日本大百科全書(ニッポニカ) 「リードマン」の意味・わかりやすい解説
リードマン
りーどまん
Sara Adela Lidman
(1923―2004)
スウェーデンの女性作家。北部スウェーデンのべステルボッテン地方出身。初期の4作品『タールの谷』Tjärdalen(1953)、『ほろむい苺(いちご)の里』Hjortronlandet(1955)、『雨告げ鳥』Regnspiran(1958)、そして『ヤドリ木を運ぶ』Bära mistel(1960)では、自身の郷里である北部スウェーデンの寒村に題材を求め、そこでの人々の道徳的葛藤(かっとう)をきわめて方言色の強いことばで描き高い評価を得た。『アイーナ』Aina(1956)など戯曲も手がけたが、1960年代にはアフリカ、アジアを旅して、国際政治に強い関心を抱く痛烈な社会批評家となった。その結果、アフリカの黒人問題を扱った『私と息子』Jag och min son(1961。南アフリカについて)、『五つのダイヤモンドと共に』Med fem diamanter(1964。ケニアについて)、またベトナムの人民解放戦線運動への関与を表したルポルタージュ『ハノイでの対話』Samtal i Hanoi(1966)を世に問うた。視点を母国に移して1968年に著した『鉱山』Gruvaでは、同年の鉱山労働者ストライキ直前の国営企業LKAB(エルコーアーベー)の状況を描き、60年代後半のスウェーデン・アンガージュマン文学の一翼を担った。しかし、70年代からはふたたび小説で自らの郷里に立ち返り、北部スウェーデンの困窮と苦難を扱った壮大な年代記『汝(なんじ)の僕(しもべ)は聞く』Din tjänare hör(1977)、『怒りの子』Vredens barn(1979)、『ナーブトの石』Nabots sten(1981)、『素晴らしき男』Den underbare mannen(1983)、『鉄の冠』Järnkronan(1985)の五部作を発表し、現代スウェーデン文学を代表する地位を築いた。その後の作品に『無垢(むく)の瞬間』Oskuldens minut(1999)がある。
[山下泰文]