本によって売買契約を結ぶもの)、掛売り売買(代金の支払いを一定時期〈たとえば月末〉まで延ばすもの)、割賦売買(代金の支払いを何回かに分割して行うもの)などがある。
[淡路剛久]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…質取主は質物を保全する義務を負い,債務不履行の場合には一定の条件のもとに売却し,その代価をもって債務の弁済に充てる売却質を原則としたが,債権者に帰属する流質の慣行もあった。
[中世]
売買・貸借などの取引における担保・抵当を質といった。貸借において担保を必要としたことはいうまでもないが,中世には売買にも担保を必要とした。…
…平安期にみえてくる請作(うけさく)や後世の小作と比較的類似している。日本古代では,今日と違って売買と観念される行為には2種類あり,1年を限る売買と長期間にわたる永年を限る売買があった。田地・園地などの不動産では,前者を律令用語で賃租といい,賃租と対比される後者をふつう永売と呼んだ。…
…中世では沽券(こけん),沽却状(こきやくじよう),近世では売渡状(うりわたしじよう),売渡証文などと称する。 奈良時代には,公田の売買は禁止され,墾田・園地・宅地の売買は許された。その手続は,まず売主・買主間の売買合意書(辞状,解状(げじよう)などという)が土地所在地の郷長(ごうちよう)に提出され,郷長は審査のうえ,解状の形式でこれを郡へ,郡はこれを国へと上申する。…
※「売買」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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