日本大百科全書(ニッポニカ) 「リン酸形燃料電池」の意味・わかりやすい解説
リン酸形燃料電池
りんさんがたねんりょうでんち
phosphoric acid fuel cell
電解質に蒸気圧の低い約100%濃度の濃厚リン酸水溶液を用いる燃料電池で、オンサイト発電(電力の必要なところで発電を行うこと)用として開発・試験が行われている。リン酸は180~210℃の作動温度で熱的、化学的に安定で、長時間の使用に耐える。正負両極はカーボンペーパー表面に白金や白金‐クロム合金触媒を担持した炭素粉末とポリテトラフルオロエチレン粉末との混合物を塗布し、燃成することにより作成したガス拡散電極である。また電解質には炭化ケイ素粉末とポリテトラフルオロエチレン粉末との混合物より作成したマトリックス中に濃厚リン酸水溶液を含浸させたものを用いる。このマトリックスの両面に正負両極を圧着し、さらにその上に多孔性炭素板を密着させ、黒鉛製インタコネクタにより電池スタックとする。インタコネクタ両面には燃料ガスと空気(酸素)をそれぞれ供給するための溝がある。単電池の常圧作動特性は250mA/cm2、0.65~0.70ボルト程度である。
都市ガスなどの水蒸気改質ガスを燃料に用いる場合、約200℃で作動させるので、1%ほどの一酸化炭素が含まれていても触媒がほとんど被毒しないという利点がある。また電解質が濃厚リン酸水溶液であるため燃料ガスに二酸化炭素が含まれていても使用できる。
オンサイト形燃料電池は、都市ガスを用いる100~200キロワットのものが実用レベルに達している。エネルギー効率は常圧作動で約40%であるが、加圧すれば2~3%向上させることができる。また熱電併給形として電力とともに温水と水蒸気を利用することによって、総合的な変換効率として約80%が達成されている。しかし、小容量の分野では固体高分子形燃料電池の使用が計画されており、大形の電気事業用のものは発電効率のよい溶融炭酸塩形燃料電池の開発へとシフトしている。
[浅野 満]
『電気学会燃料電池運転性調査専門委員会編『燃料電池発電』(1994・コロナ社)』▽『榊原健樹編著『電気エネルギー基礎』(1996・オーム社)』▽『小久見善八編著『電気化学』(2000・オーム社)』▽『電気化学会編『電気化学便覧』(2000・丸善)』▽『電池便覧編集委員会編『電池便覧』(2001・丸善)』▽『池田宏之助編著『燃料電池のすべて』(2001・日本実業出版社)』▽『『燃料電池の開発と材料――開発動向と特許展開』(2002・シーエムシー出版)』▽『広瀬研吉著『燃料電池のおはなし』(2002・日本規格協会)』▽『電気学会燃料電池発電次世代システム技術調査専門委員会編『燃料電池の技術』(2002・オーム社)』