改訂新版 世界大百科事典 「モノグラムの作家」の意味・わかりやすい解説
モノグラムの作家 (モノグラムのさっか)
monogramists
モノグラムによって知られる美術家のこと。ことに本名がモノグラムによってしか知られない作家。モノグラムとは頭文字だけか,数文字の組合せによって示される人名で,古くは古代の貨幣に保証用に刻印し,中世では封蠟の印章付指輪に用いられた。所有権,著作権の表現としての署名は,はじめは美術家の,職人から芸術家への社会的地位の変化の自覚と関係するもので,署名の省略されたモノグラムは過渡的現象とみられよう。モノグラミストは15世紀から17世紀にかけてドイツとネーデルラントの画家,版画家に比較的多い。初期の銅版画家E.S.の画家のように頭文字併記の場合やA.デューラーのA,Dの組合せ文字のような例のほかに,L.クラーナハ(父)の翼竜の記号やJ.deバルバリのヘルメスの杖カドゥケウス,小鳥のI.B.の画家のように簡単な記号図形やエンブレム(象徴図像)で表すものもモノグラミストに含める。18世紀の木工家具師,陶工,ガラス細工師など工芸家もモノグラムを用いるが,それは工房の記号のことがある。19世紀のラファエル前派やH.de T.ロートレック,ナビ派,クリムト,モンドリアンらが用いたものは,中世末への復古趣味と日本絵画の印章からの示唆だけでなく,面画の装飾的要素の一つとしてであった。
執筆者:坂本 満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報