改訂新版 世界大百科事典 「ユトレヒト詩篇」の意味・わかりやすい解説
ユトレヒト詩篇 (ユトレヒトしへん)
Utrecht Psalter
フランスのランス近郊オービレールHaut-villersで,820-830年ころ制作されたと推定される挿絵入り写本。いわゆる〈ランス派〉写本の一つ。現在ユトレヒト大学図書館に所蔵。旧約聖書の《詩篇》のほか,カンティクムCanticum(聖書中,《詩篇》以外に載せられた歌),使徒信条などを含む。豊富な挿絵は羽根ペンによる素描で,テキストを逐一,忠実に図解している。古代風の自然主義的風景や,躍動する人物像などの緊張とスピード感に満ちた描写は,カロリング朝美術の傑作に数えられる。その影響は,当時のヨーロッパ大陸のみならず,後にイギリスにも及んだ。イギリスへは原本が1000年ころまでに渡来して模写がなされ,それらの模写は大英博物館などに残存する。
執筆者:井手 木実
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報