日本大百科全書(ニッポニカ) 「みずうみ」の意味・わかりやすい解説
みずうみ
Immensee
ドイツの詩人シュトルムの初期の短編小説。1849年刊。このドイツ文学における珠玉の小品には、北ドイツはシュレスウィヒ・ホルシュタイン州独特の風物が醸し出す憂愁と孤独が、青春時代の夢のような恋物語のなかに、きわめて色濃く描き出されている。「晩秋のある日の午後、りっぱな服装を身に着けた1人の老人がゆっくりと町の通りを下って行った」という冒頭からもうかがえるように、この作品では前後約20年間のできごとが、1人の老人の回想の形で写実的に語られている。主人公ラインハルト・ウェルナーは、母と2人だけで暮らしている5歳年下のエリーザベトと楽しい幼年時代を過ごしたが、彼女の母の願いで、彼女は主人公の友人エーリヒと結婚することになる。インメン湖畔の2人の新家庭を訪れた主人公は、彼の青春時代の恋がもはや消えてしまったのを知るのである。
[石渡 均]
『関泰祐訳『みずうみ』(岩波文庫)』