改訂新版 世界大百科事典 「モラドール」の意味・わかりやすい解説
モラドール
morador[ポルトガル]
〈居住者〉の意。ブラジルのファゼンダ,とくに北東部のサトウキビ大農場で農場内に居住する隷農を指す。歴史的には,17,18世紀,ブラジルの北東部の奴隷労働に基づく砂糖農園(エンジェーニョ)の成立,発展の過程で現れる。農場主を頂点とし,奴隷を底辺として構成される農場社会にあって,農業生産部門では,ラブラドールlavradorとモラドールは,主要な中間層を構成した。ラブラドールは,植民のための分与地(セズマリア)を入手し製糖場を建設するだけの資格または資金のない白人植民者(農場主の子息や兄弟であることが多い)で,農場内で借地しサトウキビ栽培を行う刈分農(分益農)である。それに対して,モラドールは,自由人化した混血者で,農場内に小土地を借り受け,家族で小住居を建て,自給生産を行う。女は農場主の家事労働,男は収穫,製糖などの繁忙期に労働を提供する。モラドールは,奴隷制度の廃止(1888)後は,北東部のサトウキビ農場の主要な労働形態の一つを示す語に転化した。つまり,現在,モラドールとは農場内に居住し,小土地を貸し与えられ,トウモロコシやキャッサバのような単期の自給作物を栽培し,金納で地代を支払い,そのうえに週に一定の日数農場主の直営地での労働,また家族は農場主の家の家事労働に従事することを義務づけられた隷農である。権利としての耕作権はほとんど認められていない。1963年の農村労働法施行後は,モラドールは農場外に追い出されて賃労働者への転化が進んでいる。
→ファゼンダ
執筆者:西川 大二郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報