改訂新版 世界大百科事典 「ラスール朝」の意味・わかりやすい解説
ラスール朝 (ラスールちょう)
Rasūl
イエメン地方を支配したイスラム王朝。1229-1454年。1229年,ウマル`Umar(在位1229-50)はアイユーブ朝より独立して,ザビードZabīdに首都を定め,メッカからイエメン,ハドラマウトに至る広大な領域を支配下に置いた。ラスール朝は,山岳部に勢力をもつザイド派の諸勢力やアラブ遊牧諸部族の侵略,エジプトのマムルーク朝軍隊のイエメン遠征などによって,たえずその存亡の危機に陥った。それにもかかわらず同朝の政権が200年以上に及ぶ長期にわたって存続しえたのは,バーブ・アル・マンデブ海峡やアデン,シフルなどの国際運輸と貿易活動の重要拠点を管理・統制下に収めて豊かな財政収入を得ていたからである。スルタン,ザーヒルal-Ẓāhir(在位1428-39)の後,後継政権をめぐって王族や軍閥が激しく対立・抗争し無政府状態になった。このなかで,軍閥ターヒルṬāhir家は諸勢力を結集し,1454年にはラスール朝の最後の拠点アデンを包囲攻撃。ラスール朝最後のスルタン,マスウードal-Mas`ūdはイエメンを逃れインドのキャンベイに亡命したといわれる。
執筆者:家島 彦一
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