日本大百科全書(ニッポニカ) 「マーシュの試験法」の意味・わかりやすい解説
マーシュの試験法
まーしゅのしけんほう
Marsh test
微量のヒ素の検出法。1836年イギリスのマーシュJames Marsh(1790/94―1846)によって創案され、鋭敏であると同時に簡便なので、当時大いに賞賛を博し、実用化された。容器に純粋な亜鉛塊を入れ、希硫酸を注ぐと水素を発生する。これにヒ素化合物を含む試料溶液を滴下する。そうするとヒ素化合物は水素により還元されて、水素化ヒ素(アルシン)を発生する。
AsO33-+3H2+3H+―→AsH3↑+3H2O
AsO43-+4H2+3H+―→AsH3↑+4H2O
この水素化ヒ素を塩化カルシウム管を通して乾燥したのち、硬質ガラス管に通す。ガラス管の中の空気が完全に置換されたら、これに点火し(空気が混じっていると爆発の危険がある)、冷えた白色磁器を炎に触れさせると、磁器の表面に黒色のいわゆるヒ素鏡を生じる。これは生成した水素化ヒ素が熱分解して単体のヒ素を生じるためである。
2AsH3―→2As+3H2
アンチモン化合物も同様に黒色のアンチモン鏡を生じるが、ヒ素鏡の場合、ヒ素は次亜塩素酸ナトリウムにより酸化されて溶けるのに対して、アンチモンは溶けないので、アンチモン鏡と区別できる。マーシュ法による検出限界は0.7マイクログラムである。なおヒ素鏡によるこの検出法をベルツェリウス‐マーシュBerzelius-Marshの試験法ということもある。水素化ヒ素はきわめて有毒であるから操作には注意を要する。
[成澤芳男]