公的年金である国民年金や厚生年金に上乗せし、将来の年金額を手厚くするために企業が私的に設ける年金制度。基本的に企業が掛け金を拠出し、信託銀行や生命保険会社が運用する。給付額があらかじめ保証されている「確定給付企業年金」と、従業員が運用方法を決め、結果次第で年金額が変動する「確定拠出年金」がある。
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企業が従業員の福利厚生の一環として任意に実施する私的年金。今日の先進諸国では、公的年金による基礎的保障に上乗せする役割を担う。日本の企業年金は、かつて一時金で支給していた退職金の一部または全額を年金化する過程で普及してきたもので、1962年(昭和37)の法人税法改正による税制適格退職年金制度および1965年の厚生年金保険法の改正による厚生年金基金制度(1966年実施)の創設を契機に、急速に普及した。その後、2001年(平成13)には確定拠出年金法(同年実施)および確定給付企業年金法(2002年実施)、2013年には公的年金制度の健全性および信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律、2016年には確定拠出年金法等の一部を改正する法律が制定され、企業年金を巡る環境の変化に対応した法制度の整備が行われた。退職一時金制度と比べた企業年金のメリットとしては、企業側からは、従業員の高齢化に伴う負担増の平準化(資金の事前積立)が図れることや、手厚い税制上の優遇措置が受けられること、従業員側からは、資金の外部積立により退職金が保全されること、などがあげられる。以下は、日本の主要制度の概要である。
[山崎泰彦 2023年6月19日]
あらかじめ給付額が定められている年金。英語のDefined Benefitの頭文字をとってDBとも略される。従来の厚生年金基金や税制適格退職年金などの確定給付型の企業年金では、企業倒産の際に年金資産が十分に確保されていないなどの問題があった。そのため、確定給付企業年金法により、確定給付型の企業年金について、積立基準、受託者責任、情報開示などの統一的な基準を定め、あわせて税制措置を行うこととした。また、厚生年金基金については、老齢厚生年金の代行を行わない企業年金への移行を認め、税制適格退職年金については、10年の経過措置を設けて廃止することとした。確定給付企業年金には「規約型」と「基金型」がある。規約型は、労使が合意した年金規約に基づき、企業と信託会社・生命保険会社などが契約を結び、母体企業の外で年金資金を管理・運用し、年金給付を行う。基金型は、母体企業とは別の法人格をもった基金を設立したうえで、基金において年金資産を管理・運用し、年金給付を行う企業年金である。
[山崎泰彦 2023年6月19日]
拠出された掛金が個人ごとに明確に分離され、掛金とその運用収益との合計額をもとに給付額が決定される年金。英語のDefined Contributionの頭文字をとってDCとも略される。確定拠出年金には、事業主が従業員を対象として実施する「企業型」と、国民年金基金連合会が自営業者、国民年金の第3号被保険者、企業の従業員(企業型確定拠出年金加入者については規約に定めた場合に限る)、公務員等共済加入者を対象として実施する「個人型」がある。拠出された掛金の運用の指図は加入者が自ら行い、転職した場合には年金資産を転職先の企業型年金や個人型年金に移管することができる。
[山崎泰彦 2023年6月19日]
事業主と従業員とで組織される特別の法人で、国の老齢厚生年金の報酬比例部分の一部を国にかわって支給(代行給付)し、企業独自の年金を上乗せする。1966年に創設されて以来、日本の企業年金の柱として順調に発展したが、1990年の平成バブル崩壊以降の運用環境悪化により、保有資産が代行給付の支給に必要な最低責任準備金に満たない「代行割れ」基金が増えた。そのため、2013年に制定された公的年金制度の健全性および信頼性の確保のための厚生年金法等の一部を改正する法律により、財政状況が一定の基準以下の基金については特例的な解散が認められることになり、他制度への移行や解散が進み、2022年(令和4)3月末現在で基金数5、加入者数約12万人となっている。
[山崎泰彦 2023年6月19日]
『日本年金数理人会編『企業年金マネジメント・ハンドブック――新企業年金法の重要テーマ解説』(2003・東洋経済新報社)』▽『森戸英幸著『企業年金の法と政策』(2003・有斐閣)』▽『坪野剛司編『総解説 新企業年金――制度選択と移行の実際』第2版(2005・日本経済新聞社)』▽『日本生命保険企業保険数理室編『年金制度設計ハンドブック――実務者のための確定拠出年金・キャッシュバランスプラン設計の手引き』(2005・東洋経済新報社)』▽『日本年金学会編『持続可能な公的年金・企業年金』(2006・ぎょうせい)』▽『井出正介・飛田公治監修・大和総研編『企業経営と年金マネジメント』(2006・東洋経済新報社)』▽『みずほフィナシャルグル―プ確定拠出年金研究会著『企業のための確定拠出年金』(2007・東洋経済新報社)』▽『久保知行著『わかりやすい企業年金』第2版(2009・日本経済新聞出版社)』▽『箱田順哉監修・宮田信一郎著『企業年金マネジメント』(2011・東洋経済新報社)』▽『みずほ総合研究所編著『図解 年金のしくみ』第6版(2015・東洋経済新報社)』
