ラファエル前派(読み)らふぁえるぜんぱ(英語表記)Pre-Raphaelite Brotherhood

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラファエル前派」の意味・わかりやすい解説

ラファエル前派
らふぁえるぜんぱ
Pre-Raphaelite Brotherhood

1848年、ロンドンで結成された若い芸術家のグループ。略称P・R・B。ロイヤル・アカデミー・スクールズの学生ウィリアム・ホルマン・ハントダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ジョン・エバレット・ミレイを中心にジェームズ・コリンソン、トーマス・ウールナー、フレデリック・ジョージ・スティーブンス、ウィリアム・マイケル・ロセッティ(弟)の7名で結成された。その名のとおり、ラファエッロ(英語名ラファエル)以降のアカデミックな芸術規範を退け、すなおな目で改めて自然に向かうことで、それ以前の画家の誠実さを取り戻そうとした。技法的には、当時の自然神学的な科学思潮を反映して、自然にしろ歴史の一場面にしろ、科学的な正確さと顕微鏡的な細密さが追究されている。また陽光の下での明澄色彩を再現するため、湿った白の下塗りの上にすこしずつ絵の具を置く手法も開発している。構想の面では、ラスキンの『近代画家論』第2巻(1846)などの影響から、タイポロジカル(予型論的)な意味合いの盛り込まれた宗教的主題の作品が多く制作された。ミレイの『両親の家のキリスト』(1850)などはその典型的な例である。

 1850年、彼らは副題に「詩、文学、美術における自然に対する諸考察」をうたう機関誌『ザ・ジャーム』を刊行。1853年ミレイがロイヤル・アカデミー准会員に選出されたことからグループの活動はほぼ実質的な終結をみた。その後、ハントやミレイの細密描写は、ジョン・ブレットやジョン・ウィリアム・インチボルドなどの風景画に引き継がれ、ロセッティの周りには、ウィリアム・モリスやE・バーン・ジョーンズのような中世趣味的な色合いの強いデザイナーや画家が集まった。

[谷田博行]

『レナート・バリルリ著、高階秀爾訳『現代の絵画4 ラファエル前派』(1974・平凡社)』『岡田隆彦著『ラファエル前派――美しき〈宿命の女〉たち』(1984・美術公論社)』『大原三八雄著『ラファエル前派の美学』(1986・思潮社)』『松浦暢著『宿命の女』(1987・平凡社)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ラファエル前派」の意味・わかりやすい解説

ラファエル前派
ラファエルぜんぱ
Pre-Raphaelite Brotherhood

プレ・ラファエライトともいう。 19世紀にラファエロ以前の絵画に戻ることを理想としたイギリスの画家集団。略して PRB。 1848年にロセッティ兄妹,W.ハント,J.ミレー,J.コリンソン,F.スチーブンズ,T.ウルナの7人により結成された。ビクトリア時代初期のアカデミックな虚構の世界に反抗し,ラスキンの唱える「自然への忠節」に従って,ルネサンス以前の素朴で謙虚な芸術の復興を試みた。細部の描写と輝くような色彩を特徴とし,新しい写実主義をもたらした。運動自体は短命であったが,イギリスのみならずヨーロッパ全体の美術,文学,詩の各分野に影響を与えた。

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