タール(読み)たーる(英語表記)tār ペルシア語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「タール」の意味・わかりやすい解説

タール(動物)
たーる
tahr

哺乳(ほにゅう)綱偶蹄(ぐうてい)目ウシ科タール属に含まれる動物の総称。その属名Hemitragusが「半ヤギ」を意味するように、ヤギとヒツジの中間の野生種3種が属する。カシミールからブータンまでのヒマラヤを中心に分布するヒマラヤタールH. jemlahicusは単にタールともいい、標高3000~3600メートルの急峻(きゅうしゅん)な森林に生息する。肩高90~100センチメートルで雌雄ともに角(つの)がある。角は曲がりに沿って30~38センチメートルで黒色。頭頂から後方に弓形に曲がり、その前面の縁は鋭く、雌の角はやや短い。体毛は密で、頭部では短いが頸(くび)、胸、肩のたてがみ状の毛は粗で長く、かかとに達する。体色は暗褐色または赤褐色で背に黒い筋(すじ)があり、顔と前後肢の前面は黒い。森や茂みの急峻な斜面を好み、群れをなすが、夏の間は雄が群れから離れる。6、7月ごろ1子を産む。乳頭は4個である。インドに分布し、タールでは最大のニルギリタールH. hylocriusは、毛が短く乳頭は2個しかない。アラビアには小形種アラビアタールH. jayakariがある。あとの2種は国際保護動物である。

[北原正宣]


タール(油状物質)
たーる
tar

有機物の熱分解によって生成する褐色から黒色の粘稠(ねんちゅう)性油状物質の総称。木(もく)タール、石油ピッチなどがあるが、狭義には石炭の乾留で得られるコールタールをさす。タールの組成・性状は原料により異なるが、多環縮合芳香族化合物を基本とし、これに少量の硫黄(いおう)、窒素、酸素、灰分などを含む。防腐剤、塗料などに用いられるが、もっとも重要なのは芳香族系化学原料としての用途で、石炭化学工業はコールタールから、有用な化学物質を得ることを出発点として発展した。

[田上 茂]


タール(楽器)
たーる
tār ペルシア語

イランからカフカスにかけて用いられるリュート属撥弦(はつげん)楽器。おもに古典音楽の歌唱伴奏に使われ、語義は「弦」。木製共鳴胴は2個の心臓を連結したような独特の形をしており、表面には羊の皮膜が張られている。60センチメートルほどの長い棹(さお)には25本の羊腸製可動フレットが巻かれ、1オクターブが15の微小音程に分割される。6本の金属弦の標準的調弦はC3―C4―G3―G3―C4―C4だが、用いる旋法によってしばしば変えられる。真鍮(しんちゅう)製のプレクトラム(義甲)を用いたトレモロ奏法や、左手の指で棹上の弦をたたいたりはじいたりする技法によって、歌唱旋律をなぞったり微細な装飾を加えたりする。

[山田陽一]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タール」の意味・わかりやすい解説

タール
tār

楽器の一種。イランとアゼルバイジャン,アルメニア,ウズベキスタン,タジキスタン,トルクメニスタン,ジョージア(グルジア)などコーカサスの諸国で用いられる撥弦楽器。長い棹には羊腸弦を巻いた可動フレットがあり,先端には糸蔵がついている。くびれのある独特な形の刳 (く) り木の胴の腹面には薄い小羊の皮膜が張られる。金属製の小さな撥 (ばち) でトレモロを重用して弾く。弦数は地域によって異なるが,今日イランの古典音楽で用いられるタールは3コースの複弦 (金属弦) になっている。本来,弦楽器を意味するペルシア語から来ており,今日,中央アジアの音楽では最も重要な撥弦楽器としてドタール (2弦) とともに普及している。

タール
Tearle, Sir Godfrey Seymour

[生]1884.10.12. ニューヨーク
[没]1953.6.8. ロンドン
イギリスの俳優。俳優オズモンド・タール (1852~1901) の子。 1893年子役としてデビューして以来,父の死の年までその劇団に出演。 1904~06年自身の劇団を結成して地方を巡業,シェークスピアの作品や O.ゴールドスミスの『負けるが勝ち』などを上演。 08年 H.B.トリーのハー・マジェスティーズ劇場へ出演し,その後ロンドンの劇界で活躍。オセロ,ハムレット,アントニーなどを得意とした。

タール
tar

石炭,石油,木材のような炭素化合物を熱分解するとき残留する黒ないし褐色の油状瀝青物質の総称。石炭の乾留で得られるコールタールはその代表的なものである。再蒸留して各成分に分けて合成化学工業の原料に使われるほか,そのままで塗料,燃料にも使われる。コールタールのほかに,頁 (けつ) 岩タール,木タール,オイルガスタール (石油のガス化副産物) ,石油タールなどがある。

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