従業員の老後生活を安定させるために企業が支給する退職年金制度。欧米の企業年金の歴史は19世紀にさかのぼるが,広範に普及するようになったのは第2次大戦後である。初期の制度はホワイトカラーだけが対象であったが,現在はブルーカラーにも適用され,欧米各国ともに給料生活者の大部分にまで普及している。先進諸国ではどの国でも確立された社会保障制度があり,老後生活の基本的な部分は公的年金によって保障され,企業年金はそれを補足する制度である。アメリカで企業年金がリタイアメント・プランともいわれるように,企業側からみれば企業年金は引退制度である。すなわち,高齢で能率の低下した従業員に一定の収入を与えて円滑に退職させ,従業員の新陳代謝を図って企業の活力を維持するための方策である。労働の対価という観点からみれば,企業年金は賃金の一部が据え置かれて退職後に支給される据置賃金と考えられる。企業年金の給付は老後の生涯にわたって支給される老齢年金が主体であるが,そのほかに遺族年金,障害年金が支給されるものもある。近年の欧米では,公的年金が財政面から限界に達し,これを補足する企業年金の重要性が再認識されて,その育成強化が国の施策となり,国によっては企業年金の強制採用が計画されている。
日本の退職金は伝統的に一時金であるが,昭和20年代の末から30年代にかけて,アメリカの例を参考にして退職年金を支給する企業が生じてきた。この運営を円滑にするため,1962年に税制改正が行われ,アメリカにならった適格退職年金が生まれた。この適格年金の税制のもとでは,企業の掛金は損金となり,従業員への課税は退職して実際に給付を受け取るまで繰り延べられる。さらに66年には,当時のイギリスにならった厚生年金基金(調整年金)が生まれた。厚生年金基金では,厚生年金の給付の一部を代行するとともに,独自の年金給付を付加して支給する。適格年金では15人,厚生年金基金では500人が実施のために必要な最低人員である。現在,適格年金は適用企業数9万1465,加入人員1078万人(1996年3月末現在),厚生年金基金は基金数1878,加入人員1213万人(1996年3月末現在)となっている。労働省等の調査では,大企業では9割近く,中小企業でも4割から5割がなにかの企業年金を実施している。企業年金の運営には積立方式と非積立方式がある。大企業の一部では非積立ての自社年金もあるが,概して企業年金の運営は積立方式で,適格年金も厚生年金基金も,保険・信託の契約に基づき,定期的・計画的に掛金を積み立てている。厚生年金基金では,投資顧問による運用も行われている。
年金は老後保障の制度であるから,生涯支給される終身年金が望ましい。しかし日本では,終身年金は少なく,大部分が10年の有期年金であり,さらに年金に代えて一時金を受け取る一時金選択がきわめて多い。企業年金を採用する企業の動機は二つある。第1は老後の所得保障,第2は将来に備えて退職金の資金を積み立てておくことである(日本には退職一時金の資金を積み立てるための税制がないが,企業年金の形で積み立てれば有利となる)。初期の企業年金は概して退職金とは別の制度で,全額会社負担と労使の共同拠出制とがあったが,現在はほとんどが退職金の全部または一部の移行であり,年金の支給よりも退職金の資金積立てを目的としているものが多い。しかし企業によっては,設計に創意を加え,年金の受給を魅力あるものにして,年金選択を促進し老後保障の効果を高めているものもある。厚生年金基金では,給付は原則として終身年金である。
一般に退職給与の形態は,先進国は企業年金,それ以外の国は退職一時金である場合が多い。日本はその過渡期にあり,社会の変化に対応して,定年制の円滑な運営,厚生年金の補完などの機能をより適切に果たすために,退職金の年金化は今後も引き続いて進行すると思われる。
→退職金
執筆者:村上 清
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(原田英美 ライター / 2010年)
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…退職金は一括払いが原則であったが,1960年代から長期勤続者に対して年金形式で支払う制度が行われるようになった。退職金は,この時代から退職一時金と企業年金の2方法に分かれたのである。この企業年金に3種がある。…
…年金には,国が法律に基づいて行う公的年金と,民間で任意に行う私的年金がある。さらに私的年金には,企業が退職給与の一種として従業員に支給する企業年金と,生命保険会社等が個人を対象として行う個人年金とがある。
【公的年金】
公的年金は歴史的にみると二つの系譜がある。…
…高齢化社会の到来と公的年金の充実に限界が感じられてきたことから,補完的な老後保障として私的年金(保険)が注目を集めている。これには,企業が従業員の退職後の生活保障を行う企業年金保険と,個人が自助努力で加入する個人年金保険がある。企業年金は,その企業の消長とは関係なく確実に退職者に支払われるべきものであるので,生命保険会社等が各企業の定年退職者年齢にあわせて設計し,企業から受け取った保険料を効率的に運用している。…
※「企業年金」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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