カトリック精神および象徴主義の色彩が強い,フランス19世紀末の画家グループ。1888年,パリのアカデミー・ジュリアンの画学生であったドニ,セリュジエを中心に形成された。〈預言者〉を意味するヘブライ語nāḇî’にちなんだグループ名はセリュジエの命名になる。最初のメンバーは上記2人のほか,ボナール,ビュイヤール,イベルHenri-Gabriel Ibels(1867-1936),ピオRené Piot(1869-1934),ランソンPaul Ranson(1864-1909),ルーセルKer Xavier Roussel(1867-1944)。その後,ラコンブGeorges Lacombe(1868-1916),リップル・ローナイJózsef Rippl-Rónai(1861-1927),マイヨール,バロットン,フェルカーデJan Verkade(1868-1946)等が加わった。1888年,ブルターニュのポンタベンで,ゴーギャンの指導のもとにセリュジエが描いた新奇な風景画習作--〈護符(タリスマン)〉と呼ばれる--は,印象主義を超える道を模索していたドニたちにとって大きな啓示であり,これがグループ形成の直接のきっかけとなった。以後,ナビ派の画家たちは,ゴーギャンないしポンタベン派の絵画観(総合主義Synthétisme)を都会風に洗練させ,隈取りのある平坦な色面を主にした装飾的画面を生みだすが,そこには本当の意味で独創といえるものはない。ナビ派の意義はむしろ,リュニェ・ポーの〈制作座〉の舞台装飾,《ルビュ・ブランシュ》誌のポスター,挿絵等,美術全般にわたる活動の多様さ--ほかにもステンド・グラス,モザイク,家具デザインを手がける--に求めるべきである。秘密結社風の集りを定期的にもち,毎年自分たちの展覧会を開いていたが,1900年以降は自然に解散していった。
執筆者:本江 邦夫
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19世紀末、ゴーギャンの美学に共鳴してパリで結成された、反自然主義の画家グループ。1888年の秋、ポール・セリュジエはブルターニュ地方のポンタバンで、ゴーギャンの革新的な教えに従って、大胆な色彩と平面的な描法による一枚の風景画を制作。その体験をパリに戻ってアカデミー・ジュリアンの若い画家たちに伝えたことに端を発して、新しいグループが形成された。セリュジエのほか、ドニ、ポール・ランソン、アンリ・イベルス、ボナール、ケル・グザビエ・ルーセル、ビュイヤールらがそのメンバーとなり、その後さらに、ヤン・フェルカーデ、彫刻家のジョルジュ・ラコンブ、リップル・ロナイ、当時画家であったマイヨール、バロットンらがそれに加わった。「ナビ」とはヘブライ語で「預言者」を意味するが、こうした一般には理解しがたいことばを名称とすることに、このグループの神秘主義的傾向をうかがうことができよう。事実、熱烈なカトリック信者であり、神智(しんち)学や神秘哲学に通じていたドニ、セリュジエ、ランソンらは、ナビ派の運動にとりわけ神秘的・宗教的趣(おもむき)を与えた。しかし、ボナール、ルーセル、ビュイヤールらはそうした傾向からやや距離を置いていた。ナビ派は1891年から99年にかけてル・バルク・ド・ブットビル画廊などでグループ展を開催。その美学は、ゴーギャンをはじめ、ルドンやピュビス・ド・シャバンヌ、さらには浮世絵版画などの影響を受け、反自然主義的・装飾的・象徴主義的なものであり、造形要素の自律性を強調した平面的で大胆な画面構成によって、近代絵画の基本的方向を示した。また彼らは雑誌『ルビュ・ブランシュ』とも関係をもち、絵画のみならず、ポスター、挿絵、舞台装置や衣装のデザインにも手を染めた。ナビ派の運動は世紀末の10年余り続き、その後、各作家はそれぞれ独自の道を歩んで、運動は自然解消した。
[大森達次]
『レナータ・ネグリ著、若桑みどり訳『現代の絵画8 ボナールとナビ派』(1974・平凡社)』
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…個々の画風の違いはあるものの,浮世絵版画,エピナル版画,ステンド・グラス等から想を得た〈クロアゾニスムcloisonnisme(区分主義)〉――隈取りのある平坦な色面を主体にした画面構成――により,宗教性と装飾性を調和させた内省的かつ音楽的な画面を目ざした点に大きな特徴がある。こうした絵画観はセリュジエを通じてドニをはじめとするパリの画家たちに受けつがれ,ナビ派の結成を促すことになった。【本江 邦夫】。…
※「ナビ派」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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